マーサーでは、日系企業の中国進出の加速に伴い、中国における日系企業への支援機能を90年代後半に立ち上げている。2000年代に入ってからは日本人駐在員を派遣し、日本語を話す中国人コンサルタントを組織し、本格的な日系企業支援体制を構築してきた。そのような背景のなか、筆者が上海に正式に赴任となったのは2007年である。当時のチーム状況は、前任の日本人駐在員の帰任と中核となっていた複数の中国人コンサルタントの退職が重なり、かなり厳しい状況となっていた。赴任後休む間も無く、新たに日系企業支援のリーダーに昇格した中国人コンサルタントとの二人三脚でのチーム運営が始まった。
読者の皆さんも異動や転勤のご経験があるかと思う。誰しも新しい職場環境やポジションで期待される役割を果たせるかどうか、きちんとした成果が出すことができるかどうか、という点は不安に感じるはずである。コンサルタントと言えども、やはり人の子である。当時、我々二人も、どのようにクライアントに価値をお届けし、また、会社への事業責任をどこまで果たせるのか、について漠然とした不安を当初は持っていた。そのような不安を払拭するために、今後の運営方針等について議論を続けるのであるが、やはり何度か煮詰まってしまうこともあった。
議論が煮詰まってくるなかで、中国人リーダーの彼は、「もう考えるだけ考えた。あとはやるだけやってみよう。それで駄目だったら、そのとき考えよう。」と開き直ったかのように言った。私は少々意地悪気味に、「でも、本当に駄目だったらどうするんだよ?」と聞き返してみると、彼は笑いながら意外な答えを返してきた。 「いいか、そのときは潔く責任を取ろう。そして二人で上海の街を一週間歩くんだ。一週間歩いたら、今の上海なら何かしら商売の種が見つかるはずだ。二人で何か商売でも始めようじゃないか!」
この時の彼の言葉は、今でも鮮やかに私の記憶に残っている。この言葉には、現代の中国の姿が幾つも生きている。それは、急成長市場としての中国の姿であり、「個」としての自立心旺盛な中国人の姿、商売を愛する中国人の姿、である。赴任後間もない私にとって、中国の姿を鮮やかに印象づける一言であった。
中国における駐在期間において、数多くのクライアントの皆様に対して、人材マネジメント改革のお手伝いをさせていただいた。その中で、強く印象に残ったことは、先ほどの言葉に代表される「中国人の『個』としての自立心を組織の業績に結びつけること」の重要さである。中国には「発展空間」という有名な言葉がある。これは、組織内において「自らのキャリアを開発するための機会」や「昇進の機会」を指す言葉である。この「発展空間」は、彼らにとって自らのスキルを高め、より高いキャリアと報酬を得るために重要なものである。
転職が通常となっている中国においては、会社は自らのキャリアを高めるための舞台であり、その舞台を用意できる組織が、優秀な人材から選ばれることになる。まさに、この舞台の「舞台装置」こそ「人事マネジメント」といえる。一人一人の「個」としての自立心を、人材マネジメントを通じて、うまく刺激するとともに、組織として「繋げる」ことで、業績向上のドライバーにすることができる。現在、中国で急激な成長を遂げている民営系企業などは、この典型ともいえよう。中国という成長市場は、組織における「戦略的人材マネジメント」の重要性を鮮やかに浮かび上がらせてくれる。
上海駐在時、日本に先に帰国した友人などから、「最近の日本の組織は元気が無い。」という言葉をよく聞くことがあった。本当だろうか? 確かに経済指標はまだまだ上向いていないし、企業の事業環境は厳しさを増している。しかし、そのような時期であるからこそ、「働く一人一人の思いを結集できれば、必ず組織は元気になる」という信念を戦略・人事に関わる人間が持ちつづけることは極めて重要である。
「個を繋ぎ合わせ、組織のパフォーマンスを向上させる」、このシンプルな命題への戦略的回答を常に模索し続けることが、組織・人事変革コンサルタントである我々の使命ともいえよう。
議論が煮詰まってくるなかで、中国人リーダーの彼は、「もう考えるだけ考えた。あとはやるだけやってみよう。それで駄目だったら、そのとき考えよう。」と開き直ったかのように言った。私は少々意地悪気味に、「でも、本当に駄目だったらどうするんだよ?」と聞き返してみると、彼は笑いながら意外な答えを返してきた。 「いいか、そのときは潔く責任を取ろう。そして二人で上海の街を一週間歩くんだ。一週間歩いたら、今の上海なら何かしら商売の種が見つかるはずだ。二人で何か商売でも始めようじゃないか!」
この時の彼の言葉は、今でも鮮やかに私の記憶に残っている。この言葉には、現代の中国の姿が幾つも生きている。それは、急成長市場としての中国の姿であり、「個」としての自立心旺盛な中国人の姿、商売を愛する中国人の姿、である。赴任後間もない私にとって、中国の姿を鮮やかに印象づける一言であった。
中国における駐在期間において、数多くのクライアントの皆様に対して、人材マネジメント改革のお手伝いをさせていただいた。その中で、強く印象に残ったことは、先ほどの言葉に代表される「中国人の『個』としての自立心を組織の業績に結びつけること」の重要さである。中国には「発展空間」という有名な言葉がある。これは、組織内において「自らのキャリアを開発するための機会」や「昇進の機会」を指す言葉である。この「発展空間」は、彼らにとって自らのスキルを高め、より高いキャリアと報酬を得るために重要なものである。
転職が通常となっている中国においては、会社は自らのキャリアを高めるための舞台であり、その舞台を用意できる組織が、優秀な人材から選ばれることになる。まさに、この舞台の「舞台装置」こそ「人事マネジメント」といえる。一人一人の「個」としての自立心を、人材マネジメントを通じて、うまく刺激するとともに、組織として「繋げる」ことで、業績向上のドライバーにすることができる。現在、中国で急激な成長を遂げている民営系企業などは、この典型ともいえよう。中国という成長市場は、組織における「戦略的人材マネジメント」の重要性を鮮やかに浮かび上がらせてくれる。
上海駐在時、日本に先に帰国した友人などから、「最近の日本の組織は元気が無い。」という言葉をよく聞くことがあった。本当だろうか? 確かに経済指標はまだまだ上向いていないし、企業の事業環境は厳しさを増している。しかし、そのような時期であるからこそ、「働く一人一人の思いを結集できれば、必ず組織は元気になる」という信念を戦略・人事に関わる人間が持ちつづけることは極めて重要である。
「個を繋ぎ合わせ、組織のパフォーマンスを向上させる」、このシンプルな命題への戦略的回答を常に模索し続けることが、組織・人事変革コンサルタントである我々の使命ともいえよう。
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