人材流動性と将来予測

年齢構成の分析も重要です。例えば、毎年同じ人数の新入社員を採用し、自然退職に任せるというモデルを作ってみます。デコボコが少なく、年齢が上がるにつれて人員数が少なくなっていく形が理想的な状態だといえます。上にも下にも同じように社員がいる状態であれば、技術の継承などもスムーズに行えるし、高年齢滞留層が生じることもなく、無理なリストラなどの必要性も少なくなるからです。
 これに対して、例えば40代以上が飛びぬけて多いということになると問題です。とくに平均年齢が40歳を超えている場合には、何らかの手を打たなければいけない状態だといえます。
 次に、人材流動性の分析について考えて見ましょう。外部の賃金水準と自社の賃金水準を比べるというのは、どの会社でも行っていると思います。主だった情報としては厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が有用です。会社の規模や事業に応じて、一般社員、係長、課長、部長などの職位ごとの賃金水準がどうなっているのかをみることができます。さらにこれによって、外部に流出する可能性のある人が何%あるか、会社にとどまる人が何%あるかを分析することができます。
 一般的に転職する場合、まったく違う業種に転職するのではなく、これまでと類似する業種に転職するひとが多いと思われます。同業種同規模で課長なら課長クラスで転職しようとすると考えます。その場合、ある会社で年収800万円の課長がいたとして、転職したら年収が600万円になってしまうとなれば、経済的なことだけを考えれば、まず転職はしないでしょう(=流動性が低い)。逆に、他社よりも現在の年収が低いとすれば、転職する可能性は高くなるといえます(=流動性が高い)。この人材流動性は、現在の人事制度を考えるときに、非常に重要な概念となっています。
 さらに過去の昇格の早さや業績に基づいて、社員をパフォーマンス性の高いHP(ハイパフォーマー)から、平均的なAP(アベレージパフォーマー)、LP(ローパフォーマー)まで5段階に分けて、それぞれの層に対する年収配分が適正かどうか、流動性が高いか低いかを分析していきます。その結果、HPの流動性が高く、LPの流動性が低いという結果ですと、有能な人材ほど社外流出する可能性が高いということになるので、大きな問題です。会社によってはHPへの賃金配分を厚くしてその流動性を低く抑えるという方針をとっているところもあります。これも、これからの人事制度を設計していくうえで重要なポイントとなっています。
 もう一つの重要な分析ポイントとして、将来予測があげられます。今の人事制度をそのまま続け、昇格率や自己都合退職率がそのままの状態で進んでいくと、将来に向けて人員構成はどうなるか、総人件費はどうなるかを予測してみます。今ある人員構成や総人件費が10年後もそのままであるという保証はありません。10年後をみてみると、今は問題ではないけれど、大きな問題が出てくる可能性もあります。
 ある会社を例にとって5年ごとに今後20年間の予測を出したところ、現在57億円の総人件費が5年後61億円、10年後60億円、15年後55億円、20年後50億円になるという予測でした。変化するのは人件費だけでなく、等級別や年齢別の人員構成も変化していきます。これによって、何年後にどんな問題が起こるのかを予測することができるようになります。

人材フローを健全に保つために新しい人事制度が必要

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