従業員サーベイのニーズが増加している。弊社においても、最近、問い合わせ件数の増加は顕著だ。お客様に共通した理由の一つは、社員の考えが見えなくなってきている事である。経営統合や再編、さらにはグローバル化の進展により、社員構成も大きく変わった企業が多い。また、世代交代によって、行動や思考様式が変わり、従来のマネジメント上の経験則はあまり役に立たなくなってきている。
もう一つの共通した理由は、打ち手が成果に結びつかない、または成果に結びついたか分からないというものだ。昇格が遅れる中で中堅層の抜擢人事をやったが、かえってモチベーションダウンや人材流出を招いてしまった。5年前からミドルマネジメントの強化に取り組んでいるが変化が見られないがどうしたら良いか?などである。

 このようなお客様のニーズには、従来型の「社員意識調査」では十分に応えられない事が多い。それでは、どんな点に気をつけてサーベイを選択したり、設計したりすれば良いのだろうか。以下、弊社の経験に基づくポイントを列挙していきたい。

 ■ マネジメント行動に焦点をあてた質問設計

 従来型の社員意識調査における典型的な質問として、「組織間の連携は円滑である。YesかNoか?」といったものがある。確かにこの質問のスコアから、組織の状態をある程度、把握することができるかもしれない。しかし、改善に向けた打ち手を検討するためのヒントや情報はほとんど得られないと言って良い。

 仮に組織間連携に問題があるとしても、誰のどんな行動について問題と感じたかを特定できないと、原因は分からないし、打ち手も検討することはできない。対応策としては、組織階層に従って、経営層、部門長、一般社員といった主体を明確にしたうえで、マネジメント行動を聞くことが効果的である。

 この他にも、質問設計においては基本的なセオリーを無視してサーベイの精度を低下させているケースがまだまだ見られる。例えば、「あなたは業務改善運動に積極的に取り組んでいますか」、「上司は幅広い情報収集のもとで部門戦略を立案し部下に徹底していますか」、「私は会社のコンプライアンス体制は十分だと思う」などである。サーベイ経験のあるお客様にとっては周知のことなので、今回は説明を控えたいが改めて注意したいポイントだ。

 ■ 組織課題に対する仮説を持つ

 先ほどの改善案は、「組織間連携の問題は部門長のマネジメントに原因があるのではないか」という仮説に基づいているのがお分かり頂けると思う。仮説を持つことで意図の明確な質問と原因の検証が初めて可能になる。この点、一般的な社員意識調査は、個社向けにカスタマイズしたものではなく、仮説が無いか曖昧なまま質問を作成している点に限界がある。

 一方で、ある程度の質問の網羅性も必要である。そこで弊社では、サーベイの設計に入る前に、経営層や部門長、キーマンに対して経験豊富なコンサルタントがインタビューを行い、組織課題と原因仮説の洗い出しを行い、仮説の精度を高めるとともに、一般的に良くある組織課題に基づいた質問を組み合わせることで、一定の網羅性も確保できるような工夫をしている。

 ■ 原因構造をつきとめる

 組織の問題が続くようであれば、必ず悪循環のような原因構造が存在すると推定してよい。例えば組織間連携であれば、「行き過ぎた利益管理が部門間にWIN・LOSEの関係を作ってしまい、更に数字だけ見て現場を見ない経営層のマネジメント行動がこれを強化してしまっている」といった事例があげられる。

 このような原因構造の特定においては、重回帰分析等の統計的手法を通じて、最も大きい影響を与えている原因を見極めることが効果的だ。単なる仮説に止まらない、事実に基づく説得力を持たせることができる。この点は、どうやって組織を改革していくかという次のテーマに重要な意味を持ってくる。

 ■ サーベイ結果の活用方法を見直す

 サーベイの分析データをただ羅列した報告書を、各部門に丸投げして、分析結果の解釈や打ち手を現場任せにしていないだろうか。おそらく従来型の社員意識調査をされているお客様では、「これが問題の原因なのでこのテーマに取り組んでください」というほど明確なメッセージは出せない。だからといって現場ならそれなりに解釈して打ち手も考えてくれるだろう、というのは無理な話である。

 少なくとも重要度の高い課題とその原因の指摘は必要である。さらには原因構造を裏付ける事実を部門長に提示できれば、強い説得力を持つ。現場の課題解決のためには、打ち手のヒントを部門長に提供することも大事だが、それ以上に本当にそのような課題が存在するという確信やリアリティを、部門長に持ってもらうことが重要ではないだろうか。

 更に踏み込むのであれば、企画部門が事務局となり、サーベイ報告書を材料として、経営層、部門長といった階層ごとにワークショップ形式で組織課題に対する理解を深め、打ち手のアイデアを交換し合い、具体的なアクションプランへ落とし込むサポートもすべきだろう。そして、PDCAのサイクルを、単年度で終わらせることなく粘り強く回してもらうように継続的に働きかけていくことも必要だ。

 ■ 最終的にめざすのは「組織の自律的な問題解決能力の向上」

 個別の組織課題への対処は、実は組織改革の出発点でしかない。最終的な狙いは組織の自律的な課題解決能力を向上させる、または取り戻させることである。サーベイは、その出発点であり、きっかけを作ることでしか過ぎないという点を最後に強調したいと思う。
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