「日本の人事を変えたい」と日々事業に取り組んでいる株式会社ヒューマンロジック研究所 古野俊幸とProFuture株式会社 寺澤康介の2人が、日本企業が本来の良さを取り戻し、まっとうになるように、人事について言いたい放題おおいに語り合う。
寺澤FFS理論を活用した組織づくり支援を事業化して、何年くらい経ちましたか。
古野ヒューマンロジック研究所の前身となる会社を設立した1994年ですから、今年で丸20年になります。まだまだ知名度もなく、〝遅いな〟と感じています。
寺澤 私もFFS理論に基づく診断を受けましたが、自分の思考行動特性を測定してもらうと、そこから組織の他メンバーとの関係性が分析でき、そのデータをもって最善のチームビルディングを行えるというのは、とてもユニークです。後ほど、その診断結果について説明していただけるということで楽しみにしています。ところで、FFS理論は小林惠智博士という方が提唱したそうですが、どのようにして出会ったのですか。
古野私が主宰していた異業種交流会に小林博士をゲストとして招いたことが、そもそものはじまりです。最初は「変わった人だな」という印象です。
寺澤小林博士との出会いが古野さんの人生を変えたのですね。博士は、いったいどんな方なのでしょうか。
古野すごい人ですよ。ウィーン大学、モントリオール大学を経て、経済学博士、教育学博士、組織心理学者という3つのジャンルを追求された方です。 モントリオール大学国際ストレス研究所で「性格とストレス」を研究している時に、米国防総省国際戦略研究所の依頼でFFS理論を提唱したという経緯があります。 日本に戻られたからは、自らいくつもの企業を立ち上げたり、経済同友会の幹事として小学校、中学校に出向いたり多方面で活動されています。
寺澤なるほど。欧州から北米と世界を股にかけて学ばれたのですね。日本の学者としては珍しい経歴じゃないですか。FFS理論も、国防総省の依頼ということは、実践から生まれた理論と考えていいわけですね。
古野そうですね。「現場で使えない理論は、理論じゃない」と小林博士は常々言っていますが、私も、そう思っています。
寺澤その小林博士と出会ったことが、創業のきっかけですか?
古野実は、私は、元々ジャーナリストとして新聞社に就職しました。記者採用にも関わらず、4年間取材記者にしてくれませんでした。何度も嘆願したのですが。 そこで飛び出して、フリーのジャーナリストとして1年半活動し、その後出版社に誘われて、5年間社員として働きました。その経験で得たのが「人事は人を活かしていない」ということです。「なぜ、人を活かしていないのか」と疑問に感じていた時に、小林博士と出会い、FFS理論の話を聞いているうち『組織の最適化理論』を普及しなければならないと使命を感じたのです。
寺澤今でこそ、大手自動車メーカーやエレクトロニクスメーカーなど、日本の名だたる企業がFFS理論を活用しているわけですが、ここに至るまで、苦労は多々あったのでしょうね。
古野会社設立当初は、今のようなコンサルティングではなく、DOSVで動作するFFSのシステムを売っていたんですよ。
寺澤そうなんですか。では、コンサルティングを行うようになったのは、しばらく経ってからなんですね。
古野今、FFSのデータを見れば、現場に行かなくても、現場の人間関係の問題が手に取るようにわかります。ただ、当時はまだそんなに自信はありませんでした。 そこで、ジャーナリスト的なアプローチですが、データと現実を突き合わせるために、現場に徹底的に通ったのです。すると、「データだけを見て問題を指摘できる」ようになりました。顧客からは「システムにお金をかけるつもりはないが、問題の指摘と解決策にならお金を払う」という意見をいただき、組織診断のカリキュラムを作ってサービス化しました。その後、大手エレクトロニクス系会社のS社の依頼でワークショップをしたことでヒントを得て、さらなる事業拡大につなげました。
寺澤それは興味深い。もう少し詳しく教えてください。
古野S社の当時の副社長が、自ら起案して本部長、部長クラスを集める次世代経営者育成「副社長塾」を開催されました。その塾の一つのコンテンツとして「FFS理論を活用したチームビルディング」が導入されました。その時「チームビルディング」を体験したある事業部長が、「現場のチーム運営で一番困っているのは課長だ。課長がこのワークショップを受けるべきだよ」と思われたようで、事業部内にある人材開発担当者に「課長向けFFS流チームビルディング」を作り上げるように指示されたのです。 「事件は現場で起こっている」の名セリフと同じで、組織の問題は現場にあります。現場に役立つというキーワードは、腹に落ち、その時の担当であったKさんと一緒に議論を重ね、現場に役立つ教育プログラムとして仕上げました。
寺澤それが、現在では教育事業の柱に成長していると。
古野もう一人、自動車メーカーH社のTさんも教育プログラムの構築に協力してくれました。大手製薬メーカーの研究開発の人材開発部長からも、いろいろと相談を受けて、開発したプログラムもあります。我々の基本は顧客ニーズをくみ取り、現場に役立つものというスタンスです。
寺澤その教育プログラムは、どうして評価されたのですか。
古野「明日から使えるところ」です。研修を受けに来る人の多くは「職位が上がったけど、まだ部下全員と話せていない」「全員をきちんと把握していなかった」という不安を口にします。そういう人にFFS理論による分析レポートを見せて、「この人とこういう関係になりやすいので、こうしましょう」とアドバイスすると、彼らはメモに書きとっていき、次の日に早速、活用します。
寺澤自分と部下の関係が明示されることに価値が見出されているのですね……今、キーワードが浮かびました。FFS理論を中心に置くと、人事で考えるべきは「関係性の人事学」となるのではないでしょうか。ずばり、「人事とは関係性」であると断言してもいいかもしれません。1人1人の問題を見ていてもしょうがない、関係性だよと。それがピンとこない人事担当者は素人だと。わからない人事は去れと。これじゃないですか。
古野 はっきりいえるのは、上司と部下、部下同士など、関係性を知らなければ個々の能力を引き出せない、ということです。そればかりか、上司とは異質な部下を知らず知らずに潰してしまう可能性もあります。反対に、自分に似ている部下を守ってくれる人もいるのですが、そういう上司との出会いは、部下にとって大きなプラスになります。特に新入社員の場合、最初にどんな上司と出合うかで一生が決まってしまうといえます。人事は、そんな大事な出会いを蔑ろにしているのではないでしょうか。
寺澤私にも覚えがあります。私は新卒で文化放送ブレーンという就職情報の会社に入ったのですが、すぐにでも退職して大学院受験をしようと企てていたこともあり、仕事もせずに好き勝手にやっていました。先輩や同僚は、私を腫れ物に触るように扱っていたのですが、中途入社で入ってきたある先輩にだけは、「お前は馬鹿で給料泥棒だ。1年目の目標をクリアしない限り、お前は泥棒のままだ」とボロクソにいわれました。私は悔しくて悔しくて、死にものぐるいになって営業に打ち込んだのですが、その結果、歴代の営業の記録を塗り替えるほどの好成績を上げることができました。そして、「お前はよくやった」とその先輩に褒められて、「仕事って、こんなに面白いんだ」と心から思えるようになりました。まさに新入社員時代の初めての先輩に人生を変えられた例だといえますね。
古野人は関係性の中で他人から影響を受けて、新たな価値を見出し、それを実現して育っていくものです。だから関係性は重要なのです。
寺澤もしかしたら、関係性が重要だということは当たり前なのかもしれません。現場を見れば、一目瞭然かもしれませんね。
古野そうですね。やっぱり彼らは現場を知らなすぎると思います。人事は、机でする仕事ではありません。現場に出て、現場の課題解決をすることが仕事です。経営をサポートするのも、現場を把握しておかなければ、経営へ正しい報告が出来ないのです。
寺澤確かに。今の日本企業の人事は、その当たり前を見失っていますよね。また、個々の能力だけにフォーカスしすぎているのではないでしょうか。
古野そうですね。「コンピテンシー」や「タレント」というキーワードが巷で語られますが、どうも個人の能力に偏っていると感じます。 例えば、人事がどんな視点を持っているかで、その企業力が見えてきます。だから、本当に人を活かしているかという「人事ランキング」を作ればいいんですよ。そういえば企業の採用力も、採用担当者を見れば大体うかがえますね。
寺澤 企業全体で採用力について考え、高めるという発想がなく、採用担当者に任せっきりになっている場合、悪い意味で白日の下にさらされてしまうでしょうね。その場合、採用担当者が変われば、採用はがらっと変わってしまいますが、これも問題です。一方で、いい採用だったかどうか、採用担当者に対して正当な評価がなされていないという実態もあります。採用に関わる問題は、広く根深いと思います。今後は、「企業の競争力を高めるためには何よりも人材なのだ」ということをCHOが再認識して、データをちゃんと蓄積する仕組みを作り、結果をウォッチすることが必要です。今まで何となくうまくいっていたとしても、今後、そうはいかなくなるんじゃないでしょうか。
古野そのとおりだと思います。
寺澤さて、冒頭で触れたFFS理論による診断結果を見てみましょうか。この診断書には、古野さんという上司が、私という部下をどう理解して、どのように関わればいいかが書かれているのですね。解説をお願いします。
古野私の診断結果では、5つある因子のうち、Dの「拡散」(外へ飛び出そうとする力)が高くなっています。これは、「やりたいか、やりたくないかを第一に考えている」ということです。実際に私は誰もやっていないことをやりたい、世の中に対して影響あることをしたいといつも考えています。これに対して寺澤さんは、Bの「受容」(受け入れようとする力)が高い。次に「拡散」です。ですから、寺澤さんが私の「やりたいこと」を受け入れて、「面白そうだから、俺も勝手に行く」ということがいえるので、この2人がチームを組むと、とてもスピーディーに動くと思います。
寺澤いい関係のようですね。
古野ただし、話し合いの内容が飛躍しがちで、しかも、なかなか収束しづらいようですね。Eの「保全性」(維持・継続しようとする力)が2人とも相当低いというのが、その理由です。
寺澤それは問題です(笑)。ともあれ、「すごい人事を作る」という大仕事を、これからもともに頑張っていきたいですね。