「シンガポールに統括拠点を置くことって、本当にベストなんですかね」
最近日本企業の在シンガポール統括拠点支援の取り組み*の中で、この話題がよく出る。統括拠点の設立を通じて、市場へのアクセスや現地事情を反映した迅速な意思決定等を追求する一方で、人件費や物価等の高騰は無視できないレベルにきたようだ。
最近日本企業の在シンガポール統括拠点支援の取り組み*の中で、この話題がよく出る。統括拠点の設立を通じて、市場へのアクセスや現地事情を反映した迅速な意思決定等を追求する一方で、人件費や物価等の高騰は無視できないレベルにきたようだ。
* Mercer J-MNC Singapore Services (MJSS エムジェス): 日本企業の在シンガポール統括拠点向けサービス。マーサー日本法人と同シンガポール法人の共同チームで組成
その一つの処方箋として近年生じている動きが、「機能分在型」統括拠点である。機能分在型とは、会社籍はこの場合シンガポールに残しつつ、各機能はそれぞれ最適な場所を選び、国を超えた連携を通じて統括拠点としての役割を果たす形態を指す。そのような姿は次の統括拠点のベストプラクティスと成り得るが、実現には人材面で今以上のチャレンジが必要になることが想定される。
シンガポールが多くの企業から統括拠点に選ばれてきたのは、税制含む政策、地の利を含むビジネスインフラ、人材確保の面で総合的にメリットが大きいと判断されてのことである。しかし昨今は、例えばマレーシアのように、シンガポールと同等の条件を整備しつつ最終的なコスト面で差をつける、というような近隣諸国の動きもみられるようになった。その中でシンガポールも優位性維持に努めてはいるのだが、凄まじい物価高の方が際立ってしまっているようだ。
因みに筆者は26年前、駐在員の娘として約6年間シンガポールに住んでいたのだが、両親曰く当時住んでいたマンションの家賃は、今や軽く2倍は超えているらしい。先日当地で利用したタクシー運転手によると、彼らが生活できるまたは遊べるエリアは年々狭まっているそうだ。
機能分在型が次の姿になる、という根拠の方に話を戻そう。在シンガポール統括拠点が管掌する地域は、ASEANに加え主にインド、中東、オセアニアのいずれか、またはそのすべてを含むことが多い。ASEANのみ、というのは逆に稀である**。そのため、地域全体が比較的小規模市場の集合体、という特徴を持つ。
** 2014年4月に実施した「日本企業の在シンガポール統括拠点現状に関するスナップショットサーベイ」によると、回答企業の約90%がASEANとそれ以外の国や地域を管掌している
国や展開する事業の成熟度にバラつきが大きいこの地域を欧米または中国統括拠点のように、一つの面で捉えることは難しい。そしてここまでバラつきがあれば、各機能にとって最適な場所というのも違ってくるので、分在した方が効果的、ということになる。
また、各社にとって希少資源のマネジメント人材の必要量を一国で確保することは難しい、という事情もある。日本企業のように彼らを辞令一枚で一ヵ所に集めることは困難なので、人より機能を移転させた方が現実的な場合も多い。
今はまだ、機能分在型統括拠点の検討に入った企業の数もそう多くはないが、上記のような動きは実際に出ている。***
*** 上記サーベイによると、回答企業の約15%が今後、シンガポール以外の国に、統括拠点機能の一部移管を検討している
この姿が現実になれば、統括拠点には、点在する各機能間を調整し、効率的な運営を実現するという新たなチャレンジが生まれる。具体的には、機能間の情報連携体制の構築や、担当者同士物理的に離れた場所にいても、一つのチームとして意思疎通ができる関係の構築が求められる。
そしてこういったチャレンジの克服には人材面の充足が欠かせない。その一つの解決策に、「現地人材」「本社人材」の別なく連携するチームをつくること、が挙げられる。
総じて現地人材は、多様性の許容度が高く、他者との協働に長けている。また、多少精度が低くても、とりあえずやってみる、というマインドセットを有しており、その点は市場の変化対応力という点で強みがある。一方日本国内を中心として育成された本社人材は、多少曖昧な中でも物事を進めていくことに長けており、何事もしっかり考え尽くし、確実に物事を回していける点に強みがある。但し両者の協働となると、現地人材には本社人材の曖昧さと考え尽くすが故のスピード感に、本社人材には現地人材の「とりあえず」の大雑把感に、耐えられるかという懸念がある。
そもそも現地人材と本社人材、双方の強みを活かした人材マネジメントを行うというのは、多くの日本企業にとって長年の懸案であった。今、シンガポールという地において、日本企業の長年の宿題を片付ける時期がきているのかもしれない。
その一つの処方箋として近年生じている動きが、「機能分在型」統括拠点である。機能分在型とは、会社籍はこの場合シンガポールに残しつつ、各機能はそれぞれ最適な場所を選び、国を超えた連携を通じて統括拠点としての役割を果たす形態を指す。そのような姿は次の統括拠点のベストプラクティスと成り得るが、実現には人材面で今以上のチャレンジが必要になることが想定される。
シンガポールが多くの企業から統括拠点に選ばれてきたのは、税制含む政策、地の利を含むビジネスインフラ、人材確保の面で総合的にメリットが大きいと判断されてのことである。しかし昨今は、例えばマレーシアのように、シンガポールと同等の条件を整備しつつ最終的なコスト面で差をつける、というような近隣諸国の動きもみられるようになった。その中でシンガポールも優位性維持に努めてはいるのだが、凄まじい物価高の方が際立ってしまっているようだ。
因みに筆者は26年前、駐在員の娘として約6年間シンガポールに住んでいたのだが、両親曰く当時住んでいたマンションの家賃は、今や軽く2倍は超えているらしい。先日当地で利用したタクシー運転手によると、彼らが生活できるまたは遊べるエリアは年々狭まっているそうだ。
機能分在型が次の姿になる、という根拠の方に話を戻そう。在シンガポール統括拠点が管掌する地域は、ASEANに加え主にインド、中東、オセアニアのいずれか、またはそのすべてを含むことが多い。ASEANのみ、というのは逆に稀である**。そのため、地域全体が比較的小規模市場の集合体、という特徴を持つ。
** 2014年4月に実施した「日本企業の在シンガポール統括拠点現状に関するスナップショットサーベイ」によると、回答企業の約90%がASEANとそれ以外の国や地域を管掌している
国や展開する事業の成熟度にバラつきが大きいこの地域を欧米または中国統括拠点のように、一つの面で捉えることは難しい。そしてここまでバラつきがあれば、各機能にとって最適な場所というのも違ってくるので、分在した方が効果的、ということになる。
また、各社にとって希少資源のマネジメント人材の必要量を一国で確保することは難しい、という事情もある。日本企業のように彼らを辞令一枚で一ヵ所に集めることは困難なので、人より機能を移転させた方が現実的な場合も多い。
今はまだ、機能分在型統括拠点の検討に入った企業の数もそう多くはないが、上記のような動きは実際に出ている。***
*** 上記サーベイによると、回答企業の約15%が今後、シンガポール以外の国に、統括拠点機能の一部移管を検討している
この姿が現実になれば、統括拠点には、点在する各機能間を調整し、効率的な運営を実現するという新たなチャレンジが生まれる。具体的には、機能間の情報連携体制の構築や、担当者同士物理的に離れた場所にいても、一つのチームとして意思疎通ができる関係の構築が求められる。
そしてこういったチャレンジの克服には人材面の充足が欠かせない。その一つの解決策に、「現地人材」「本社人材」の別なく連携するチームをつくること、が挙げられる。
総じて現地人材は、多様性の許容度が高く、他者との協働に長けている。また、多少精度が低くても、とりあえずやってみる、というマインドセットを有しており、その点は市場の変化対応力という点で強みがある。一方日本国内を中心として育成された本社人材は、多少曖昧な中でも物事を進めていくことに長けており、何事もしっかり考え尽くし、確実に物事を回していける点に強みがある。但し両者の協働となると、現地人材には本社人材の曖昧さと考え尽くすが故のスピード感に、本社人材には現地人材の「とりあえず」の大雑把感に、耐えられるかという懸念がある。
そもそも現地人材と本社人材、双方の強みを活かした人材マネジメントを行うというのは、多くの日本企業にとって長年の懸案であった。今、シンガポールという地において、日本企業の長年の宿題を片付ける時期がきているのかもしれない。
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