今回は前回の労務管理と密接な関係がある人事評価について解説する。
テレワークのうち、在宅勤務のメリットとして「職場で業務を行うよりも自宅で業務を行う方が、精神的負担が少なく、且つ集中できる」という声や、「通勤による肉体的、精神的負担が少なく、通勤時間を家事や育児に充てることができる」といった声をよく聞く。事業主としても、在宅勤務は、育児・介護等の事情による有能な人材の離転職を防ぐことができるため、非常にメリットのある策といっても過言ではない。

在宅勤務を導入した大手企業の75%は人材評価を変えない

今回のテーマであるテレワークにおける「人事評価」について、厚生労働省の調べによると、テレワークを導入する際に評価制度を変えた、という企業は大企業では25%程度と低い。多くの企業は、そのままの評価基準でテレワークを導入、運用しているということになる。その場合、目標設定や、在宅勤務者の成果報告を適切に評価する上長のスキルが必要になることや、在宅勤務者は通勤をしている社員に比べ、不利な評価、不公平な評価をされているのではないか、という心理的負担を強いられることになる。
第4回 人事評価を乗り越える鍵は管理職の意識改革

法令から見る人事評価

法令で、在宅勤務制度を導入する際、「労働基準法」等によって、雇用契約や労働時間・賃金など、守らなければならない法令が定められているが、「評価」に関する部分は、以下のように“望ましい”と言う表現にとどまっている。そのため先に記したように、評価制度の変更は企業によって異なるのである。

■業績評価等の取扱い
在宅勤務は労働者が職場に出勤しないことなどから、業績評価等について懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を構築することが望ましい。また、業績評価や人事管理に関して、在宅勤務を行う労働者について通常の労働者と異なる取り扱いを行う場合には、あらかじめ在宅勤務を選択しようとする労働者に対して当該取り扱いの内容を説明することが望ましい。
なお、在宅勤務を行う労働者について、通常の労働者と異なる賃金制度等を定める場合には、当該事項について就業規則を作成・変更し、届け出なければならないこととされている(労働基準法第89条第2号)。


企業が在宅勤務を導入する際は、社内就業規則の「就業場所」の項目に自宅を加える、というところからはじまるのだが、合せて定めなければならない規定として「人事異動として在宅勤務を命じることに関する規定」や「在宅勤務用の労働時間を設けるのであれば、その労働時間に関する規定」があげられる。
また、規定の制定に加え、在宅勤務の対象となる社員にできるだけ書面にて通知を行い、労働条件の変更に関する同意を得る必要がある。

続いて、人事評価に影響のある在宅勤務の社内ルールについて、在宅勤務者の業務内容や遂行方法、報告の仕方等を明確に定める必要がある。
そして何より一番重要なのは、管理職・部下両者がしっかりとそのルールの共通認識を持つことであり、その認識を持った状態で在宅勤務を開始することである。

在宅勤務は、まずは週1日からスタートし、徐々に日数を増していくことが多い。
人事評価に関しては、在宅勤務が週1~2日の場合は、特に手を加える必要はないが、完全在宅や週4日在宅
等で勤務する場合は、管理職が本当に仕事をしているのかと疑った場合、人事評価に大きく左右する。

労務管理は、8時間拘束することで定額の賃金を支払うため、8時間働いていたということがわかればよいが、人事評価はそうはいかない。
会社であれば目の前にいる社員に「あの資料できてる?」とすぐに聞く事ができ、進捗状況もわかる。表情などから、「手伝おうか?」と助けることもできる。在宅勤務では、仕事を1人で抱えてしまうことも多く、「できました」と出てくるまでのプロセスを管理職が把握していなければ、「遅い」という評価になる。

評価に重要なのはコミュニケーション

在宅勤務は、管理職・在宅勤務者双方でのコミュニケーション能力が極端に問われる働き方であることから、日頃からコミュニケーションを円滑にできるよう、教育・訓練をする必要がある。
第4回 人事評価を乗り越える鍵は管理職の意識改革
入社間もない社員で、一人で業務を遂行することができない場合や、チームで連携しながら進める業務等の場合、在宅勤務者から常に情報・状況を発信できるよう、教育・訓練をしっかりと実施しなければならない。
「コミュニケーション」の教育は在宅勤務開始前に必須なのだ。

厚生労働省の情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインにて、前述した業績評価以外にも社内教育についての記述があるため、以下に記す。

■社内教育等の取扱い
在宅勤務を行う労働者については、OJTによる教育の機会が得がたい面もあることから、労働者が能力開発等において不安に感じることのないよう、社内教育等の充実を図ることが望ましい。
なお、在宅勤務を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第89条第7号)。


テレワークのひとつであるモバイルワークは、移動中に携帯電話やメールを使って商談を進めたり、取引先からモバイル端末で社内のデータにアクセスしたり、テレビ電話で会議に参加したりするなど、特定の施設に依存しない、いつでもどこでも業務遂行が可能なワークスタイルであるが、人事評価の多くは、目標管理制度に基づく成果主義が適用されるため、成果を数値化できる営業職等の部門に向いている。一方で数値化が難しい業務の場合は、他の従業員と比較し、不利な評価にならないよう、管理職の評価スキルの向上と在宅勤務者からの成果報告を適切に行える仕組みが必要である。判断する際には具体的な事実のみを材料とし、事実確認ができないもので評価しないことがポイント。また、通常より短いスパンで報告や連絡を行うようにし、管理職からもコミュニケーションを取る努力をすることと、部下も自己管理能力を高め、少しのことでも管理職に相談ができるよう、コミュニケーションスキルを磨く必要がある。

テレワークを成功させるためのコツは、1にも2にも意識改革、そして管理職と部下のコミュニケーションなのである。

そして忘れてはならないのが、8時間拘束すること前提の人事評価を組み立ててはいけない、と言うことである。
8時間拘束型で目標管理を設定すると、仕事のプロセスを見る必要が出てくる。会社勤務者に比べ、プロセスが見えづらい在宅勤務者が不利になるばかりか、管理職は何をどのように見るか、どのように評価するか等、自身も高いスキルが求められる。
その為、勤務形態で成果主義や、みなし労働時間制などの方法を取り入れる等、8時間拘束する事によるそのままの人事ではなく、在宅勤務に見合った人事評価を組み立てることも必要である。

次回は女性活躍推進とテレワークについて解説する。
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