意識調査では、「自分の好きでない仕事を割り当てられたら、意欲を失うのは当然である」という設問に対し、17.2%が「そう思う」(意欲を失う)と答えています(「そう思わない」が68.1%、「わからない」が14.7%)。この設問、この10年で13%ほど「そう思わない」と答える率が向上しています。
「意欲を失うのは当然だ」と答える人には、「私には個性があるのだから、その個性が生かせる仕事じゃなきゃやらない」、あるいは「基本的に仕事とは、つらいもの、生活のために仕方なくするもの」という考え方をもっているのではないでしょうか。個人的には、こういう若者が多いような気もしますが、そういう人は採用されないので、結果、採用された新入社員では「そう思わない」という回答率が上がっているのだと思います。
とはいえ、まだ17.2%の人が「意欲を失う」と答えています。

世の中には、「好きこそ物の上手なれ」という言葉もあり、好きなことをしていれば、それに熱心になるので上達も早い、というふうに考え、「だからこそ、好きな仕事を選ばなきゃだめだ」という人もいます。
一方で、「下手の横好き」という言葉もあり、下手であるにもかかわらず、その物事をするのが好きで、やり続ける人もいます(この場合、仕事にならない)。
共通するのは、「好きならば、成果はどうであれ、やる」ということで、ここだけは、真実でしょう。

でも、「好きだからこの仕事をやり始めた」という人は、実態としては少ないように感じます。
個人的な感触ですが、関東圏の私鉄の運転士さんとお話しすると、3割くらいは「鉄道趣味」の人です(鉄道系の高校出身者も多い)。ところが、関西圏の私鉄の運転士さんで「鉄道趣味」の人は1割程度しかいないように感じています。

そこで、研修の際に聞いてみました。
「なぜ、この会社に入ったのですか?」
多い答えは、
 関東圏:電車が好きだから。電車を運転したかった。
 関西圏:大きな会社だから。安定していると思って。

○○電鉄、という名前の会社だと、世間体もよく、収入も安定するという思考で関西圏の人は就職した人が多いようです。「好きな仕事(趣味)」を選んだわけではないのですね。
ところが、この人たちと運転技術の話をし始めると、止まらないのです。仕事のやりがいを聞くと、とうとうと話すのです。
「ダイヤは生き物なんですよ。刻一刻と変わるんです。遅れた時に、どう回復させるか、それが腕なんです」
「師匠が運転すると、絶対空転(車輪が空回りすること)しないんですよ」
「2000人の命を預かる仕事ですから・・・・」
「子供のあこがれの仕事ですから、ピシッとしないと」

やっているうちに、好きになる、好きではなくても、誇りを持って仕事をするようになるのですね。仕事って、そういうものだと私は思います。希望とは違う部署に配属されても(たとえば、経理のつもりが営業)、その仕事をしているうちに、好きになっていくというようなことはよくあることではないでしょうか。

幸いにして、データでは約7割の人は「自分の好きでない仕事を割り当てられたら、意欲を失うのは当然である」という設問に対し、「そう思わない」(意欲は失わない)と答えています(15%程度の人は、「わからない」と回答)。
しかし、17.2%の人は、「意欲を失う」わけで、それをそのまま放置していては、「なんで、こんな仕事させるんだよ」とマイナスのオーラを周りに振りまく人になってしまいかねません。

では、どうやって、「意欲」を持ってもらえばよいのでしょうか?

有名な寓話に石切職人の話があります。
『石切工が「あなたはなにをしていますか」と尋ねられたときの話がある。
第一の男はこの問いに対して「わたくしはこれで生計を立てているのです」と答えた。
第二の男は金槌を振りながら、「国中で一番よい石切りの仕事をしているんだ」と答えた。
第三の男は幻想的なまなざしも高く、「わたくしはここにすばらしい寺院を建てるのだ」と答えた』
(ダイヤモンド社 P.F.ドラッカー 「現代の経営(新装版)」上)

ドラッカーはこの寓話を経営担当者の適性の事例として取り上げているのですが、「仕事の意味を問う事例」として実際にはよく使われています。

すなわち、第三の男のように、自分が行っている仕事が世の中にどう役立つのか、その意義を理解して行動することで、意欲も出れば、仕事に対して工夫もする、誇りも生まれるという事例で使われます。
ところが、新入社員に「仕事の意義や意味」をきちんと伝えることができているのか?というと、意外とできていないことが多いのです。実際、仕事はやってみて、やりきってみないと何のことかわからないことも多いのが現実ではないでしょうか。そこで、つい「石の上にも三年というだろう。もう少し耐えろ」なんて、言ってしまうのではないでしょうか。

私自身、今の仕事の面白さがわかったのは、実際のところ、30歳代に入ってからですし、その頃よりも今のほうが面白いと感じています。20歳代は、「売れた、だから、お役立ちできているに違いない」程度の実感ですから、お客様や先輩・上司に迷惑をかけていたと思います。万歩計を付けて、「今日は、3万5千歩、歩いた!」とか、「30件飛び込んだ!」など、仕事の面白みがわからないのでそんなことで自分を動機付けていた記憶もあります。
そんな私から見ると、20歳そこそこで、仕事の意義ややりがいを感じられるなんていうのは、相当幸せなことです。

仕事の面白みは、やってみないと分からないことではありますが、それでも、それでもなお私たちは、新入社員にこの仕事の意味、意義、やりがいを伝える努力を怠ってはならない、と思うのです。先輩社員である私たちが、日々、やりがい・誇りを感じながら仕事をしている姿を見せることこそが一番大事なのではないでしょうか?
それこそが、最大の教育ではないかと思うのです。
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