先日の大雪の日、久しぶりにチェーンを巻いて車を走らせた。できれば家でじっとしていたかったが、電車が止まってしまい、子供が家に帰れないというのでは仕方がない。想えば、子供が小さかったころは、よく車でスキーに出かけた。
 スキーというのは面白いスポーツだと思う。初心者は転ぶことを恐れるが、転ぶことを恐れると、腰が引けて逆に転んでしまう。転ぶことを恐れなくなると、前傾姿勢を保てるようになり、うまく滑れるようになる。
しかし、初心者には中々それが分からない。勿論、前傾姿勢を保つだけでうまく滑れるわけではない。ゲレンデの状態、その変化に合わせて、うまくバランスを取ってスキーを操る必要がある。しかし、まずは転ぶことを恐れず、前傾姿勢を保つことだろう。

 ところで、確定拠出年金制度(DC)で継続的投資教育が義務化されて1年半ほど経った。各企業、どのように取り組んでいるだろうか?多くの企業は、義務化されたので已む無く最低限の投資教育を実施しているのではないかと思う。手間暇かかることなので、単なるコストだと思えば当然の帰結だ。しかし、本当に単なるコストなのだろうか?人事戦略上積極的に活用することはできないのだろうか?

 マーサーでお手伝いさせていただいたケースでは、ライフプランセミナーとして投資教育を実施した。従業員に投資教育の機会を提供してもあまり関心を示してもらえない、というのが事の始まり。検討した結果、投資の重要性に気づいてもらえる話をまずしようということになった。それがライフプランセミナーだ。

 最初のポイントはリタイアの時期。各自の寿命は分からないので、平均寿命(男子:約80歳、女子:約86歳)を想定し、その人生をどのように全うするか考える。まず、公的年金の支給開始年齢に合わせて、65歳でリタイアするという考え方が浮かぶが、それに限定されるものではない。65歳でも一般的にはまだ元気なので(65歳以降元気でいられる平均期間、無障害平均余命は、男子:約13年、女子:約16年)、70歳、あるいは、75歳まで働きたいと考えるかもしれない。また、ボランティアに従事したいと考える人もいるかもしれない。いずれにしても、65歳になって考えたのでは遅い。できるだけ若いうちから将来のことを考え、計画的に取り組むのがよい。そこから、将来の収入を想定することで、不足分、即ち、必要な貯蓄額が想定できる。そのうち、いくらDCで貯めようか考えることで、DCの投資と真剣に向き合うことができるようになる。思惑通り、受講者は増えた。

 それで初期の目的は達成できたわけであるが、嬉しい副産物があることに気づく。人生を考えるということは、必然的に仕事のキャリアも考えることになるのだ。最近、中高年の再教育が課題として指摘されることがよくあるが、再教育プログラムを用意しても、それだけではあまり意味がない。DC投資セミナーに人があまり集まらないのと同じように、やはり動機付けが必要である。従業員に、各自の将来についてじっくりと考える時間を提供する。コストはかかるかもしれないが、それによって自発的に自己啓発に取り組むようになり、生産性向上につながるとすれば、会社としても有益ではないだろうか。そこに、DC投資教育の機会を受身ではなく、積極的に受け止める意義がある。

 場合によっては、現在の延長線上で考えるのではなく、大きくキャリア転換を図ることを考えるようになるかもしれない。すると、新たなスキル・知識習得のためにまとまった時間が必要になることも想定される。そのとき、何が問題となるか?

・働き方を大きく変えなければならないとき、会社の理解は得られるか?
・収入が減少することになっても、生活は問題ないか?
・チャレンジして失敗したらどうするか?

と、こんなところだろう。

 フレキシブルな勤務形態を認めることが会社の利益に直接結びつくことは自明ではないかもしれない。しかし、社会の要請に応えるものであることは間違いなく、また、働きやすい会社であるということは、人を惹きつけ、少なくとも間接的には、会社の利益に結びつくことだろう。この点に関しても、会社の積極的な取り組みが期待される。

 生活の問題は個々の問題なので何とも言えないが、チャレンジということに関して言えば、失敗を恐れて腰が引けると、結局は転んで痛い思いをするということではないだろうか。失敗を恐れず前傾姿勢を保つことで初めて成功するチャンスが訪れる。本当に成功できるかどうかはその後の問題だが、まずは、一歩踏み出す勇気だろう。そんな従業員を支援する会社が増えることを願いながら、雪の中、車を走らせていた。
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