前職でのことですが、研修終了後、初めて私が配属されたある営業所に行った朝(7月1日でした)、座る場所も資料も何も用意されてなかったことを思い出します。
その日は事務の人の仕事を手伝い、終業後はまっすぐ帰りました。
翌日、初めて育成担当者と会い、しばらく一緒に営業に行きましたが、1ヶ月後にその方は異動、以降、一年の間に上司が4回交代。元々、直行直帰が当たり前の営業でしたので、上司、同僚といえども、接点は多くなく、お客様先での振舞いは、他の会社の年配の営業の方に現場で教えていただきました。
営業力を鍛えるには、ある意味、良かったのかもしれませんが、今なら考えられないことです。

弊社の新任管理者研修の中では、新人受け入れのための準備として、以下の三項目をあげています。
1.人事情報・教育内容を把握する
2.受け皿を整えておく
3.育成計画を立てておく

<1.人事・教育内容を把握する>
人事担当者のサイドから、直属上司に新人の情報を予め提供、共有すると言うことです。
新入社員がどんな希望を持っているのか、どんな経歴があるのか、それを知っていることで、「あなたに興味関心があるのだよ」ということを示すことができます。何も情報がないのでは、最初の会話すら成り立たちません。まずは、人事方がしっかり現場に情報提供する必要があります。
そして、私たちは、その新人の強みを生かし、成果を上げる必要があります。たとえ新卒社員であっても、その人の強みを知っておくことは重要です。

ところが、ある人事担当の方から、「意識調査の結果など、活用はしていきたいのだが、あまり先入観を与えるのもどうかと思いまして」という相談を受けたことがあります。採用から研修までの期間の様々な記録や評価、個々人の特性を示す意識調査などの資料は、使い方によっては大変重要な情報ではあります。

確かに、この人事担当者が指摘するように、「意識調査の傾向から、ちょっと控え目。研修期間中も、周りを見て行動していました」などと人事担当者から言われると、現場管理者は最初から相当構えて対応してしまいそうです。下手をすると「君、あんまり積極的じゃなかったらしいじゃないか。ここで叩きなおしてやる!」と最初から圧力をかける管理者がいたりするかもしれません。
それでも、こういった情報を共有すべきだと思います。情報が与えられて構えてしまうのは、管理者の側に課題があると考えたほうが良いと思います。

人の個性を生かし、能力を引き上げていくのが私たちの仕事です。ここは、「周りに合わせられる配慮のできる人」というように、プラスに転化して理解し、伸ばしていくようにしたいところです。

<2.受け皿を整えておく>
ハード面としては、机をきれいにして、文房具類も用意しておきます。仕事をする上で必要な書類なども用意します。いかにも歓迎している、という雰囲気を作っておくことです。
ソフト面としても、部門メンバーに、いつ、なんと言う新人が来るのか、周知しておきます。
当然のことですが、指導担当者を決めておき、育成計画を作っておくことも必要です。

何よりも、第一印象がすべてです。
新入社員は、最初は警戒心、不安でいっぱいです。その状態で悪い第一印象を与えると、指導・育成は大変難しくなります。部門全員で歓迎したいところですね。

<3.育成計画を立てておく>
会社全体として、人事側が育成計画やOJTでのガイドラインなどを作っておくことはもちろんですが、配属部署でそれらを元に
誰が育成責任者、育成担当者なのか(時期や教える業務によって代わることもある)
いつまでに、何を、どの程度できるようにするのか
しつけのガイドライン
といったものを用意、共有しておく必要があります。

その上で、新入社員と育成計画に基づき、目標を設定します。
どんな新入社員でも、入社した会社に夢を持って入ってきています。「夢に日付を入れることを目標という」というそうですが、夢に近づくためのプロセス目標を新入社員と一緒に設定することからはじめます。
そして、その目標をやりきらせるために、きちんと報連相をさせ、支援し、一緒に達成することで早期戦力化が図れるものと思います。

あるお客様がこれまでの「即・現場」という流れを変えて、1年もの長い基礎研修を取り入れていらっしゃいました。仕事が高度化・複雑化するなかで、何もできない新人をお客様先に投入するとお客様に迷惑をかける、と判断したのです。
しかし、その1年の間に新入社員は覇気のない、「ぼけた人材」になってしまいました。現場から、「前より使えないじゃないか。動きが悪い」と批判を受けていました。

さらには、「育成は、育成部門がやるもの」との意識から、現場そのものから「育成体制(意欲、技術)」がなくなってしまいました。これでは、どんな新人を投入しても一部の「どこに入れても何とかなりそうな新入社員」以外は落ちこぼれてしまいます。

この状況を打破するための取り組みをスタートするにあたり、新しい人事担当者は現場ヒアリングを行いました。「できる新人を送り込まない人事が悪い」「なんであんな新人を採用したんだ」「こっちは、仕事で忙しいのに、新人を配属された。育成なんかできるか」と散々な状況だったそうです。

何より、現場にしか仕事はありませんし、仕事を通じてしか仕事ができる能力を習得できません。

私の見聞きした経験では、基礎中の基礎を終えた後はできるだけ早く現場に入れ、指導者対新入社員が1対1程度の環境の中で(徒弟制度的に)みっちり教え込む職場の方が成長は早いようです。

問題は、その「みっちり教える指導者」を育成できなかったり、誤った育成制度を作ったり、あるいは、新卒採用を一時中断したりしてしまうと、現場での育成風土は数年で失われてしまうところにあります。現場は意外と短い間で育成ノウハウを忘れてしまうものです。再構築には数年はかかりますが。

現場に育成体制はありますか?失っていませんか?
採用を必要以上に絞っていませんか?
新人を「現場に押し付けている」と思っていませんか?
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