世界で勝つために、戦略的リーダーシップを発揮できるリーダーを育てる

 LIXILはINAXやトステムなどの企業が2011年に統合してできた会社だ。アメリカンスタンダードやグローエなど海外の企業も買収し、住生活産業のグローバルリーダーになることを目標にしている。
 グローバル経営においては、ローカル化によるグローバル化という方針により、買収した海外の企業に日本の経営を押しつけるのではなく、海外企業の経営陣を本社経営陣に迎え、よいところを引き出しながらグローバル化を推進しようとしている。その他、ダイバーシティの促進、世界共通のコアバリューと人事制度、グローバル人材の育成、リバース・イノベーションなど、グローバル化をめざす上で不可欠の要素を経営哲学として掲げている。
世界で戦える「強くてよい会社」をつくる人事
  LIXILを世界で戦える会社にするために、我々はまず日本企業の課題を分析した。日本企業のやり方を一言で表すと「公平・継続のマネジメント」だ。横並び重視で、過去を引きずり、マニュアルやルールに縛られる。「空気」を読み、大勢に流される。

 これに対して我々がめざすのは「戦略的リーダーシップ」だ。歴史的連続性ではなく戦略的一貫性を大切にし、継続性ではなく変化を指向する。横並びではなく実力主義、空気を読むのではなく自分で決断する。そこで求められるのは、決められたことを達成するマネジメントではなく、何が必要かを考え決断し、リスクをとるリーダーシップであり、最も大きな課題はリーダーの育成だ。

 日本にはよい会社は多いが強くない。「いい人」は多いが強くない。日本には変革の時代にリスクを取って決断する本物のリーダー、すなわち「強さ」と「よさ」を両方もった真のリーダーが少ない。リーダーとは勇気と圧倒的力量を持って決断し、皆に前を向かせ、引っ張っていける人だ。一方で日本には世界最高のフォロワーがいる。世界一のフォロワーと真のリーダーが最も少ない国が日本ではないかと私は考えている。これは過去のやり方にとらわれ、成長が難しくなった時代に成長時代のやり方を変えてこなかった人事の責任だ。この反省に立って会社を変え、よい会社を強くしていかなければならない。

 世界最高のフォロワーがいるのだから、リーダーさえ育成すれば日本は世界と戦って勝つことができる。私は日本が好きであり、日本をなんとかしたいと思いGEからLIXILへ移った。LIXILを日本発の企業として世界で戦い、勝つ会社にしたいと思っている。

戦略的人事で、最高のパフォーマンスを発揮する人と組織をつくる

世界で戦える「強くてよい会社」をつくる人事
  人事には、人事制度・規則をつくる、人の評価や異動、昇進、任免、給与を 決める、勤怠管理をするといった管理・統制のイメージがある。もちろん管理も必要だが、そもそも人事はもっと経営に直結したものであり、もっと暖かいもの、人をわくわくさせるもの、人のやる気を引き出すものであるはずだ。

 私のモットーは「人で勝つ」だ。勝つための活力は静的な制度ではなく、変化を引き起こす人材と組織によって生み出される。それを可能にするのが戦略的人事だ。戦略的人事により最高のパフォーマンスを引き出すことで会社は勝つことができる。

 戦略的人事で一番大切なのはトップリーダー、つまり社長を育てることだ。日本の人事はマネジャーを育てるだけで社長を育てていない。社長は人の言うことを聴く人ではない。新しいことを考え、自ら前に向かってリスクを取る人だ。社長を育てるのにお定まりのキャリアパスはない。ひとつの資格を何年経験しなければならないといった規定に縛られていては社長を育てることはできない。できる人材は1年あるいは半年で昇進していってもいいのだ。社長の役割とは経営環境を判断し、会社が何をすべきか決断することであり、会社の規定の枠内に押し込めていたら絶対に育たない。

 戦略的人事で重要なのは人を活かすことだ。会社が最高のパフォーマンスを発揮したいなら、一番できる人を発掘し、育成し、一番難しい仕事を任せればいい。年齢や経験の長さ、国籍や人種、性別が重要なのではなく、一番できる人に一番難しい仕事をやってもらうことが大切だ。一番できる人を見つけるには、難しい仕事を与えてストレッチ(チャレンジ・背伸び)をさせればいい。誰でもできるような仕事では差がつかないが、難しい仕事をやらせればすぐにわかる。そういう「できる人」たちを鍛え、チャンスを与えることにより、会社は最高のパフォーマンスを発揮できるようになる。これができない会社、単純に年功序列で仕事をしている会社は負けていく。

 さらに社員がいきいきと働ける環境を作ることも大切だ。社員は会社の方向性が見えないとき、自分の仕事がどう会社に役立っているか見えないときにやる気をなくす。嘘をつかれたとき、隠されたときにもやる気をなくす。だから会社が何をしているかきちんと伝え続けなければならない。自分が何のためにがんばっているのか、それが会社にどう貢献しているのか感じられるようにしなければならない。こうした当たり前のことをすることで、会社に対する誇りや「自分の会社だ」という実感が社員に生まれる。これがあるとないとでは、社員のパフォーマンスが何倍もちがってくる。

 他にも戦略をわかりやすく社員に伝える、「勝つ」という意識をカルチャーとして共有する、できるだけシンプルで対応力のある組織構成にするなど、大切なことは色々あるが、すべては当たり前のことだ。正しいことを正しく実践して人の活力を引き出せば、世界で戦って勝てる会社ができる。

本物のリーダーを育てるために、特別な選抜・育成プログラムを実施する

世界で戦える「強くてよい会社」をつくる人事
  世界で戦って勝つため、社員には先を読む力や強い意志、プロとしての見識、幅広い考え、グローバルなマインドやコミュニケーション力など様々なものが求められる。

 さらにリーダーにはこれに加えてビジョンを構築するインテリジェンスやそれを戦略に落とし込む戦略的思考力、それを効果的に伝えるコミュニケーション力、そしてこれを組織で実行し結果を出す力が求められる。言葉で言うと簡単だが、身につけるのはなかなか難しい。

 一生懸命仕事をする人はたくさんいるが、一生懸命仕事をしたからといってリーダーになるわけではない。言われたことを決められた枠の中で実現する人、すなわちマネージャーはいくらでもいるが、本物のリーダーはほとんどいない。リーダーとは環境を読み、会社に何が必要かを自分で考え行動する人だ。千人に1人の本物のリーダーをふさわしいポジションにつけて活用すれば企業は勝つことができる。本物になるには、通常の仕事以外に1万時間の特別な努力がいる。

 通常の努力の継続ではリーダーは育たない。突然変異を引き起こす必要がある。だからLIXILでは普通の研修ではなく、リーダー育成のために特別な研修を行う。修羅場をくぐる、目から鱗が落ちる・一皮むけるという経験でリーダーは育つが、それを実際のアサイントメントで実現するのはポジションに限りもあって難しい。我々は研修を通じて徹底してショック・刺激を与えることによって、そういう経験をしたのに等しい気付きを与えようとしている。そのため、LIXILでは半年から1年たっぷり時間をとってリーダーシップ研修を実施している。

 そこではハウツーではなく本質を問い、厳しいメッセージを与えることで反発する力・伸びる力を引き出す。その人の軸をつくり、経験ではなく見識・考える力を形成する。そのために難しいチャレンジをさせる。そして仕上げに社長になったつもりで社長就任演説をやらせ、自分が社長になるために何が欠けているのかを真剣に考えさせる。

 LIXILではこうしたリーダーシップ研修を、すべての世代を対象に行っている。すべてのコースがアクションラーニングになっているが、エグゼクティブ・リーダーシップ研修では、次期経営リーダー候補を対象に、海外事業プランの策定や個人の価値観の探求を通して、「グローバルに通用するリーダーシップとは何か、そのために何を強化・改善すべきか」の解を見いだしていく。

グローバルリーダーを育て、人がいきいきと活躍し成長する組織をつくり、グローバルに勝つ

世界で戦える「強くてよい会社」をつくる人事
  LIXILはグローバルに勝つことを目指している会社だ。地域を越えた戦略的一貫性によって勝っていく。我々のグローバル化とは徹底したLIXILらしさを世界に展開していくことによってOne LIXILで勝っていくということだ。急成長するダイバーシティにあふれた会社だからこそ我々はLIXIL WAY、LIXIL CORE、LIXIL VALUEを世界で共有し、同じ方向を向いて経営していかなければならない。グローバル人材とはそうしたあるべき姿を描ける人材であり、WAY、CORE、VALUEを体現する人材だ。

 さらに、グローバルリーダーとはグローバルな視点から決断を下し、グローバルのスケールで変革を推進し、ビジョン・コミュニケーション・実行をグローバルに展開できるリーダーだ。そしてグローバル人材を育てるのも、創造と活力の源であるダイバーシティを推進するのもリーダーの仕事だ。

 LIXILの人事はリーダーの育成だけにチャレンジしているわけではない。人事が人事権を持つのではなく、社長や事業部門長が議論を通して人や組織の課題を議論し、人の評価を決めていくプロセスを導入した。また、議論社員が上司や人事と話し合いながら自分でキャリアをデザインし、自分を育成できるようにしようと考えている。これによって組織間のコミュニケーションが的確に行われ、トレーニングやストレッチ(果敢なチャレンジ)による効果的な人材育成が可能になる。こういったことによって社員は自分のキャリアにオーナーシップを持つことが可能になり、より高いポジションにチャレンジし、結果として実力主義のメリットを実感することができる。

 ダイバーシティにも積極的に取り組んでいる。リーダーシップ研修参加者の25%が女性である。また、社内からの積極的な登用に加えて社外からも女性役員や管理職を採用し、女性の管理職比率を上げている。
 社員のやる気を高めるために、運動会や花火大会等のイベント、現場の若手によるオフィスデザインなど、社員が参加する機会を数多く設けている。LIXILという新しい会社を社員によく知ってもらうための活動も展開中だ。こうした努力によりエンゲージメント、つまり社員がやる気を出していきいきと仕事をする状態を創り出している。

 横並びで過去にとらわれた日本型から脱却し、戦略的なリーダーによる経営と戦略的人事による最高のパフォーマンスを実現することで、日本の企業は生まれ変わり、世界で戦って勝つことができる。
 LIXILもまだまだ発展途上だが、世界で勝てる人と組織をつくり、住生活産業のグローバルリーダーになるという目標を達成していく。
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