最近、人材の質の低下を嘆く声を耳にすることが多い。世代論、教育論、社会論、家庭環境等、様々な観点でも語られているが、私は商売柄、企業の採用や育成の悩みとしてよく耳にする。
巷間では、草食系男子、情報病という言葉を用い、「周囲の空気を読んで足並みをそろえる。平均的なところで無難に生きる。外見上の評価を特に気にし、周囲とのコミュニケーションに時間を消費する。」といった人物像が描かれたりもしている。
巷間では、草食系男子、情報病という言葉を用い、「周囲の空気を読んで足並みをそろえる。平均的なところで無難に生きる。外見上の評価を特に気にし、周囲とのコミュニケーションに時間を消費する。」といった人物像が描かれたりもしている。
今、私は、企業組織の中で、人材におけるデフレスパイラルが起きているのではないかと感じている。
昨今の急激な環境変化に対し、「ついていけない」という感覚を持ち始めている人たちが増え、自分を守ろうとして失敗を犯さないように挑戦的な仕事に取り組まず、失敗をしても取り繕う行動が出始め、更に、それを見た上司が「どうしようもない。成長の見込みがない。」というレッテルを貼り、上司からの期待感が弱まったと感じた部下の能力伸長が低下し・・・、という巡り巡る負のスパイラルである。
スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授は、「固定思考(Fixed Mindset)」という思考傾向を次のように定義している。「外見上の評価を気にし、自己評価が甘く、失敗を取り繕い、自分の否定的要因を無視し、自分よりも劣る人間を探し自尊心を保とうとする」というものだ。このマインドセットは、「人は、新しいものを覚えることはできるが、賢さや知能は人の土台を為すもので変えることはできない」と深層で考える心理が影響するようである。(ちなみに、対立概念は、「成長思考(Growth Mindset)」であり、「成長こそが人生であり、失敗を厭わず、自分が成長するために、正確な自己評価を心がける」傾向のことを指す。)
ここ数年の経済情勢の悪化、経済環境の変化は、社員に対してこれまでにない新たなプレッシャーを産み出している。営業活動の増加、製品ライフサイクルの短縮化への対応、グローバル化、聖域なきコスト削減策など、従来経験したことの無い環境変化は、特に過去の成功体験が強い人ほど、適応が遅れ、気付けば「ついていけない」と感じる状況に陥ることになる。自己の成長や知能の土台に少しでも疑念を抱いたら、固定思考の行動様式が無意識に表に顕れ始める。しかも、その行動を見た経営者、マネジャー、人事担当者は、多くの場合「この人は成長しない」とレッテルを貼ってしまう。
もし、組織の中で、
■経営者が人材の質や成長を心の底で信じておらず、
■中間のマネジャーが、不景気による環境変化の荒波に晒されて自信を喪失し、
■現場の社員が、周囲の空気を読んで、無難なところで生きようとし、自己の成長にコミットしていない
としたら、このデフレスパイラルを止めようがないではないのではないか。
「新しい価値を創造して、何としてでも価格下落を食い止め、反転上昇のスパイラル(連鎖)を生み出したい」
一昨年11月に、東芝の大角正明執行役常務が管轄するテレビ事業の今後についてコメントした際の言葉を借りるまでもなく、新たな価値を生み出さなくてはデフレの下降線は止まらない。経済のデフレスパイラルの背後には、本質的に人材のデフレスパイラルが関与していると私は思うのである。これを断ち切らなくてはならない。
既に、リーマンショック以来2年が経過。世界の中で、日本が、特に、厳しい低迷に晒され続けている。もちろん、実勢を十分に反映しているとは言い難い為替相場の問題もある。しかし、日本がこのショックから立ち直れないのは、「自身を、組織を、成長させ続けようとする」個人の絶対数の少なさのように思えるのである。
私は、世の中での経済政策を論じる前に、それぞれの組織において、経営者が自社の人材の質と成長を心の底から信じ、環境変化の荒波に立ち向かう決意をしたマネジャーを揃え、現場の社員に成長に向けたコミットメントを醸成する施策を本当に実行しているのかを問い続けたいと思っている。
実は、これを書きながら、バンクーバーオリンピックで、“史上初めて”トリプルアクセル3回を成功させ見事銀メダルを獲得した浅田真央選手の取組みと発言を描いた番組を思い出していた。今期、彼女は、コーチや専門家の言葉によれば、素人目には判らない高みを目指し、限界に挑み、それを乗り越え、そして成功させたのである。その中途で直面した成長の踊り場すらも乗り越えて!
成長の踊り場は非常に苦しいものである。そんな中、彼女は、一貫して「私は挑戦し続ける」という言葉を口にしていた。私は、大きな尊敬の念を抱くと共に、負けていられないと決意を新たにしたことを思い出す。周囲の声に迎合せず、非常に厳しい環境下にあって、成長思考を貫き通した彼女の姿勢に我々は多くを学ぶべきではないだろうか。
昨今の急激な環境変化に対し、「ついていけない」という感覚を持ち始めている人たちが増え、自分を守ろうとして失敗を犯さないように挑戦的な仕事に取り組まず、失敗をしても取り繕う行動が出始め、更に、それを見た上司が「どうしようもない。成長の見込みがない。」というレッテルを貼り、上司からの期待感が弱まったと感じた部下の能力伸長が低下し・・・、という巡り巡る負のスパイラルである。
スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授は、「固定思考(Fixed Mindset)」という思考傾向を次のように定義している。「外見上の評価を気にし、自己評価が甘く、失敗を取り繕い、自分の否定的要因を無視し、自分よりも劣る人間を探し自尊心を保とうとする」というものだ。このマインドセットは、「人は、新しいものを覚えることはできるが、賢さや知能は人の土台を為すもので変えることはできない」と深層で考える心理が影響するようである。(ちなみに、対立概念は、「成長思考(Growth Mindset)」であり、「成長こそが人生であり、失敗を厭わず、自分が成長するために、正確な自己評価を心がける」傾向のことを指す。)
ここ数年の経済情勢の悪化、経済環境の変化は、社員に対してこれまでにない新たなプレッシャーを産み出している。営業活動の増加、製品ライフサイクルの短縮化への対応、グローバル化、聖域なきコスト削減策など、従来経験したことの無い環境変化は、特に過去の成功体験が強い人ほど、適応が遅れ、気付けば「ついていけない」と感じる状況に陥ることになる。自己の成長や知能の土台に少しでも疑念を抱いたら、固定思考の行動様式が無意識に表に顕れ始める。しかも、その行動を見た経営者、マネジャー、人事担当者は、多くの場合「この人は成長しない」とレッテルを貼ってしまう。
もし、組織の中で、
■経営者が人材の質や成長を心の底で信じておらず、
■中間のマネジャーが、不景気による環境変化の荒波に晒されて自信を喪失し、
■現場の社員が、周囲の空気を読んで、無難なところで生きようとし、自己の成長にコミットしていない
としたら、このデフレスパイラルを止めようがないではないのではないか。
「新しい価値を創造して、何としてでも価格下落を食い止め、反転上昇のスパイラル(連鎖)を生み出したい」
一昨年11月に、東芝の大角正明執行役常務が管轄するテレビ事業の今後についてコメントした際の言葉を借りるまでもなく、新たな価値を生み出さなくてはデフレの下降線は止まらない。経済のデフレスパイラルの背後には、本質的に人材のデフレスパイラルが関与していると私は思うのである。これを断ち切らなくてはならない。
既に、リーマンショック以来2年が経過。世界の中で、日本が、特に、厳しい低迷に晒され続けている。もちろん、実勢を十分に反映しているとは言い難い為替相場の問題もある。しかし、日本がこのショックから立ち直れないのは、「自身を、組織を、成長させ続けようとする」個人の絶対数の少なさのように思えるのである。
私は、世の中での経済政策を論じる前に、それぞれの組織において、経営者が自社の人材の質と成長を心の底から信じ、環境変化の荒波に立ち向かう決意をしたマネジャーを揃え、現場の社員に成長に向けたコミットメントを醸成する施策を本当に実行しているのかを問い続けたいと思っている。
実は、これを書きながら、バンクーバーオリンピックで、“史上初めて”トリプルアクセル3回を成功させ見事銀メダルを獲得した浅田真央選手の取組みと発言を描いた番組を思い出していた。今期、彼女は、コーチや専門家の言葉によれば、素人目には判らない高みを目指し、限界に挑み、それを乗り越え、そして成功させたのである。その中途で直面した成長の踊り場すらも乗り越えて!
成長の踊り場は非常に苦しいものである。そんな中、彼女は、一貫して「私は挑戦し続ける」という言葉を口にしていた。私は、大きな尊敬の念を抱くと共に、負けていられないと決意を新たにしたことを思い出す。周囲の声に迎合せず、非常に厳しい環境下にあって、成長思考を貫き通した彼女の姿勢に我々は多くを学ぶべきではないだろうか。
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