働き方改革が進められる中で、「副業」が注目を集めています。副業は「イノベーションの促進に有効」とされていますが、安易に推奨してもいいのでしょうか。東洋大学 准教授 川上 淳之氏が、労働経済学、マクロの観点から副業に潜む問題点を取り上げました。講演の後半では川上氏と学習院大学 名誉教授 今野 浩一郎氏によるディスカッションが行われました。
講師
川上 淳之 氏
東洋大学 准教授
東洋大学経済学部准教授。学習院大学学長付国際研究交流オフィス、帝京大学経済学部を経て現職。専門は労働経済学。最近の著作に、「誰が副業を持っているのか―インターネット調査を用いた副業保有の実証分析―」(『日本労働研究雑誌』に掲載)、「なぜ副業をするのか―自由と制約のあいだで」(玄田有史編『30代の働く地図』岩波書店に掲載)がある。
今野 浩一郎 氏
学習院大学 名誉教授 / 学習院さくらアカデミー長
1971年3月東京工業大学理工学部工学科卒業、73年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。73年神奈川大学工学部工業経営学科助手、80年東京学芸大学教育学部講師、82年同助教授。92年学習院大学経済学部経営学科教授。2017年学習院大学 名誉教授、学習院さくらアカデミー長。主な著書に、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)など多数。
働き方改革で注目される「副業」の全体像とその傾向
東洋大学 准教授 川上 淳之氏
日本の副業保有率の実態とは
「副業」が注目される発端は、2017年3月に「働き方改革実行改計画」に取り上げられたことにあります。政府は、これまで原則禁止としていた副業を一転、「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段」との期待を込め、推奨する方向へ舵を切りました。東洋経済の「CSR調査」によれば、副業を認可している企業の割合は、2017年から2018年にかけて18.7%から28.3%に変化しました。企業はまあまあリアクションを取っていると言ったところでしょう。一方で、実際に働く人たちが副業を持ち始めているかと言えば、必ずしもそうとは言えません。リクルートワークス研究所の『全国就業実態パネル調査』」では、副業保有者の割合は横ばいとなっています。ここで一旦、視点を上げ、日本国内の副業の全体像と傾向を捉えてみることにします。実は私たちが何となく持っているイメージとは裏腹に、副業の保有割合は2000年代に入ってから低下していました。総務省統計局の『就業構造基本調査』によれば、2017年の段階で副業をしている人の割合はわずか4%です。一方、副業を希望する人の割合は右肩上がりで伸び続けており、ニーズに応えられていない現状が伺えます。また、副業を持っている人の本業に目を向けると、経営者が20%、兼業農家が30%、正社員が15%、非正規社員が30%となっており、副業を持つ正社員は非常にマイノリティな存在と言えるのです。なお、日本の副業保有割合は世界で見ると、平均よりやや低めとなっています。
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