深田 和範著
新潮新書 714円
「文系・大卒・30歳以上」がクビになる 大失業時代を生き抜く発想法
本署の結論はまえがきの1行目に書かれている。「今後数年間のうちに、ホワイトカラー一〇〇万人が失業する」。失業するとは、リストラされるという意味だ。大胆な予測だが、推論はデータをもとにして組み立てられており、説得力がある。

ホワイトカラーとは、総務省の「労働力調査」の職業9分類のなかの「専門的・技術的職業従事者」「管理的職業従事者」「事務従事者」「販売従事者」の4つ。しかし販売従事者は非正規社員が多いので、本書では「専門的・技術的職業従事者」「管理的職業従事者」「事務従事者」をホワイトカラーと定義している。

2008年段階の就業者総数は6385万人。ホワイトカラーは2416万人。その内訳は、専門的・技術的職業従事者が950万人、管理的職業従事者は172万人、事務従事者1292万人。

この数字を「そんなものかな」と読み飛ばす人がほとんどだと思うが、1998年の就業者総数は6514万人だったから、この10年間で130万人も減っている。そして1998年のホワイトカラー総数は2356万人。ホワイトカラーは増えている。

もっと細かく見ると、ホワイトカラーは2002年まで減り続け、2305万人になった。その後の6年間に110万人も増えたのだ。このホワイトカラーの増加が日本企業の体質改善につながったかと言えば、答えはノー。生産や販売現場の生産性の向上は著しいが、ホワイトカラーの生産性は低いままだ。

ホワイトカラーは確かに忙しい。経営戦略の策定、人事制度の改定、ISOの認証取得や更新、コンプライアンス体制の確立、個人情報管理の徹底、情報システムの整備に伴う企画・調整と際限なく事務作業がある。

しかし著者は「これらの仕事量の増加は、企業の業績向上には、実際にはほとんど貢献していなかった」と断言する。

ここで著者が「リストラされる」と予言するホワイトカラーは、2416万人の中の一部である。読み進めていくと、理系の「専門的・技術的職業従事者」はリストラの対象にならないと説明されている。また管理的職業従事者は数が172万人と少なく、年齢も40代、50代が多い。問題は生産性の低い「文系・大卒」で、「30歳以上」で給料が高くて現場仕事から離れたホワイトカラーだ。以前ならエリート社員として期待される存在だが、今日では「がん細胞」になっている。

なぜがん細胞なのか。人事や経営企画の社員がやっていることは「絵に描いた餅に過ぎない中期計画の策定」「度重なる人事制度の改定」「行きすぎた個人情報保護やコンプライアンスの管理」「現場の意見を無視した情報システムの導入」。会社のためでなく、自分たちの仕事を増殖させるためのものだ。

著者はホワイトカラーの仕事の本質は「社会と企業、そして従業員との間を効果的に結びつける」ことにあると考えている。ところが現代のホワイトカラーは本来の使命感を喪失し、教科書に書いてあるような戦略論、マネジメント論ばかりを口にしている。

この本を読んで、数年前に後輩からもらったメールを思い出した。かれは東京工大修士修了後にマサチューセッツ工科大学の大学院(ビジネススクール)留学を経て、アメリカの証券会社、ヨーロッパの証券会社を経て、日本の証券会社に移った人物。米欧日の金融機関を熟知している。

かれはこう書いている。

「社内稟議書も中身よりもフォーマットを重視、接待のレストランも顧客の好みではなく、同席してもらう上席者の嗜好を何時間も考えて時間を浪費するという内向きなことに延々を時間を費やしている状態は是正するべきでしょう。40歳代になり、マネジメントに入りつつある中堅社員が1日何時間も浪費しているような状態は驚くべきことだと思います」。

「ほとんどの人材が、社内の全く関係ない部署を2~3年周期で異動を繰り返し、広報や、人事のプロと言われている人は私の会社では見かけないような気がします。結果、前例主義に陥り、多量の稟議書を作り、沢山の判子をついて、責任の所在をあいまいにするという状況になり、それを監督するべきマネジメントもまた業務がわからないまま決裁業務のみをしながら、時間だけが過ぎていく、という状況になっています」。

くだらない内向き仕事で膨大な時間を空費しているホワイトカラーの姿を見事に伝えてくれる。ただし彼ら自身は重要な仕事をしていると思いこんでいる。しかし欧米にこんな企業はない。いま躍進する中韓の企業でもこんな時間の使い方をする社員はいないだろう。

グローバル競争に勝ち残るには、企業体質を変えなくてはならない。体質を変えるためには、生産性が低いホワイトカラーのリストラが有効なのかもしれない。

著者は、数年後にホワイトカラーの大リストラが始まる、と説いている。日本経済の復権のためにはそうあるべきだが、そうなるのかどうかは疑問だ。
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