2 後継者育成

「後継者育成」は、昨今のコーポレートガバナンス強化の流れを受けて、取り組みが本格化している領域です。経営トップや役員の後継者の育成を計画的に推進することで、不確実な環境においても持続的な企業価値向上を目指していくという企業統治の一環として、その重要性が強く叫ばれるようになってきました。取締役会の役割や権限をどの程度大きくするのか、さらには後継者の選定にどう責任を持たせるかなどには、企業によって様々なスタンスがありますが、後継者を計画的に育成することの重要性が増していくことは確実です。おそらく数年以内には、株主総会の場で、自社の後継者育成の現状や、選定プロセスについて株主に説明を求められることが当たり前になっていくと思います。リーダーを育成する力、後継者を継続的に輩出する力が、企業価値の大きな要素の一つだからです。

後継者育成は、すでに定着している次世代リーダー育成に比べて社内外のステークホルダーが多様なため、より堅牢な仕組みを作って着実に回していくことが求められます。経営陣が強いオーナーシップを持って進めていかなければいけません。

経営の後継者育成と職場の次世代リーダー育成は、同じようで大きな違いがあります。経営の後継者たる人材を見極めるためには、よりサバイバルな環境でチャレンジさせ、厳しい評価の目にさらし、そのプレッシャーの中でも結果を出そうと奮闘する姿を見守らなければなりません。また、後継者としての器を作るために、リスクのあるサバイバル環境でもがくことが、是非とも必要です。経営者としての本物の覚悟と胆力を育んでいかなければならないからです。

しかし、こういうと、「そんな経験を積ませる場所があれば苦労しない」という反論を頂いてしまいそうです。果たして本当にそうなのでしょうか。

例えば(連結)子会社は、後継者育成の機会の宝庫だと思います。大手企業であれば、連結子会社の数は平均して50社程度あります。したがって、子会社の経営トップや役員のポストは、相当な数に上るはずです。子会社の中には、数年で新たな事業の柱を立てないと先が見えなくなるような状況の会社もあれば、財務的に再建待ったなしの会社もあるでしょう。あるいは、本業とのシナジーが薄れて中途半端な経営体制となり、「黒字基調であれば、まあ良いのではないか」といわれている会社もよくあるように思います。こうした子会社の経営ポストは、本社さえ本気になれば、後継者育成にとって最適な経験になるはずです。

ある企業では、不振子会社の社長に後継者候補人材を送り込み、その社長がCOOポジションを外部からヘッドハンティングして二人三脚で経営を立て直し、今や利益を4倍にした例がありました。別のメーカーでは、最大クラスの子会社に慣例通り親会社の常務がトップに就任しました。しかしトップはその後、自身の右腕に後継者候補の一人であるA氏を親会社から呼び寄せ、左腕にはプロパーの若手役員B氏を据えて3人のチームで見事に再建を果たしました。現在A氏は本社のCFO、B氏は子会社の専務を務めています。A氏は、「その時は無我夢中だったが、自分の権限の届かない人を動かしたり、外から自分の会社を客観的に見ることができた経験が、今、本当に生きている」と述べていました。

「子会社の再建と成長×後継者の育成」は、経営者と人事が腕まくりで取り組むべき、大きな可能性を秘めたリーダー開発の公式だと思います。
リーダー育成を3つのポイントから再考する

3 リーダー育成のための組織体制

この記事にリアクションをお願いします!