社会から生み出される膨大な情報から凶悪犯罪の予兆をあぶりだす機械と、その犯行を未然に防ぐ二人組の男たち。これはアメリカで放映中のとあるテレビドラマの概要である。街角の占いや、数年おきに話題になる大予言など、未来予知は昔から多くの人々の関心事と言える。それは未来予知によって将来のリスクを認識することが可能となり、進むべき道を事前に選べるからである。
天気予報は代表的な例といえる。気象庁は衛星、気象レーダーなどから昼夜を問わず集められた膨大な観測データをスーパーコンピュータの力を使って未来の大気の状態を予測している。その情報をもとに気象予報士は一般の方にも分かりやすい雨や晴れのマークと、ひとつの確率で可視化していく。その情報をもとに今日は傘を持っていくべきか、旅行をキャンセルすべきかなど、将来のリスクに応じた判断が可能になる。ちなみに最近では気象庁のデータだけではなく、スマホのユーザーから集めた天気に関する情報(写真データと、「雨が降りそうだ」や「肌寒くなった」などの抽象的な情報)も使い、より精度の高い天気予報を試みる会社もある。こうした膨大なデータを使ってビジネス展開をしている企業は年々増えており、ビッグデータというくくりで近年話題になっている。
筆者が未来予知に興味があるのも、年金に携わる仕事をしているからかもしれない。ビッグデータほどではないが、未来の予測は今の仕事で必要な技術である。二つの事例を紹介したい。
日本で実施されている退職金制度の多くは「退職時の給付額」を社員に約束している。そのため退職金の額や発生するタイミングは社員が実際に退職するときにしか確定されない。つまり今後の支払に備えるため、会社はいつどのくらい発生するか分からない退職金を予測する必要がある。アクチュアリーと呼ばれる人たちは数理的な手法に基づいてこうした予測を行う。社員一人ひとりがいつ退職するかは分からなくても、およその傾向をつかむことは可能である。たとえば年齢が若いときは退職率が高く、年齢が高くなるにつれ退職率が低くなる。こうした傾向を過去の実績データに基づいて退職率を予測する。以前コラムで2020年の人員分布を予測してみたが、分析に使用した死亡率は厚生労働省が同様に過去の実績データに基づいて算出したものである。このように算出した退職率や死亡率は、直近のデータに基づいて定期的に見直す必要がある。意外とも思えるかもしれないが、この方法で過去3年程度の退職実績であっても比較的高い精度でその後の退職者の推移を予測することができるし、会社の規模が大きければ大きいほどその精度は増す。
ただしこうした退職率や、ビッグデータの活用による未来予知は個人単位での予測にはあまり向かない。この場合は過去の実績やコンピュータの処理能力に頼ることなく、進むべき未来、あるいは進むべきでない未来を自ら予測する必要がある。
その事例を挙げよう。会社が退職金制度を変更したい場合、ときに大勢の方の承認が必要となる。外資系企業の場合は自国の人事・財務担当者だけではなく、海外本社の人事・財務も承認プロセスに加わることがある。そのため新制度の設計を任されたプロジェクトチームは、従業員だけではなく、社内の承認者にも受け入れられる制度を考案しなければならない。しかし、制度案が出来た段階で関係者からフィードバック(承認)をもらうのは危険である。言うまでもなくそこで「ノー」と言われてしまうとプロジェクトは振り出しに戻るからである。
そこで重要なのは、具体的な分析を行う前に、関係者各位から情報を収集すること。制度変更によって何を実現したいのか、コストを下げたいのか、終身年金のリスクを抑えたいのか、給付をマーケット水準に引き上げたいのか。こうした制度変更の目的を事前に共有できれば、新制度の候補を検討する際、その制度が本当に承認されるのかを事前に予測することができる。予測さえできればその案を検討から外すか、あるいは反対しそうな承認者を説得するための材料を用意するか。進むべき未来が選びやすくなる。
最後に個人的な事例を一つ。筆者は去年思いつきで病気や体の特徴が分かる遺伝学的検査を受けてみた。検査項目が目の濃さや心臓病の発症リスクなど多岐に渡るため、検査結果が届いたときはドキドキしたのを覚えている。アレルギーなど、いくつかの項目は既に自覚症状があったが、自覚症状がないものもあった。今後その病気になる可能性が高いと思うと、不安になる一方で、当初は想定していなかった未来が見えてくる。検査結果には高リスクと該当した項目について、リスクを下げるための様々なアドバイスもくれる。
事前に対策をするかしないかは別にしても、リスクを認識して生きていくことにより少し道が照らされた感じがする。
筆者が未来予知に興味があるのも、年金に携わる仕事をしているからかもしれない。ビッグデータほどではないが、未来の予測は今の仕事で必要な技術である。二つの事例を紹介したい。
日本で実施されている退職金制度の多くは「退職時の給付額」を社員に約束している。そのため退職金の額や発生するタイミングは社員が実際に退職するときにしか確定されない。つまり今後の支払に備えるため、会社はいつどのくらい発生するか分からない退職金を予測する必要がある。アクチュアリーと呼ばれる人たちは数理的な手法に基づいてこうした予測を行う。社員一人ひとりがいつ退職するかは分からなくても、およその傾向をつかむことは可能である。たとえば年齢が若いときは退職率が高く、年齢が高くなるにつれ退職率が低くなる。こうした傾向を過去の実績データに基づいて退職率を予測する。以前コラムで2020年の人員分布を予測してみたが、分析に使用した死亡率は厚生労働省が同様に過去の実績データに基づいて算出したものである。このように算出した退職率や死亡率は、直近のデータに基づいて定期的に見直す必要がある。意外とも思えるかもしれないが、この方法で過去3年程度の退職実績であっても比較的高い精度でその後の退職者の推移を予測することができるし、会社の規模が大きければ大きいほどその精度は増す。
ただしこうした退職率や、ビッグデータの活用による未来予知は個人単位での予測にはあまり向かない。この場合は過去の実績やコンピュータの処理能力に頼ることなく、進むべき未来、あるいは進むべきでない未来を自ら予測する必要がある。
その事例を挙げよう。会社が退職金制度を変更したい場合、ときに大勢の方の承認が必要となる。外資系企業の場合は自国の人事・財務担当者だけではなく、海外本社の人事・財務も承認プロセスに加わることがある。そのため新制度の設計を任されたプロジェクトチームは、従業員だけではなく、社内の承認者にも受け入れられる制度を考案しなければならない。しかし、制度案が出来た段階で関係者からフィードバック(承認)をもらうのは危険である。言うまでもなくそこで「ノー」と言われてしまうとプロジェクトは振り出しに戻るからである。
そこで重要なのは、具体的な分析を行う前に、関係者各位から情報を収集すること。制度変更によって何を実現したいのか、コストを下げたいのか、終身年金のリスクを抑えたいのか、給付をマーケット水準に引き上げたいのか。こうした制度変更の目的を事前に共有できれば、新制度の候補を検討する際、その制度が本当に承認されるのかを事前に予測することができる。予測さえできればその案を検討から外すか、あるいは反対しそうな承認者を説得するための材料を用意するか。進むべき未来が選びやすくなる。
最後に個人的な事例を一つ。筆者は去年思いつきで病気や体の特徴が分かる遺伝学的検査を受けてみた。検査項目が目の濃さや心臓病の発症リスクなど多岐に渡るため、検査結果が届いたときはドキドキしたのを覚えている。アレルギーなど、いくつかの項目は既に自覚症状があったが、自覚症状がないものもあった。今後その病気になる可能性が高いと思うと、不安になる一方で、当初は想定していなかった未来が見えてくる。検査結果には高リスクと該当した項目について、リスクを下げるための様々なアドバイスもくれる。
事前に対策をするかしないかは別にしても、リスクを認識して生きていくことにより少し道が照らされた感じがする。
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