女性講師の有能な働きぶりを見て、機を見るに敏な社長が「ウメさん、女性講師をもっと増員しよう」と言い、早速、募集を始めました。女性教育コンサルタントは、会社での勤務経験や、社会人としての十分な良識が必要です。若過ぎても不相応なので、対象年齢は28歳以上としました。すると思いがけず素晴らしい人達から数多くの応募があり、その中からまず4名を採用し、講師として教育しました。
第9回 日本企業の「女子教育」に失望、米国企業視察旅行を企画
彼女達は評判も良く、顧客の期待に応えて良い仕事をしてくれました。以来、毎年2、3名ほど採用を続け、そのうち15名以上を抱える大所帯となりました。そこで社長は、「女性コンサルタントを纏めて『女性能力開発部」を組織せよ」と命じました。一つの部署として纏まると、彼女達は、全員一丸となって多くの注文をこなし、業績をあげ、会社の中でパワフルな存在となっていきました。時代も女性の活用を求めていたので、私は彼女達と共に、「職場における女性の能力開発と活用、そして女性社員の役割拡大」というテーマを、長期に渡って追い続けていこうと決めました。 

とはいえ、各社を訪問して、女性社員の能力開発と活用を説いても、人事担当者の意見に失望させられるケースも多くありました。教育内容について、「女子社員にはマナー教育で十分」と言うのです。そうした男性担当者にとっては、女性は何年勤務しても「女子」、つまり「女の子」なのです。

新入女性社員教育ならば、マナーだけで良いでしょう。でも、2年目、3年目、ましてベテラン社員となったら、後輩指導、仕事の改善、グループの纏め役といった役割があります。そのため私達は「コミュニケーション論や人間関係、リーダーシップを発揮する女性リーダー育成などの教育内容が必要です」と説くのですが、なかなか受け入れられてもらえません。

いっこうに打破できない状況に業を煮やし、私は「米国企業ではどうなのか?」と考えました。 訪米して、女性社員教育や、女性の能力開発と活用の実情を見て来たい ―― そう考えた私は社長に願い出て、米国に出張することにしました。そこでまず、米国の大企業50社宛てに手紙を書きました。「私は日本企業で女性社員教育をしています。貴社の女性社員教育の企画を知りたいのです」といった内容です。

すると、運よく35社以上から返事が来ました。どの社も「我が社は男女別の教育企画はありませんが、是非ご来社ください」というように返してくれました。私は興奮と喜びを感じながら、その中から訪問先を12社に絞りました。1ドル360円の頃で、出張経費を考えると1ヵ月間の滞在が精一杯です。顧客各社に声を掛けると、4社が同行を決めてくれました。そこへIBM勤務の娘と旅行社の人も加えて計7人で出発です。

この渡米で、アメリカ電話電信会社(AT&T)の訪問時、期せずして、ダグラス・W・ブレイ博士の話を聞けたことは幸運でした。博士は著名な心理学者で、人材の能力評価を研究しており、当時、AT&T社の管理者選抜の仕事をされていました。この博士との出会いによって、MSCは「アセスメント・プログラム」という大きな商品を得ることになります。私にとっても、女性能力開発と活用のテーマに加え、生涯の研究課題となる「人材の能力発見と評価」という新テーマを得ることができたのでした。
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