「OFF the Field」「OFF the Job」が信頼を勝ち得て行く
「企業も一緒で、絶対に採用側と育成側がコラボレーションしないといけません」そう語るのは、株式会社TEAMBOX代表取締役、および(公財)日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務める中竹竜二氏。今回はスポーツ業界の視点から、人材の抜擢について見解を述べた。優秀な選手のみならず、良いコーチも選び育てる役目を担う中竹氏によると、選手の選抜において「ON the Field」(試合中のパフォーマンス)と「OFF the Field」(試合以外の行動)の2つの観点を重視しているという。
今のスポーツ選手はツアーがほとんどだ。そのため、試合時間よりも移動時間やチームと一緒に過ごす時間、つまりOFF the Fieldがずっと長くなる。そうなると、自然と試合以外でのチームへの貢献が、試合中と同様に重要になってくる。これについては、選手の多くも自覚しているそうで、ツアー後に多くの選手が「ON the Fieldの部分、つまり試合での自分のパフォーマンスが良かったのは、OFF the Fieldでの行動をしっかりしていたからだ」と答えているという。
「『Better Athlete, Better People』(優れたアスリートは良い人間である)。いいパフォーマンスを上げる人はいい人であることが前提だと、多くのコーチが言っています」
「ビジネスも全く同じで、業務上のことだけでなく、それ以外の会社に着いて挨拶できる、掃除ができる、ミーティングの後片付けをする・・・そこにフォーカスするだけで、企業のパフォーマンスがあがります。これは確実に言えることです。このことをちゃんと可視化することが、これからのマネジメントにおいて重要になってきます」
中竹氏が出会った中で、才能に溢れ、ON the Fieldが優れているのに、OFF the Fieldが弱い選手がいたそうだが、彼は他の選手にパスをした経験がないから、試合でもパスを出すことができなかった。そこで、その選手にまずは挨拶や片付けなどの、OFF the Fieldにフォーカスさせたところ、人望を獲得してパスが回せるようになったという。続けて仮にOFF the Field が弱くても、改善することで人望を回復できる可能性があると言い、逆説的に「同じフィールドでOFF the FieldやOFF the Jobが高い人は伸びしろがないということかもしれない」とも述べた。
グローバル化強化と、ハンズアップによる人材の抜擢と育成
日清食品ホールディングス株式会社 人事部人材開発室課長 橋本晃氏によると、日清食品はグローバル化に力を入れており、グローバル人材の育成が課題になっているという。海外の現地法人が増えたことから、早い段階で人材を海外派遣することを考え、入社2年目の若手でもハンズアップ(挙手制)によって、チャレンジできる体制を整えた。「日清食品はグローバル化を進めていて、グローバル人材の育成を課題にしています。海外で通用する人材を育成するために、早く海外に行かせる方がよく、移動先の拠点を増やして、入社2年目からハンズアップで参画できるプログラムを増やしました」
日清食品は人材育成に「70:20:10の法則」を設け、「仕事の経験からの学び」が70%、他者からの助言などやフィードバックからの学びが20%、「研修等からの学び」が10%としている。経験からの学びを重視し、例えばブランドマネージャーのポジションに30歳半ばからハンズアップできるなどの機会も増やしているそうだ。さらに管理職とは年に1回CEO自らが面談をしており、人間性を重視するところは曽山氏や竹中氏と同見解だ。「CEOは『迷ったらゴー、失敗したらすぐ戻れ』とよく言います」「人はどれだけ修羅場経験をしていくかでディベロップ(発展)できますから」
間違いは間違いだと正す。率直なフィードバックで成長を促す
ディスカッションの最後は、日清食品の人材育成制度に「フィードバック」を取り入れているという内容を受け、フィードバックの重要性について3氏がそれぞれの意見でまとめた。「私が思う、一番いいフィードバックは良いことも悪いことも率直に言うこと。基本的に抜擢した人材であっても、経験がないわけだから、間違っていたら『違う』と言ってあげないといけない。そうしないと、間違ったところに行ってしまうので。でも、最後の意思決定は本人にさせることが重要です」と曽山氏が述べると、「相手が傷つくことを言いたくない、嫌われたくないと考えず、人格を切り分けてフィードバックしてほしい」と橋本氏が続けた。
中竹氏「どんなプレーが好きで、どんな仕事が好きで、どんなことにやりがいがあるのかをちゃんと聞かないといけない。」「どのような形でフィードバックするのかが大事。いつでも話かけられる状態を作り、インフォーマルな面談もします。それによって本音を聞き出せる。そして、私自身がフィードバックを受けているのです。フィードバックする側が、フィードバックをもらっているんですね。」
抜擢人事は経験のない人材を、成功の確証がないまま引き上げなければならない。新しいポジションに変える人事異動も抜擢人事に似た要素があるが、いずれにしても、不安要素が大きいはずだ。しかし、力があるものにとっては、チャレンジは大きな飛躍に繋がるだろうし、会社の成長のためにも欠かすことができない重要な決断と言えるだろう。安穏の中に成長が期待できないことは、誰もがうなずくだろうが、まさに抜擢人事は企業の発展の要にもなるのだ。
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