現状、人事部門の成果について、自分たちの物差しによる評価にとどまっており、経営的な観点で成果をみる科学的な評価がなされていない企業が多いのではないか。また、HRテックなどを背景に、人に関する様々な情報資源を科学的に活用する動きもある。いま、人事部門の評価や役割を「科学」の観点から問い直すことが求められている。
業務の”部分的”科学という実態
企業経営の根幹を支える人事に目を向けてみると、その役割は、必要な人材を定義し、集め、束ね、活躍を促進し、適切な評価と処遇をすることにある。では、そのメカニズムはどこまで科学できているだろうか。10年先を担う人事は、科学的なアプローチによって「コストセンターからプロフィットセンターへ」と意識を変えていくことがポイントになるのではないかと考える。当然のことではあるが人事部は、経営が示す方針と事業部門のニーズに折り合いをつけることに奔走している。そのため、予算(コスト)を最大限活用することで、人事としての機能を満たすという受動的な姿勢が当り前と化している。結果、自らの活動がどの程度ビジネスの成果(プロフィット)に寄与したかに目を向けていない。「今月の採用目標人数を達成しました」と報告できても「人材の質はどの程度高まっており、いつから収益に貢献してくれるのか?」というラインマネジャーの問いには答えられない。あるいは「長時間労働が是正されました」と報告できても「営業利益率や資本回転率にどの程度の影響を与えたのか?」という経営者の関心には思考が及ばない。
かつての私自身の経験にも当てはまるが、自分たちの業務、あるいは自分たちの物差しで見た成果に対するパフォーマンスの評価はするものの、その先にある事業部門、経営の物差しで見た評価には至らないケースが多い。言わば、”部分的”な科学をしているというのが多くの企業に当てはまる実態ではないだろうか。
データサイエンス・AIは人事を変えるか
幸いにして、人事には追い風も吹いている。「人」に関わるあらゆる情報が存在するのだ。日々の勤怠情報に始まり、オンライン・オフラインそれぞれのアセスメント結果、人事考課情報、あるいは組織診断ツールの結果、採用市場・労働市場のトレンド情報など実に様々な情報資源が眠っている。また、人工知能を活用したアプローチも勃興しつつある。一例として、スタートアップのHuRAid(フレイド)は勤怠データを人工知能に学習させることで高精度で退職予測をするサービスを開発した。(*)一部の人事先進企業やHRTech関連のサービスベンダーでは、こういった科学的なアプローチによって、ビジネスに直接的なインパクトを与えようとする動きが始まっているのだ。
今一度人事の果たすべき役割を科学という切り口で問い直す時が来ているのではないだろうか。
*『的中率90%、「退職予測」AI開発者の思い』Forbs Japan(2017年5月21日)
パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部 アソシエイト
庄司 峻也
庄司 峻也
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