楠木 新著
日経プレミアシリーズ 893円
日経プレミアシリーズ 893円
タイトルから、人事部がスパイ組織のように社員を監視している内容の本と思う人がいてもおかしくないが、本書は人事の役割について述べた本である。良書だと思う。
「人事部は見ている。」という刺激的なタイトルは、人事部を他の部署に入れ替えると成立しない。「総務部は見ている。」「営業部は見ている。」では迫力がない。人事部だから成立するタイトルだ。たぶん「人事部」は社員から遠く、秘密めいた印象があるからだと思う。
著者は、人事部がそのように見られていることを承知の上で、人事部が実際にどういう役割を果たしているのかを解説し、次第に内容が深まっていく。そしてなぜある人が昇進し、トップに立つのかという組織内の力学、親和力の本質を語っていく。
あまり語られたことがない内容だが、30代以上の組織人なら納得し、これまで釈然としなかった組織内評価について新しい知見を得るだろう。
人事の人間は、自分の業務の本質を再認識するだろうし、ビジネスマンは組織内の心理学を違う角度から学び直すことができる。
6月15日の発行から売れ続けているそうだが、それだけの価値のある本である。
「人事」と一口に言っても、たくさんの仕事がある。本書は第一章「人事は何をやっているのか」で主な仕事を挙げ、その仕事の特徴を以下のページで解説している。そして著者は、仕事の性質によって担当者に「タイプ」があると書いている。面白いので紹介しておこう。
●「異動や考課」を担当する人事部員は、コミュニケーション能力とバランス感覚にすぐれた人が求められる。姿勢が真摯で誰に対しても公平であること、またそのように外部から「見えること」が大切だ。
●「労働条件」を担当するには、労働協約や就業規則を管理し、労働法規に関する判例も理解しておく必要がある。過去のいきさつや実際の運用事例も把握する必要があり、一人前になるには一定の時間を要する。
●「人事制度の企画・立案」をする人は概念的な思考を好む傾向がある。
●「採用」を担当する人事部員は、明るくて、感じのいい人が多い。採用担当者の魅力が、応募者を惹きつける要素になるからだ。
●「研修」を担当する人事部員は、明るくて人懐っこいタイプが多い。
第二章「考課と異動の不満の矛先」では、考課や異動で必ず不満が出る理由を指摘している。「人は自分のことを3割高く評価している」から誰だって不満を持つ。評価する側と評価される側にもともとギャップが存在している。
人事が公平に考課しても、社員は公平と感じないのだ。
第三章「社員の「情報」を集めるルール」では、「人事部の機能は担当する社員数に規定される」という命題が語られている。著者は大企業に勤めた30年のうち、人事部の仕事に通算11年間携わり、4つの職場を経験している。
まず3000名の社員を対象とする本社人事部(課長代理)に2年、次に支店の人事管理機能を持つ次長職(80名が対象)を4年、そして100名の専門職を担当する人事課長を3年、最後に300名の関連会社の人事担当部長を2年だ。
この経験から著者は、「担当する社員の顔を知り、かつある程度の行動予測ができるのは、最大でも300が限度」という法則を導き出す。著者は、この法則を何人かの人事担当者にヒアリングしており、「同期生が300名を超える年次では、互いに顔を見ても分からないので、いつまでたっても動機意識が芽生えない」という大手メーカー人事担当者の証言も紹介されている。
第四章「人事部員が見た出世の構造」では日本企業における「評価」が論じられており、知らなかったこと、気づかなかったことがたくさん書かれている。たとえば社員の位置づけだ。社員は、代理店、顧客、仕入れ先と同じく、会社と契約関係で結ばれた外部者だ。ところが日本では、社員は会社内部の構成員という意識が強い。これは新鮮な指摘だと思う。
大企業における課長クラス以上の「出世の条件」についても書かれている。昇進の階段を上るための重要条件は「(結果として)エラくなった人」と出会い、「同じ部署に在籍した」「仕事を一緒にした」「ゴルフを何回も一緒にグランドした」など、同じ時間、空間を共有することだそうだ。
もちろん一緒に仕事をしたすべての社員が出世するわけではないが、エラくなった人と出会わなければ出世の必要条件を満たさない。
わたしは採用系の業務で30年のキャリアがあるが、本書を読んで人事部についてほとんど知らなかったことに気づいた。まことに人事には多様な業務がある。 著者は、大企業での人事経験から導いた法則を書いているが、出世の法則などは中堅・中小企業でも通用しそうである。
(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)
「人事部は見ている。」という刺激的なタイトルは、人事部を他の部署に入れ替えると成立しない。「総務部は見ている。」「営業部は見ている。」では迫力がない。人事部だから成立するタイトルだ。たぶん「人事部」は社員から遠く、秘密めいた印象があるからだと思う。
著者は、人事部がそのように見られていることを承知の上で、人事部が実際にどういう役割を果たしているのかを解説し、次第に内容が深まっていく。そしてなぜある人が昇進し、トップに立つのかという組織内の力学、親和力の本質を語っていく。
あまり語られたことがない内容だが、30代以上の組織人なら納得し、これまで釈然としなかった組織内評価について新しい知見を得るだろう。
人事の人間は、自分の業務の本質を再認識するだろうし、ビジネスマンは組織内の心理学を違う角度から学び直すことができる。
6月15日の発行から売れ続けているそうだが、それだけの価値のある本である。
「人事」と一口に言っても、たくさんの仕事がある。本書は第一章「人事は何をやっているのか」で主な仕事を挙げ、その仕事の特徴を以下のページで解説している。そして著者は、仕事の性質によって担当者に「タイプ」があると書いている。面白いので紹介しておこう。
●「異動や考課」を担当する人事部員は、コミュニケーション能力とバランス感覚にすぐれた人が求められる。姿勢が真摯で誰に対しても公平であること、またそのように外部から「見えること」が大切だ。
●「労働条件」を担当するには、労働協約や就業規則を管理し、労働法規に関する判例も理解しておく必要がある。過去のいきさつや実際の運用事例も把握する必要があり、一人前になるには一定の時間を要する。
●「人事制度の企画・立案」をする人は概念的な思考を好む傾向がある。
●「採用」を担当する人事部員は、明るくて、感じのいい人が多い。採用担当者の魅力が、応募者を惹きつける要素になるからだ。
●「研修」を担当する人事部員は、明るくて人懐っこいタイプが多い。
第二章「考課と異動の不満の矛先」では、考課や異動で必ず不満が出る理由を指摘している。「人は自分のことを3割高く評価している」から誰だって不満を持つ。評価する側と評価される側にもともとギャップが存在している。
人事が公平に考課しても、社員は公平と感じないのだ。
第三章「社員の「情報」を集めるルール」では、「人事部の機能は担当する社員数に規定される」という命題が語られている。著者は大企業に勤めた30年のうち、人事部の仕事に通算11年間携わり、4つの職場を経験している。
まず3000名の社員を対象とする本社人事部(課長代理)に2年、次に支店の人事管理機能を持つ次長職(80名が対象)を4年、そして100名の専門職を担当する人事課長を3年、最後に300名の関連会社の人事担当部長を2年だ。
この経験から著者は、「担当する社員の顔を知り、かつある程度の行動予測ができるのは、最大でも300が限度」という法則を導き出す。著者は、この法則を何人かの人事担当者にヒアリングしており、「同期生が300名を超える年次では、互いに顔を見ても分からないので、いつまでたっても動機意識が芽生えない」という大手メーカー人事担当者の証言も紹介されている。
第四章「人事部員が見た出世の構造」では日本企業における「評価」が論じられており、知らなかったこと、気づかなかったことがたくさん書かれている。たとえば社員の位置づけだ。社員は、代理店、顧客、仕入れ先と同じく、会社と契約関係で結ばれた外部者だ。ところが日本では、社員は会社内部の構成員という意識が強い。これは新鮮な指摘だと思う。
大企業における課長クラス以上の「出世の条件」についても書かれている。昇進の階段を上るための重要条件は「(結果として)エラくなった人」と出会い、「同じ部署に在籍した」「仕事を一緒にした」「ゴルフを何回も一緒にグランドした」など、同じ時間、空間を共有することだそうだ。
もちろん一緒に仕事をしたすべての社員が出世するわけではないが、エラくなった人と出会わなければ出世の必要条件を満たさない。
わたしは採用系の業務で30年のキャリアがあるが、本書を読んで人事部についてほとんど知らなかったことに気づいた。まことに人事には多様な業務がある。 著者は、大企業での人事経験から導いた法則を書いているが、出世の法則などは中堅・中小企業でも通用しそうである。
(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)
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