マイナンバー制度の来年(2016年)の施行に向けて、企業はどのような準備をすればよいのでしょうか? 富士通総研の榎並研究員のお話も交えながら、見ていくこととしましょう。
人事給与システムをマイナンバー対応に
来年のマイナンバーの施行に向けて企業がやることとしては、人事給与システムのマイナンバーへの対応があります。今の給与計算ソフトには、そのままではマイナンバーを入力することができませんから、アップグレードや追加開発での対応か、新規でマイナンバー対応のソフトを導入するなど、何らかの対策が必要です。システムにも詳しい榎並氏によれば、
「基本的には、人事管理、給与計算などのソフトに、マイナンバーの項目を追加することになるでしょう。出力する帳票類も、マイナンバーが入ることでフォームが変わります。人事給与計算ソフトをライセンスで導入していたり、クラウドで利用している会社では、システム会社がマイナンバーを扱えるようになるための対応を提供してくれると思われますので、問合せてみてください」とのこと。
マイナンバーの扱いで込み入っているのは、利用の制限・保管の義務だけでなく、「○年経過したら破棄する」などの破棄の義務があることです。これらの扱いについて現実的に考えると、自動で処理してくれるソフトがないと管理が難しいことが想定されます。手作業で対応ではなく、システムを使う、すべてアウトソースする、などの検討が必要です。
給与システムを自社開発している場合は改修が必要ですが、これも自社で要件定義して開発するより、マイナンバーのノウハウをシステム化したマイナンバー専用ソフトウェアを購入してシステム統合するのが良いでしょう。
給与計算等をアウトソースしている場合は、アウトソース先がマイナンバーに適切に対応できるかどうか、確認しておきましょう。
個人情報としてのマイナンバー:社員教育は全社員対象
第2回目のコラムでもお伝えした通り、マイナンバー法は個人情報保護法の特別法という位置づけです。個人情報保護法の場合は、実質5000人超の個人情報をもつ事業者のみが対象になりましたが、マイナンバー法では「ほぼすべての事業者」が対象となります。社員1人1人が個人情報に対する最低限の知識を持ち、マイナンバーを会社に提出することに、安心感を持ってもらうことが重要と思われます。そのための社員教育は非常に大事なものとなります。この点について、榎並氏はこう話しています。
「社員教育の対象者は、社員全員になります。個人情報保護法が施行されたとき、個人情報の取り扱いについて全社員に教育しましたね。今回のマイナンバーは、個人情報保護法の特別法なので、これもやはり全社員にきちんと研修をしておかないといけないものです。たとえば、もしその企業の中でマイナンバーの扱いに関して不正行為があった場合、不正行為をした人が罰せられますが、それだけではありません。この法律には両罰規定が入っているので、その法人自体も管理監督責任を問われることになります。そういった意味でも、全社員にきちんと理解させておくことが必要です」
社員教育は少なくともマイナンバーの配布が開始される10月より前に、全社員に対して実施しておくのが良いでしょう。
本人性の確認と正確性の担保
企業はマイナンバーに関しては「個人番号関係事務実施者」となります。これは第1回で触れたとおり、政府の事務業務を一部代行していることになります。企業は今年10月から配布されるマイナンバーを社員から収集しなればなりませんが、その際にそのマイナンバーが本人のものか、そしてそのマイナンバーが正しいもの(真正性)を確認しなければなりません。具体的な手続きとしては、マイナンバーを預かる際に本人の確認の書類を提出してもらうことになります。本人確認の方法としては、政府のホームページには以下が提示されています。①個人番号カード(番号確認と身元確認)
②通知カード(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
③個人番号の記載された住民票の写しなど(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
上記いずれかの方法で確認する必要があります。ただし、これらの方法が困難な場合は、過去に本人確認を行って作成したファイルで番号確認を行うことなども認められます。また、雇用関係にあることなどから、本人に相違ないことが明らかに判断できると個人番号利用事務実施者が認めるときは、身元確認を不要とすることも認められます。詳しくは、下の表のとおりです。また、対面だけでなく、郵送、オンライン、電話によりマイナンバーを取得する場合にも、同様に番号確認と身元確認が必要となります。
*図は内閣府マイナンバー資料より抜粋
ここで言う「個人番号カード」とは、マイナンバーの「通知カード」(10月以降に郵送されるもの)」と申請書を郵送するなどして、2016年1月以降に交付を受けることができるものです。
本人性と正確性の確認は、企業として少々面倒ですが、必ずやらなくてはいけない作業となります。
ここで言う「個人番号カード」とは、マイナンバーの「通知カード」(10月以降に郵送されるもの)」と申請書を郵送するなどして、2016年1月以降に交付を受けることができるものです。
本人性と正確性の確認は、企業として少々面倒ですが、必ずやらなくてはいけない作業となります。
まとめると
1.給与計算のソフトが、マイナンバーに対応すべくバージョンアップが可能か確認。独自で構築している場合はシステム改修が必要2.マイナンバー導入のため個人情報保護研修を9月末までに全社員にしていくことが必要
3.社員からマイナンバーの収集を行う際には、マイナンバー所持本人の本人性の確認と正確性を会社が担保することとなる
■関連情報
2015年10月にマイナンバー通知開始。準備は万全ですか?
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取材協力:株式会社富士通総研 建材研究所 主席研究員 榎並利博
1981年東京大学文学部考古学科卒業、同年富士通株式会社入社。1996年富士通総研へ出向。新潟大学・中央大学・法政大学の各非常勤講師および早稲田大学公共政策研究所客員研究員の兼務を経て、現職。専門分野は電子政府・電子自治体、地域活性化、行政経営。最近の研究テーマは、マイナンバー、地域イノベーションなど。
執筆協力:エヌ・ラボ株式会社 代表取締役 中島啓吾
NTT、野村総合研究所、モバイル関連事業を得て現職。
BtoBの売上拡大のためのコンサルティング、クラウドサービスの企画、内部統制構築など、ビジネス・企画支援を行う傍ら、社会保険労務士としてマイナンバー、セキュリティの支援も行う。
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