学生時代のアマチュア演劇の仲間を集め、久しぶりに社会人劇団として公演を行った。土日のみの練習で、半年間準備をして公演にこぎつけ、結果は有り難い事に大成功と呼べるものになった。しかし、実は公演1ヶ月前までは上演に耐えうるか不安で皆で頭を抱えていた。公演3週間前から飛躍的に伸びて完成度が高まったのである。
3週間の飛躍的な伸びの原因が何だったのか改めて考えてみると、それはひたすら練習するのを一旦止めて、膝詰めで議論をした事だと思う。「この劇を通じてどんなメッセージを送りたいのか」「観終わった観客にどんな印象を残したいのか」を、劇全体・各場面・各役について皆が具体的なイメージで共有出来るまでとことん話し合ったのである。

思い起こせば以前お手伝いをさせて頂いたプロジェクトでも、機動的な人材活用のあり方について煮詰まってしまい、プロジェクトメンバー全員が焦りを感じてしまったという事があった。社長の肝入りで部門横断的にメンバーが集められ、議論を始めたが「何をするか」という施策のアイデア出しに終始し、収集がつかなくなっていたのである。役員会での答申の日は刻一刻と迫っていた。

「グローバルな幹部育成制度を作って日本人ではなくても昇進出来るキャリアパスをみせよう」とか、「女性が辞めないように制度を充実させるだけでなく上司や職場の意識変革が必要だ」とか、個別施策のアイデアは出てきていた。しかし、「その施策を通じてどういう結果を得たいのか」が、見えていなかったため、具体的な計画や優先順位づけに至らず、「本当にこれで良いのか」と頭を抱えることになってしまっていたのである。

その状況を打破することになったきっかけは、「結局どうなりたいのか」を具体的にイメージ出来る短い言葉で表現し、共有したことだった。具体的なポイントを纏めると以下のようになる。
1. 近い将来のある時点(その時は2015年)に今回の取り組みを通じてどうなっていたいかを想像する
2. 実現するのは難しいが、可能性としてありえそうな未来をイメージ出来るキーワードを挙げる
3. 「○○○が○○○している状態を実現する」といったように短く、クリアで共有出来る言葉に纏めていく

この作業は夢を語り合うもので、非常に楽しかった。「我が社が○○○を達成するにはどうするべきか」と大上段に議論を展開しようとしても、イメージが無く抽象論に終始してしまうのに対して、非常に具体的でとっつきやすいのである。また、ある程度場があたたまっていたこと(これまでの議論を通じて現状や課題についての情報が頭に入っていたこと)も効果的に働いたといえるだろう。

その後の展開はスムーズで、どうなりたいかイメージを頭に描きつつ、具体的な提案を完成させて自信を持って答申に臨むことができた。メンバーの皆さんの顔が明るくなった事を思い出す。

問題を考えるときに、大上段に構えすぎてしまい、却って問題の本質が見えにくくなってしまうことがある。そういう場合は、最終的なアウトプットを、断片的であっても具体的な言葉で表現してみる事が有効かもしれない。一見、回り道のように思えるかもしれないが、そういうイメージを共有する中で、メンバー間に共通認識が出来るし、それによってこれまで議論してきた施策の位置付け・順位・求めるべき結果がクリアになっていく。メンバー全員が自信を持って語れるようになる。

ちなみに当の社会人劇団は大成功に味をしめ、また大変な思いをしてもやりたいということになった。反省会で膝詰めの議論の重要性も確認された。来て下さる方に楽しんで頂けるように、まず自分達は楽しくやる事が大事と考えているので、場をあたためて来年も感動を呼べるようにしたい。
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