社会が変化していることは、街の風景や店舗で実感できる。とくに存在感を増しているのがコンビニだ。大規模大学にはかならずと言っていいほどコンビニがあり、学生が頻繁に利用している。大型オフィスビルにもコンビニは設置され、ビジネスマンが弁当、おにぎり、スナック、飲料を買っている。
 そして街中のコンビニを観察すると、利用客に変化がある。1980年代、90年代は若者、なかでも男性の姿が目立った。エリアによってはいまも若者が多いが、住宅街にあるコンビニでは中高年や女性がかなりいる。主婦と思われる女性も多いし、弁当と飲料を買い求める高齢者もいる。
国内市場は「飽和した」と言われるが、コンビニ客の変化を見ると、高齢化と一人世帯の増加によってニーズが変化しているように見える。多様化と言ってもいい。そんな多様な顧客ニーズに積極的に応えているのがローソンだ。

 看板を見ると「LAWSON」というロゴは同一だが、色が違う。従来からの青のローソンに加えて、赤のローソン、緑のローソンがあり、品揃えが違う。品揃えが違えば来店客も変わる。時代の変化を的確に捉えた巧みな経営戦略だ。

 そのローソンが力を注いでいるのが、女性と外国人の採用だ。大崎のローソン本社を訪ね、その人材戦略を村山啓執行役員CHO兼ヒューマンリソースステーションディレクターに聞いた。

――まずお聞きしたいのは現在のローソンの実態です。店舗数、売上高、正社員数、男女比率を教えてください。

国内は8支社の下に78支店があり、店舗数は1万639店。その90%はフランチャイズで直営店は1,000店舗程度だ。売上高は連結で1兆8000億円、正社員数は今年2月末時点で6450名だ。男女比率は女性14%、男性86%。女性比率はまだ低い。

――今回のインタビューに先立ち、いくつかローソンの店舗に入ってみました。まず気付いたのは、旧来からの青い看板のローソンだけでなく、いろんな色のローソンがあることでした。そして品揃えが異なっています。この背景を教えてください。

ご覧になった店舗は、赤、緑などのローソンだろう。従来からのローソンは青だが、女性を中心に「美しく健康で快適な」ライフスタイルを身近でサポートする「ナチュラルローソン」は赤、スーパーの「幅広い品揃え」、コンビニエンスストアの「利便性」、100円ショップの分かりやすい「均一価格」を兼ね備えている「ローソンストア100」は緑と看板の色を変えている。

 このような店舗を展開している背景は、新たな客層が生まれていることにある。ローソンの1号店は1975年にオープンしているが、1980年代、90年代までの顧客の中心は、若者であり、とくに男性が多かった。

 しかし高齢化の進展、女性の社会進出、一人世帯の増加などによって、顧客が変化した。いまではコンビニエンスストアの利用客は男性の若者だけではなく、女性、中高年、主婦層に広がっている。多様化した顧客層の内部をセグメント化し、それぞれのニーズに特化した店舗が「ナチュラルローソン」、「ローソンストア100」だ。従来の青いローソンに野菜などの生鮮品を導入した生鮮強化型店舗も4000店舗以上ある。

――PB商品が増えていることに驚きました。

ローソンだけでなく、他社もPB商品の開発には力を入れている。ローソンは「ローソンセレクト」というブランドで展開しており、現在の品数は250種類以上ある。

 コンビニエンスストアは仕入れた商品を店舗に並べているだけ、と考えている人が多いと思うが、そうではなく、お弁当、おにぎり、デザートのような食品類は自前で作っている。ローソンセレクトの牛乳、お茶、冷凍食品に始まり、ティッシュペーパーのような日用品も自社で生産しており、メーカー機能を持っている。

 PB商品の開発に力を入れる理由は、利益率の確保だ。従来のコンビニエンスストアは、長時間開いているという便利性があったから、スーパーよりも10円高くても買ってもらえた。しかし長時間開いているのはコンビニエンスストアだけではなくなっている。業態を越えたメガコンペティションに勝つためには、自社生産するPB商品を増やしていく必要がある。

――他の小売業に比べた場合、コンビニの優位性はどこにあるのでしょうか?

名前の通りのconvenienceだろう。スーパーの商品は、肉にしても野菜にしても、基本は4人家族のボリュームを想定している。コンビニエンスストアは1~2人向けが基本であり、大きな違いがある。

 またスーパーは車での来店を想定した立地が多いが、コンビニエンスストアには歩いて行ける。そしてコンビニエンスストアはコンパクトなので、短い時間で買い物ができる。スーパーの売り場は広く、夕飯の買い物に行って、野菜、肉、豆腐と買いそろえていけば、30分近くかかることが多い。コンビニエンスストアの場合は、お客さまが入店されてから、レジを済ませて退店されるまでの平均時間は5分とスピーディだ。

――グローバル戦略についてうかがいます。ローソンは2020年までに中国で1万店舗を出すと宣言されています。

空理空論で1万店舗と宣言したわけではない。2012年4月末現在の中国の店舗数は、上海319、重慶41、大連5だ。この数に足し算していくと、達成が困難に思えるだろう。しかし中国を一つの国として理解するのは間違いだ。それぞれの都市は異なる文化と習慣を持つ別の国、異なる商圏とわれわれは理解している。

 そしてそのような地域は、上海、重慶、大連だけでなく、北京、深セン、成都と多数ある。それらの掛け算と足し算を合計すると1万店舗になる。

――他に進出する国はありますか? また中国店舗で働く従業員はどのように確保しますか?

中国以外にインドネシアにも進出している。他にもインド、ベトナム、ミャンマー、ハワイでの出店を検討している。

 どの地域でも現地での雇用が原則で、9割以上が現地人。立ち上げ時に日本から行く者もいるが、ごくわずかだ。現地に持っていくのは日本人社員ではなく、日本で鍛え上げた店舗オペレーションだ。

 一見するとコンビニエンスストアは、商品が並ぶ店舗だが、一つの店舗が氷山の一角として街中に浮いて存在するために、その下部には巨大な氷山のようなインフラが隠されている。決済、発注、ロジスティックスなどがITネットワークで本部と結ばれている。

 海外に持っていくのは、このシステムだ。現地にも商店はあるが、ローソンのようなインフラを構築できるとは思えない。

――女性採用についてお聞きします。女性の採用比率を5割にした理由は?

ローソンは毎年100人程度を採用しているが、2005年の採用から女性比率を5割にした。それまでは男性7割、女性3割だった。

 加盟店に対し、店舗経営に関する相談に応じ、加盟店の収益を最大化するのがスーパーバイザーだ。コンビニエンスストアは24時間営業なので、スーパーバイザーの勤務が深夜に及ぶことがある。昔の労働基準法では、女性の深夜勤務が認められておらず、スーパーバイザーは男性限定の仕事になっていた。その後に労基法が改正され、女性もスーパーバイザーとして働けるようになった。

 もう一つの理由は、2002年に新浪剛史が社長に就任し、発想の多様化を求めたことだろう。ローソンという会社は、男ばかりのモノカルチャーの会社だった。多様化するためには女性の新しい視点が必要だった。

――女性を増やしたことのプラスとマイナスを教えてください。

女性は積極的であり、真面目なことがプラスだ。男性は、研修でも斜に構えて言うことを聞かない者もいる。女性にはそういうひねくれた者はいない。

 マイナスは女性の退職率が高いことだ。スーパーバイザーという業務は不規則であり、結婚、出産、育児というプライベートな負荷と両立しにくい。これは今後の大きな人事課題と認識している。

――早期から外国人を採用してきたとうかがいました。

外国人留学生の採用に2007年から取り組み、2008年春から採用している。目標は採用数の3割だ。

 外国人留学生を採用する目的は、語学力への期待やグローバル市場への対応ではなく、女性採用と同じだ。発想を多様化し、われわれローソン社員の内なる国際化を推進するためだ。そのために3割を目標にした。

 初年度の2008年の採用は10名だったが、2009年には122名の新卒採用のうち39名が外国人留学生だ。研修がどのようになるのか心配だったが、杞憂だった。外国人留学生は積極的でリーダーシップがあり、日本人はかなり強い刺激を受けた。研修での受け入れ先も最初は敬遠しがちだったが、配属してみると非常に評判がよかった。

――現在は何名の外国人留学生が在社していますか? またその国籍は?

延べ106名の外国人留学生を採用したが、昨年の東日本大震災時に帰国した者もおり、現在の社員数は約90名だ。国籍は中国と韓国が多い。その他はバラエティに富んでおり、東南アジア諸国を中心に合計10カ国だ。外国人留学生ではないが、今年は清華大学から1名を採用している。

 2008年、2009年に入社した者は店舗勤務を経て各部署で活躍している。外国人採用の主目的はグローバル市場への対応ではないが、今後は中国や東南アジアでの出店立ち上げに行ってもらい、そのノウハウを活かすこともあり得るだろう。
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