講師
古野 了大氏
株式会社ビズリーチ HRMOS採用管理事業部 事業部長
神戸大学工学部卒業後、大手教育関連企業にて、新規事業開発やデジタル領域の教育サービス開発に携わる。2015年にビズリーチ入社。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」のマーケティング・プロダクト開発責任者を経て、現在は、戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)採用管理」の事業責任者を務める。
人材獲得競争の時代に求められる採用マーケティング
“マッキンゼー式”の人材獲得・育成競争について記した『ウォーフォータレント』には、人材こそが企業の業績を押し上げる要因であり、人材の獲得競争および育成競争の時代が到来するであろうと書かれています。そのなかでどのような方針を持って、どのような人材を引きつけ、どう育てていくかが企業の重要な課題である、と。マネジメント人材の充実を重視し、CEOが採用要件の決定に関わっている企業は平均よりも高い成長率を示しているという調査結果があるそうです。経営戦略を実現するのは人材ですから、採用は経営と同義であると理解しても良いのではないでしょうか。採用は将来どうなっていくのかについて、リンクトインが『リクルーティングイン2020』というテーマでブログを公開しています。そこでは採用の未来について三つの変化が起きるといわれています。一つ目はテクノロジーの進化によって求職者と企業のマッチングがより適切になっていくということ、二つ目は感覚に頼るのではなくデータに基づいた採用になっていくということ、三つ目は人材をターゲティングして効果的なメッセージを発信するためのプラットフォームの構築が必要になってくるということです。
この三つ、実はマーケティングの活動そのものです。消費者マーケティングでは、商品を認知してもらい、興味を持ってもらい、行動に移してもらい、さらにユーザーになってからはリピートをしてもらい、ファンになってもらい、クチコミをしてもらい、周囲にファネルを広げていきます。これを採用活動に当てはめると、潜在的な求職者に会社のことを認知をしてもらい、興味を持ってもらい、実際にいろいろな会社を検討・比較してもらい、さらに入社後は自社の魅力を周囲に広めてもらうという具合に消費者マーケティングと同じモデルを当てはめることができます。
さらに、フィリップ・コトラー氏は、2016年の著書『Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital』のなかで、“マーケティング4.0”の世界では商品やサービスを通じて消費者にどう自己実現してもらうかが重要になるといっています。採用に置き換えると、入社した従業員が、どのように自己実現(活躍)してもらうかが大切であるということです。というのも、SNSやクチコミサイトを通じて従業員が社外に会社の情報を発信するようになっており、こうしたクチコミが潜在的な求職者にメッセージとして伝わっていくと考えられるからです。
こういった考え方が今“採用マーケティング”として注目を集めるようになってきています。
海外における採用マーケティングの状況
海外の採用マーケティングの事例を二つご紹介します。ひとつはメーカー企業の事例です。同社では自社の魅力を伝えるためのイメージ動画を公開しています。これは顕在化している求職者のスクリーニングであり、潜在層へのブランディングです。さらに、タレントプールも活用しています。採用サイトを通じてタレントプール登録してもらうと、今回の採用が見送りになったとしても、他の採用ニーズが生じた際にすぐに声をかけられるようになります。
採用の現場でよくあるのが、タイミングによってマッチングが成立しないケースです。今この瞬間は採用の枠がない、ポジションがない、あるいは候補者のほうで「このプロジェクトが終わるまでは転職を控えよう」といったこともあります。こうしたケースに対してタレントプールを用意しておくことで、求職者と長期的に接点を持つことが可能になり、別の採用機会に効率的なアプローチができるようになります。
二つ目の事例はIT企業です。この企業は、中途社員の約半数がリファーラルで入社しています。リファーラル採用も採用マーケティングにおける重要なチャネルの一つです。特徴的なのは人事部門が従業員満足を強く意識し、採用の時点から社員を幸せにすることを最上位に掲げているといる点。先ほどのマーケティングのファネルを踏まえた組織設計であるといえるでしょう。
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