日立といえば、世界でもトップクラスの巨大企業グループである。そんな日立グループが「グローバル人財マネジメント戦略」を2011年6月に策定し、実行している。対象は日立製作所だけではなく、日立グループ全社だ。壮大で過激な「グローバル人財マネジメント戦略」だが、プレスリリースだけではイメージが湧かない。そこでグローバル人財本部副本部長・菅原明彦氏を訪ね、詳細を聞いた。

--「グローバル人財マネジメント戦略」の対象となる日立グループの概要を教えてください。

日立グループの連結子会社は現在913社。うち国内が351社、海外は562社で海外の企業数が多い。全従業員数は約36万人だが、国内の方が多く21万6000人、海外は14万5000人。海外売上高比率は、10年が43%だったが、12年は50%超を目指している。

--他の企業グループに比べ、日立グループの企業数は多いという印象があります。

戦後から1980年代に入る頃まで日本経済は継続的に成長していたので、事業分野ごとの分離経営の方が効率が良く、「遠心力経営」になったのだと思う。ただその後に85年のプラザ合意による急速な円高の進行、90年代初めのバブル経済の破綻によって経営環境が変わり、04年頃から遠心力と求心力のバランスを取る方針に転換した。

 現在求められるグローバル化とは、遠心力と求心力のバランスを取りながら、製品やシステムを輸出販売するだけでなく、マーケティング、コンサルティングに始まり、アフターサービスまでのフルバリューチェーンを現地で構築することであり、これを支えるのが今回策定した「グローバル人財マネジメント戦略」である。

--「グローバル人財マネジメント戦略」の内容について教えてください。

人財育成・登用・処遇のグループ・グローバル共通基盤として、日立グループ全社員を対象とする「グローバル人財データベース」の構築を進めている。これは12年9月までに日立グループ全体をカバーする予定だ。データ項目は、氏名や役職区分、職種区分などだ。
 もう1つの柱は、国内外の全マネージャー以上を対象とし、約10段階に職務評価基準の統一を行う「グローバルグレーディング制度」だ。イメージしやすいように言えば、現在のグループ企業にはそれぞれの社長がいるが、そのグレードは統一されていない。

 売り上げ5000億円の企業の社長は「1」のグレードかもしれないが、500億円の社長は「2」とか「3」かもしれない。そのグレードを明確にし、人財の起用や報酬に反映させるというもの。

--グループの人財資産を可視化するのが「グローバル人財マネジメント戦略」ですか?

可視化だけに終わるのではない。ワールドワイドの人財データベースが完成したら、その上でアプリケーションが走り、必要に応じてスピーディーにデータを抽出できる。タレントマネジメント、コンピテンシー管理、ワークフォースプランニング、パフォーマンス管理、キャリア開発、人財獲得、学習管理、報酬のマーケットプライスの確認と、ありとあらゆることに活用できる。そしてグローバルに最適な人財マネジメントスキームが構築される。

--今回の「グローバル人財マネジメント戦略」は、社会イノベーション事業のグローバル展開を視野に入れたものと発表されています。

日立グループは事業領域を11セグメントに分けているが、現在は社会インフラ系を成長分野と位置づけている。そして社会イノベーション事業とは、情報・通信システム、電力システム、産業・交通・都市開発システム、そしてそれらの融合分野、材料・キーデバイスを指している。

 社会イノベーション事業の中で、火力発電事業は65%、建設機械が78%と海外売上比率が現在でも高いが、その他の事業も含めさらなるグローバル展開を加速している。

--グローバル人財の採用状況は?

日立製作所の12年度入社のグローバル人財採用実績は、海外大学への日本人留学生の採用数が約20名、日本に来ている外国人留学生の採用数が約40名、海外大学のローカル学生の採用数が数名。

 国内採用では採用計画人数750人の6割に当たる450人を、グローバル事業展開を牽引する「グローバル要員」として採用する。具体的には、事務系の150人全員と、技術系の50%に当たる300人がグローバル要員になる。

--国内採用では英語力を重視していますか?

グローバルに活躍するためには英語力は不可欠だろう。しかし採用に当たっては必須の能力とは位置づけていない。応募者の中にはTOEICのスコアが950など英語力の高い学生もいるが、だからといって即採用につながるわけではない。英語力は十分条件であるが、必要条件ではないと考えている。

--若手社員2000人の海外派遣についてお話しください。

従来の10倍に当たる2000人の若手社員に海外経験をさせるために、11年と12年に集中して派遣している。2011年実績は、グループ30社から1060名を派遣した。

 派遣先は新興国を中心とする海外の工場や顧客先、語学学校。期間は1~3カ月程度。1週間、2週間では滞在経験にとどまる。月単位で現地の生活を経験することで、世界の多様な文化や価値観に触れることができる。その経験がグローバル人財としての成長につながることを期待している。
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