東大就職研究所 著
扶桑社新書 798円
変わった就活本が出た。編集者は2008年に東大を卒業した女性。就活は惨憺たるもので、2勝58敗。2勝の一つが扶桑社だった。取材・執筆したのは、東大4年生3人と3年生1人の計4人だ。現役の学内ネットワークを活かして、就活経験のある現役東大生192名からアンケートを集め、インタビューした内容を考察し、単行本にまとめている。
扶桑社新書 798円
変わった就活本が出た。編集者は2008年に東大を卒業した女性。就活は惨憺たるもので、2勝58敗。2勝の一つが扶桑社だった。取材・執筆したのは、東大4年生3人と3年生1人の計4人だ。現役の学内ネットワークを活かして、就活経験のある現役東大生192名からアンケートを集め、インタビューした内容を考察し、単行本にまとめている。
192名を少ないと思う人がいるかもしれない。しかし東大の学部卒業生は1000人強しかいない。5人に1人なら母数として十分だと思う。発行は3月1日。岩波書店の「縁故採用」まで取り上げており、内容は新しい。
第一章「東大最強「新」学歴社会の真実」では、本書の問題意識が冒頭に綴られている。不況による厳選採用、グローバル化に向けた国際人材の採用と言われているが、「企業社会はいったい学生にどのような力を求めているのか」がわからない。そこで「内定とれない学生」が落とされた理由を探ろうというのだ。足りないと判断された学生の「人間的な魅力や能力」を調べ、「企業社会が求める力の正体」を明らかにしようと言うのだ。
この章では東大生以外の人物が登場する。東大就職研究所の学生たちの質問に答えているのはHRプロ代表の寺澤だ。ターゲット大学の実態とターゲット校を設定せざるを得ない理由、学生のストレス耐性が低い理由、学歴フィルターの仕組みなどがわかる。新任の採用担当者にも有益な解説かもしれない。
就活での行動分析で興味深い結果が出ている。「会社選びのポイント」で、就活不満組は「知名度」と「給料」で選ぶ傾向がある。「エントリー数(プレエントリーを除く)」では、就活満足組のエントリー数が少ないことがわかる。不満組のエントリー数は多いが、その理由を東大就職研究所は、「事業内容ではなく、会社の表面的なイメージを重要視するミーハーな就活をしているからこそ、エントリー数が多くなるのだろう」と解説している。
企業との接触では、就活満足組は就活サイトに頼らず、OB・OG訪問やインターンシップの参加に積極的である。逆に不満組は就活サイトを利用する傾向が強い。
また就職満足組は学生生活についての質問で「授業も学校生活も楽しい」と答えた人が多い。
本書はインタビューとアンケートを分析することによって、就活で苦労する人の2つの特徴にたどり着いている。ひとつは「将来に対する考え方が浅く、会社選びもミーハー」。もうひとつは「人とかかわるのが苦手、もしくは好きではなく、面接も苦手」。
前者は必ずしも「ない内定」学生に限られるものではないから、後者が就活の成否を分けているのだ。世間ではこの能力をコミュニケーション能力と呼んでいる。
東大就職研究所は、コミュニケーション能力の中身を2つに分解している。ひとつは論理的に話す力だ。志望動機がしっかりしていて、アピールするだけの経験があっても、きちんと人に伝える力がなければ話にならない。
もうひとつは非言語コミュニケーションだ。「見た目」と言い換えてもいい。「メラビアンの法則」をご存じの方は多いと思うが、相手に伝わる情報のうち、話す言葉の内容は7%。残り9割は、口調や早さなどの聴覚情報が38%で、見た目などの視覚情報が55%だ。この法則がどんなシーンでも通用するとは思えないが、視覚や聴覚の印象は確かに大きいだろう。
しかしこれらはほんとうの結論ではない。続いて重要なキーワードが登場する。「謙虚さ」だ。「謙虚さ」は「自分に自信がない」という意味ではなく、「大人」になれているかどうかという意味だ。社会や仲間とのかかわり合いの中で、自分のことを理解し、背伸びをせず、興味関心と適性のバラスを考えられる人。そしてチャレンジすることで、成功や失敗を経験し謙虚さが養われていく。
就活で「謙虚さ」という言葉が使われることはまれであり、東大就職研究所の指摘は新鮮に響く。
本書は、学生が就活経験学生を対象に調査した珍しい本だ。アンケートデータが豊富でインタビュー量も多い。また学生たちが取材執筆している点も異色である。
終章では重要な提言を行っている。採用実績や入社後3年以内の離職率の公開がいまの就活サイトでできないのなら、行政が公的な就活サイトを創設すべきだと主張している。また新卒採用は大学3年の夏に解禁せよと主張し、総合職も解体すべきだと言っている。これらの提言は妄言ではなく、しっかりとした理由がある。理由を知りたい人は、本書を読んでもらいたい。
第一章「東大最強「新」学歴社会の真実」では、本書の問題意識が冒頭に綴られている。不況による厳選採用、グローバル化に向けた国際人材の採用と言われているが、「企業社会はいったい学生にどのような力を求めているのか」がわからない。そこで「内定とれない学生」が落とされた理由を探ろうというのだ。足りないと判断された学生の「人間的な魅力や能力」を調べ、「企業社会が求める力の正体」を明らかにしようと言うのだ。
この章では東大生以外の人物が登場する。東大就職研究所の学生たちの質問に答えているのはHRプロ代表の寺澤だ。ターゲット大学の実態とターゲット校を設定せざるを得ない理由、学生のストレス耐性が低い理由、学歴フィルターの仕組みなどがわかる。新任の採用担当者にも有益な解説かもしれない。
就活での行動分析で興味深い結果が出ている。「会社選びのポイント」で、就活不満組は「知名度」と「給料」で選ぶ傾向がある。「エントリー数(プレエントリーを除く)」では、就活満足組のエントリー数が少ないことがわかる。不満組のエントリー数は多いが、その理由を東大就職研究所は、「事業内容ではなく、会社の表面的なイメージを重要視するミーハーな就活をしているからこそ、エントリー数が多くなるのだろう」と解説している。
企業との接触では、就活満足組は就活サイトに頼らず、OB・OG訪問やインターンシップの参加に積極的である。逆に不満組は就活サイトを利用する傾向が強い。
また就職満足組は学生生活についての質問で「授業も学校生活も楽しい」と答えた人が多い。
本書はインタビューとアンケートを分析することによって、就活で苦労する人の2つの特徴にたどり着いている。ひとつは「将来に対する考え方が浅く、会社選びもミーハー」。もうひとつは「人とかかわるのが苦手、もしくは好きではなく、面接も苦手」。
前者は必ずしも「ない内定」学生に限られるものではないから、後者が就活の成否を分けているのだ。世間ではこの能力をコミュニケーション能力と呼んでいる。
東大就職研究所は、コミュニケーション能力の中身を2つに分解している。ひとつは論理的に話す力だ。志望動機がしっかりしていて、アピールするだけの経験があっても、きちんと人に伝える力がなければ話にならない。
もうひとつは非言語コミュニケーションだ。「見た目」と言い換えてもいい。「メラビアンの法則」をご存じの方は多いと思うが、相手に伝わる情報のうち、話す言葉の内容は7%。残り9割は、口調や早さなどの聴覚情報が38%で、見た目などの視覚情報が55%だ。この法則がどんなシーンでも通用するとは思えないが、視覚や聴覚の印象は確かに大きいだろう。
しかしこれらはほんとうの結論ではない。続いて重要なキーワードが登場する。「謙虚さ」だ。「謙虚さ」は「自分に自信がない」という意味ではなく、「大人」になれているかどうかという意味だ。社会や仲間とのかかわり合いの中で、自分のことを理解し、背伸びをせず、興味関心と適性のバラスを考えられる人。そしてチャレンジすることで、成功や失敗を経験し謙虚さが養われていく。
就活で「謙虚さ」という言葉が使われることはまれであり、東大就職研究所の指摘は新鮮に響く。
本書は、学生が就活経験学生を対象に調査した珍しい本だ。アンケートデータが豊富でインタビュー量も多い。また学生たちが取材執筆している点も異色である。
終章では重要な提言を行っている。採用実績や入社後3年以内の離職率の公開がいまの就活サイトでできないのなら、行政が公的な就活サイトを創設すべきだと主張している。また新卒採用は大学3年の夏に解禁せよと主張し、総合職も解体すべきだと言っている。これらの提言は妄言ではなく、しっかりとした理由がある。理由を知りたい人は、本書を読んでもらいたい。
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