HR総合調査研究所(HRプロ)が2012年12月に実施した「人事のキャリアに関するアンケート調査」を基にした人事のキャリア観の第2回レポートをお届けする。前回は人事自身がどのようなキャリアで現職に就いたか、人事という職種についてどのように感じているか、人事業務に必要なスキルなどの項目につき報告した。今回は人事の研鑽ぶり、社外ネットワーク、勉強のための自己負担、人事の役割変化に対する意識にフォーカスしてみた。

人事分野の専門家として能力向上につとめる勉強家

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

前回の報告で「人事分野の専門家としてキャリアを積んでいきたいか?」という設問に対する回答を紹介した。9割近くの人事担当者が自らのキャリア形成に前向きであることがわかった。これは将来に対する姿勢を問う設問だ。
今回は「人事分野の専門家として能力向上につとめているか?」という設問の回答を紹介する。設問は似ているが、将来ではなく現在の行動や姿勢を問うているところが違っている。
この設問でも人事担当者は前向きだ。おおざっぱに言うと、全体の4分の1が「常につとめ」、半数が「つとめている方だと思っている」。「あまりしていない」はわずかだ。
企業規模で傾向が少し違っており、規模が大きいほど「つとめる」傾向が高い。ただその差はわずかだ。
どのようにつとめているのか? コメントを読むと、実に多くのことにつとめている。代表的な回答を紹介しよう。
セミナー・講演会への出席、他社人事部との交流、専門書の購読、異業種・異職種とのコミュニケーション、人事関連のメルマガ購読、外部研修への参加、CDA資格取得のための勉強、労働関連法の習得、社労士の資格取得。人事に関連するものばかりだ。
この種の調査で気になるのは、語学系の回答が少ないことだ。今回の調査で「語学」「英語」「中国語」などの言葉を書いている人は3人だけだった。

図表1:人事分野の専門家として能力向上につとめているか

企業規模が大きいほど多い社外の人事ネットワーク

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

人事の課題を理解できるのは人事を担当する人間だけだと思う。また他社で解決できた人事課題は自社に応用できるはずだし、他社で起きた問題は自社でも起こる可能性がある。したがって社外の人事ネットワークはとても重要であるはずだ。
そこで社外の人事ネットワークの人数を問うてみた。予想通り、多くの人事担当者は社外ネットワークを持っている。しかし規模が小さくなるにつれ、「いない」という比率が高くなっている。「1001名以上」では「いない」は11%と少数派だが、「301名~1000名」になると20%になり、「1~300名」では27%と増えている。ネットワークの人数も規模が大きい企業人事の方が多い。
グラフを掲出していないが、「いない」がもっとも多いのは「1~300名」の中小メーカーであり、42%と半数に近い。

図表2:社外に情報交換、意見交換のために交流している人事分野の人はいるか

3分の2の企業が課題を抱える次世代人事担当者の育成

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

次世代人事担当者の育成は大きな課題である。企業規模にかかわらず3分の2の企業が「課題あり」と回答している。
その内容を見ると、「一人ひとりが独立して仕事をしているのでお互いに指導することがあまりない」という業務のタコツボ化、「人事担当者として一般的に必要な知識(労働法・社会保険・年金・税法)を持っている人が少ない」というエキスパート不足、「経営幹部の方針で、部下がいない」という人材不足、「人事労務関連の業務範囲が広範囲にわたるので覚えることが多すぎる」という学習の困難さなどを上げる声が多い。

図表3:人事部門の担当者育成上の課題はあるか

スキルアップの自己負担は毎月「2万円未満」が7~8割

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

今回の調査では、自己研鑽に熱心な人事担当者の姿が浮かび上がっている。そのスキルアップにどの程度自分のお金を使っているのだろうか?
「ほとんどない」、つまり自己負担していない人事はどの企業規模でも2割である。残りの8割は自己負担しており、ボリュームゾーンは「5000円未満」だ。企業規模にかかわらず4割弱である。続いて多いのが「5000円~1万円未満」であり、あわせて「1万円未満」が半数以上だ。もっと詳しくみると、「1万円未満」は「1~300名」で66%、「301名~1000名」で68%であり、「1001名以上」だけが54%と低いが、その代わり「1万円~2万円未満」が21%と高くなっている。

図表4:個人負担で、業務のスキルアップに使う会費、書籍費などの費用(月平均)

あまり人事部に浸透していない経営者メッセージ

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

人事は経営者に最も近い部署だ。経営者のメッセージや考えを深く理解し、人事施策に反映しなければならない。そこで経営者メッセージの人事部門への浸透度を訊いてみた。
企業規模別では「とても浸透している」は、「1001名以上」で13%だが、「301名~1000名」では9%と減り、「1~300名」では20%と高くなる。中小規模では経営者のメッセージは人事部門に届きやすいが、少し規模が大きい中堅規模では届きにくくなり、大手では仕組みによってメッセージが届きやすくなる工夫がなされているのではないかと推測する。
もっとも多いのは「まあまあ浸透している」で「301名~1000名」と「1~300名」では4割台、「1001名以上」では56%と高いスコアだ。この回答がどういう意味を持っているのかを読み解くのはむずかしい。この設問に限らず「まあまあ」という言葉に対する回答ではプラスバイアスがかかることが多く、「問題があることはあるのだが、まあまあ浸透しているといえるだろう」と回答する人が多いと思われる。
「どちらともいえない」も「あまり浸透していない」「全く浸透していない」に近いニュアンスを持っている可能性がある。
そのように読むと、はっきりした回答は「とても浸透している」だけで、経営者メッセージの浸透に自信を持っていない企業が多いのではないだろうか。

図表5:人事部門に経営者のメッセージは浸透しているか

人事部門の役割変化を7割が実感

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

「人事部門全体の役割の変化」の設問であえて「全体」という言葉を入れているのは、採用、教育研修、労務管理、人事戦略のすべてで役割が変わりつつあるのかどうかを確認するためだ。結果が興味深い。過半数が「強く感じる」「感じる」とし、「301~1000名」は最多の77%、「1001名以上」は72%、「1~300名」は少し低く64%である。2012年3月に行った第1回人事キャリア調査でも最多は「301名~1000名」だった。
「あまり感じない」「全く感じない」は、どの企業規模でも少数派で10%以下である。この調査結果を読むと、多くの人事が役割の変化を肌で感じていることがわかる。

図表6:人事部門全体の役割が変化していると感じるか

人事部門の役割とは何か

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

ディビッド・ウルリッチは著書『HRチャンピオン』(邦題:MBAの人材戦略)の中で人事の役割として「ビジネス戦略のパートナー」「人材管理のエキスパート」「組織・風土変革のエージェント」「従業員のチャンピオン」という4つの機能をあげている。そこでこの4つの機能から自社人事部門の役割としてもっとも当てはまるものを選択してもらった。
第1回人事キャリア調査でも同一の調査を行っており、「従業員のチャンピオン」はほとんどゼロに近いことは共通している。しかし第1回調査で半数近くを占めた「人材管理のエキスパート」が相対的に減少したことが目立つ。激しく環境が変化する中、人事部門は労務サービスを提供する「管理」部門ではなく、「戦略パートナー」と「変革エージェント」としての役割が大きくなっていることがうかがえる。
規模による違いを見ると、「1001名以上」では「ビジネス戦略のパートナー」とする割合(29%)が中堅中小より高い。また「1~300名」では戦略パートナーや管理エキスパートより変革エージェントが高いが、小規模企業では人事政策機能がないことが多く、人事の多様な悩みが反映されているように思える。

図表7:現在の人事部門の役割としてもっともあてはまるもの

重要になる「人事戦略」と「教育・研修」、大手は「海外人事」を重視

「人事のキャリアに関するアンケート調査」結果報告【2】

今後重要になる人事業務についての設問の1位は「人事戦略」(65%)、2位は「教育・研修」(63%)だが両者の差は2ポイントに過ぎない。
続いて「新卒採用」(45%)、「人事労務管理」(35%)、「中途採用」(28%)、「海外人事」(18%)、「契約・派遣・アルバイト採用」(7%)の順になっている。
が51%だ。人員計画と制度にかかわる戦略を立案し、戦略に基づいて人を育成し、適切に処遇していくことに重きを置いているということだろう。また「人事戦略」については、企業規模が大きいほど重要性が高まると予想している。
戦略と教育が1、2位になり、新卒採用を上げる企業は半数以下だが、「今後重要になる人事業務」という設問なので、新卒採用の重要性が減じるという意味ではない。
「海外人事」は企業によって重要性がまったく異なっている。全体のグラフしか掲出していないが、「1001名以上」の大手企業は「海外人事」についてメーカーは33%、非メーカーは45%が重要と回答している。

図表8:今後より重要になると思う人事業務

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2012年12月7日~12月20日
有効回答:332社(1001名以上 82社, 301~1000名 97社, 300名以下 153社)

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