第37回:「目標達成」をできる人/できない人の違いはどこにある? 勝ち組行動に導くヒントは“学習目標”と“作業興奮”

2025年がスタートして1ヵ月が経ちました。2025年のスタートにあたり、皆さんも新年の目標を掲げられたのではないでしょうか。気持ちも新たに、「よし、今年はこれをやるぞ!」と。しかし一説には、新年に掲げた目標を覚えている人は1ヵ月後には7割、3ヵ月後には5割以下となってしまうとか。せっかく掲げた新年の計、個人でも担当部門・部署においてもやり遂げたいですよね。そこで今回は、「目標達成に向けて行動できる人とできない人の違いは何か」について、見てみたいと思います。

達成目標には「業績目標」と「学習目標」がある

そもそも、目標達成のための理論や科学などというものはあるのでしょうか?

実は、たしかな理論があるのです。心理学者のキャロル・ドゥエック教授が「達成目標理論」というものを提唱しています。女性教授である彼女は現在70代で、過去にはコロンビア大学やハーバード大学、イリノイ大学、そして現在はスタンフォード大学ルイスアンドバージニアイートン校で教鞭を執り、全米心理学協会フェローであるとのこと。

そんなドゥエック氏が提唱する「達成目標理論」によれば、達成目標には「業績目標」と「学習目標」があります。

「業績目標」とは、“達成するゴール”そのものを指します。この業績目標を重視する人は、良い成績をとって競争に勝つことや、社会的な評価や報酬を得ることを自分自身の目的にします。「自分の能力を肯定的に評価されたい」、「否定的な評価を逃れたい」という気持ちが強いのが、業績目標を重視する人の特徴です。

一方、「学習目標」とは、“何かを学ぶこと”自体を目標とします。学習目標を持つ人は、学習によって自分の知識を増やし、技能や見識を高めることそのものを自分自身の重要目標と捉えます。勉強することそのものが楽しくて仕方がなく、いつも勉強ばかりしてしまう人はこれに当てはまります。

達成し続ける人は「学習目標」を持つ人

さて、ドゥエック氏の他の調査によれば、仕事のできる人、物事を達成する人は「業績目標」ではなく「学習目標」を持つ人だということが証明されているとのことです。

どうでしょう? 一般的に、特に仕事においては業績目標を設けており(会社に設定されており)、そこに目を向けている人がほとんどではないでしょうか。また、学習目標を持っていない人は、案外多いと思います。

私見ですが、成功する人、トップになるような人は、「業績目標だけでなく、学習目標も合わせて持っている人」だと認識しています。貪欲な業績達成欲がない人が成果を出すとはやはり思えないものの、それだけの人は“燃え尽き症候群”になっている姿も少なからず目の当たりにしてきました。

中長期的に成長し続ける人は、多く学ぶ人であることもとても腑に落ちます。年齢を重ねても好奇心が尽きず、絶えず新しいチャレンジや、自分なりのライフワーク・学習テーマをお持ちなのが、成功されている経営者の方々の共通項です。「達成目標理論」は、まさにそれを裏付けていると感じます。

では、あなたの「2025年の計」はどちらでしょう? もし「業績目標」的なものだけであれば、改めて「学習目標」的な2025年のテーマも決めてみましょう。

「作業興奮」で目標達成への初動を切る!

2025年の目標を設定した……しかし目標を掲げても、それを実行・継続しなければ達成し得ませんよね。デキる人や社長になる人は、目標に向けた行動・取り組みを習慣化することが上手い人です。

習慣化には、前回ご紹介した「自己効力感」による「流動性知能」の繰り返し→「結晶性知能」の蓄積があります。その初動を切るのが、クレペリンが発見したという「作業興奮」です。「作業興奮」とは、例えば仕事や勉強、掃除などを「いやだ、面倒臭い」と思っていても、実際に始めてみると、気がつけば作業に乗っている自分に気づくというものです。


この作業興奮は生理学的にもメカニズムが証明されています。「手足や頭を使うと、脳の側坐核が刺激される」→「側坐核は刺激されるとドーパミンを分泌する」→「ドーパミンが分泌されることでやる気が湧いてくる」→「やる気が出るので作業がはかどるようになる」というサイクルが回るというものです。側坐核とは報酬、快感、嗜癖、恐怖などに重要な役割を果たすと考えられている部位。ドーパミンはご存知の方も多いでしょう、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、運動調節やホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる“やる気物質”と例えられるものです。

ここで理解しておくべきことは、「なんでもかんでも始めればノッてくる」……という訳ではないということ。集中できない環境や心理状況ではスイッチは入りにくいですよね。周囲の雑音が多かったり、他に気にかかっている作業や事項があったりと、心理的に良くない状態(強く悩んでいることがある等)では、作業興奮はなかなか起こせません。また、初動で自分にとってあまりに難易度の高いことからスタートする(理解できていない内容の学習から始める、体得できていない高度な作業や動作から入る等)のはご法度です。

土台として、「心身ともに良いコンディションを保てるよう生活を整えること」、「スタートは自分が得意なことや容易な作業から入ること」を、ぜひ心がけてみてください。
達成ゴールの数字や成果を追いかけることは大事です。しかしそれだけでなく、その過程に、業績目標達成のために学ぶ目標と楽しみを組み入れること。そして、自分のやる気が出るのをいつまでも待っているのではなく、まず腰を上げる。そうすれば気分爽快、自分でも驚くくらい物事がどんどん捗るようになるでしょう。

2025年をこの“勝ち組行動”でスタートし、「目標のために楽しみながらやっていたら、いつのまにか達成していた」という自分を手に入れましょう!