働き方に関する考え方や仕事のやり方の変化、人材の多様化など、時代の変化が目まぐるしい中、企業における人材育成の在り方・やり方の見直しは急務となっている。さらにAIの登場などテクノロジーの進歩で、人間にしかできないことも問われていると言えるだろう。
本書は、のべ13,000社・200万人以上の人材育成をサポートしてきた株式会社ラーニングエージェンシーにより、人材育成に関する基礎知識や理論が広範に収録。再認識しておきたい用語・概念から新たに学びを必要とする領域までを網羅しており、経営層や人事担当者の参考書としても活躍する一冊となっている。

企業や組織が悩む「人材育成」を俯瞰・網羅したハンドブック

『人材育成ハンドブック 新版――いま知っておくべき100のテーマ』 ―― 人材育成を網羅・俯瞰した実用性の高い参考書
本書は人材育成に関する知識を幅広く収録し、企業における人材育成に関する事柄を俯瞰できるように構成されている。ハンドブック形式であるため、関心のある個所に絞って目を通したり、索引や目次を使って辞書のように活用したりできる点がポイントだ。

内容は4つの章に分かれている。
第1章は「効果測定」や「トランジション(キャリアの転換期)」といった理論から「学習する組織」といった組織論、「大脳生理学」や「心理学」といった人材育成に生かせる学問領域についても紹介されている。多岐に渡る人材育成領域の用語集といった趣もあり、基礎知識の振り返りや新任者へのガイドブックとしても活躍する内容となっている。

続く第2章は制度・手法編。「ジョブローテーション」「OJT」「メンター制度」「人事評価制度」など、実際に広く使われている人材育成制度・手法が紹介されている。特に研修については、企画・実施・フォローアップに分けて詳しく説明されており、研修の在り方・やり方を見直す際には必読と言えるだろう。また、最新の人材育成制度・手法事情についても紹介されている点は興味深い。たとえば「ワークプレイス」の項目では、コワーキングスペースなど、近年のテクノロジー進歩や仕事の進め方の変化に伴ったオフィスレイアウトについても言及されている。

第3章では経営テーマ編として、「働き方改革」「ダイバーシティ」「健康経営」「女性活躍」など、昨今ではコーポレートブランディングや従業員のエンゲージメント醸成といった観点でも人材育成と深くかかわる最新の経営テーマについて解説されている。制度に落とし込んだ具体的な取り組み方法が紹介されているため、実践にも直結すると言えるだろう。「働き方改革」の項目では、長時間労働是正の取り組みの具体例として、「ブライトスポット」(お手本となる成功例)という考え方が紹介されている。

第4章は研修編。企業で必要となる研修の種類を網羅的に解説している。「新入社員研修」「管理職研修」など階層別研修のほか、「PCスキル」「ビジネスライティング」といったスキルにかかわる研修、「ロジカルシンキング」や「アンガーマネジメント」といった考え方・姿勢に関する研修、「経済・経営に関する知識」や「財務知識」など知識にかかわる研修などについて取り上げられている。企業における研修のポイントとなる「誰に」「何を」学ばせるか、という点が整理されており、自社における研修のラインナップに抜けや漏れがないか、チェックするのにも有効だろう。

『現場でのFAQ』も紹介する、実用性の高い内容

各項目については、『概要(要点のまとめ)』『基礎知識(具体的な説明)』『現場でのFAQ』『参考文献』から構成されている。特に『現場でのFAQ」は実践に直結する内容で読み応えのある内容だ。
たとえば抽象的になりがちな理論について、「インストラクショナルデザイン」の項目を例に見てみよう。『概要』では、インストラクショナルデザインとは「学習者のニーズを分析し、最適な教育効果を導くための教育手法のことである」と定義されている。『基礎知識』では、インストラクショナルデザインを構成する「ADDIEモデル」(分析、設計、開発、実施、評価の5つのプロセス)について、図や表を交えて説明されている。そして『現場でのFAQ』では、ADDIEモデルを実践する際のポイントや注意点、インストラクショナルデザインの考え方を用いたOJTなどについて解説されている。現場に寄り添った内容・構成であるため、実用性は高いと言えるだろう。

人材育成に関する知識を体系的に学べるという点でまさにハンドブックとして有効である。特に本書は、現場の担当者に向けて実益的な要素を多く取り上げている点が特長といえる。時代の変化に伴った働き方の変化に対し、受動的に対処するのではなく、その変化を積極的に活かせるような人材育成が求められる。本書はそうした取り組みを考える際に、ヒントを与えてくれるのではないだろうか。
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