第36回:経営幹部として高めたい組織の“営業力”。大型商談も採用面接も面白いように上手くいく「4つの質問」

いま、あらゆる企業で「営業力」と「採用力」の強化が喫緊の課題となっています。ここは経営幹部としての威厳をもって「こうすればよい」と教えてあげたいところですね。しかし、例えばコンサルティング営業や提案型営業を教えようとしても、いまいち上手く説明してあげられない…結局はセンスの問題なのでしょうか。実はコンサルティング営業、提案型営業には具体的な型があります。今回はその中でも、わかりやすく実践的な方法をご紹介します。

大型商談における最も効果的な営業術

セールストレーニングでフォーチュン500企業の多くに教え、成果を上げ続けたことで著名なニール・ラッカムの提唱したセールスコミュニケーション法に、「SPIN(質問説得話法)」があります。これは、特にB2Bの大型商談において、“売り込まない会話”で絶大な効果をあげる手法です。

SPINは「Situation Questions(状況質問)」、「Problem Questions(問題質問)」、「Implication Questions(示唆質問)」、「Need-payoff Questions(解決質問)」の頭文字を取ったもの。不思議なことに、この流れの通りに質問をしていくだけで、しっかりコンサルティングセールスが完成するのです。このSPINの優れている点は、セールスされた相手が、売り込まれたとも押し付けられたとも思わず、相談に乗ってもらった上で自らの意思で解決策となる商品やサービスの購買・導入を決定したと思ってくれることです。

そもそも営業には、「B2Cの営業(個人の消費者相手)」と「B2Bの営業(法人相手)」があります。そしてB2B営業には、「小型商談(少額案件)」と「大型商談(高額案件)」があります。ニール・ラッカムは、長年のセールスの研究から「小型商談で成功したスキルは、大型商談では致命症になる」と喝破したのです。両者の売り方は全く異なります。特に大型商談での失敗、売れない営業の共通項は、大型商談で小型商談の売り方をしていることにあるのです。

小型商談と大型商談の決定的な違い

◎小型商談:買い手は一人で意思決定できる。1回の商談で終わる。商品知識、スペックで勝負。多少の損は許容範囲。御用聞き型営業が通用する。押しの一手が結構通用する。

◎大型商談:複数の人間が関わり、商談が数週間~数ヵ月続く。顧客の課題解決となることが必須。高額であり失敗は許されない、購入担当者の責任問題になりかねない。押しの一手は通用しない、逆に出入り禁止となる可能性大。


小型商談では上手くいった営業スタイルが、大型商談では通用しない。それどころか、そもそも関係を持つことすら相手に嫌われかねない(出入り禁止となる)わけです。あなたの部下に中途で採用した人がいた場合、前職と御社での適する商談スタイルの違いがないかなども、業績との相関関係をチェックする際に気に留めたい部分です。

これが4つの質問で大型商談を獲得する会話だ!

では実際に、SPINによる商談会話の例を見てみましょう。

営業マン「御社ではコロナ禍の中で、フルリモートワークに切り替えていらっしゃるそうですね。社員の方々は問題なく業務を進めていらっしゃいますか?」(状況質問)

社長「工夫してやってくれているけれども、オフィスでのような臨機応変なコミュニケーションが、リモートだとなかなかできなくて苦労しているようだね」

営業マン「なるほど、対面のようにはいかないですよね。特にどういった部分が、皆さんの業務の支障になっていそうですか?」(問題質問)

社長「電話だと、いま話しかけていいのか分からないし、メールだと送ってからすぐにレスが返ってくるかが分からないのもストレスになっているね。オンラインミーティングも頻繁にやっているけど、それ以外のときにちょっとしたことでチームのみんなで話ができないので、合意や確認を取るのが面倒だという声も多いよ」

営業マン「そうなのですね。では、いま同僚がリモートでもオンラインで業務中なのかどうかが分かって、会話したいメンバーたちとすぐにやり取りできたり、関係者全員でコミュニケーションできたりといったシステムがあると、御社ではかなり役に立ちそうですね」(示唆質問)

社長「そんなのがあれば、リモートワークでのコミュニケーションや生産性がかなり上がるね」

営業マン「実は当社でこのたびリリースしたオンラインワーク支援システム『オンラインくん』は、従業員全員がいまオンラインワーク中かどうかが常にわかり、部署ごとやプロジェクトごと、また個別にやり取りしたい人といつでもすぐにやりとりできる、ウェブ上のコミュニケーションシステムなのですが、このようなシステムは御社の皆さんにはお役に立ちそうでしょうか?」(解決質問)

社長「それは良さそうだね。具体的に聞かせてよ」


いかがでしょうか。

よくある法人営業商談では、ひとしきりアイスブレークなどがあって、さっそく「我が社のシステムは○○で、強みとメリットは△△」ときます。相手がもともと御社の商品やサービスを使いたいと思っているならこれでもOKですが、概ねの大型商談では相手の困りごとは曖昧だったり、必ずしも御社が提供するものに合致した課題ではないことが多いでしょう。

法人営業で勝率を上げるには、

× 商品・サービスの提案→YES/NO

○ 状況伺い→課題の抽出・確認→その課題に対する解決策のイメージ合わせ・合意→その解決策を当社の商品・サービスが実現できることの共有→YES


ということが言えるのです。

転職でも使える、SPIN面接対応術

ここまでで、SPINの法人営業・大型商談での効果性を感じていただけたのではないでしょうか。SPINの効力はB2Bの大型商談に限りません。もしあなたが転職をお考えなら、まさにその面接でも絶大な効果を発揮します。

そもそも転職活動とは、自分という商品を望ましい企業に「購入(=雇用)」してもらう営業行為。ここで、SPINを使って面接で話す場合の一例を見てみましょう。

*あなたが人事責任者候補として転職活動に臨んでいるとします。

「御社の人事部門で責任者をお求めとのことですが、現在、人事部門はどのような体制になっていらっしゃいますか?」(状況質問)

(企業側の回答)

「なるほど、どのようなことが課題となっていらっしゃるのでしょうか?」(問題質問)

(企業側の回答)

「そうなのですね。今後の事業拡大・組織体制に合わせた人事制度が必要とのことで、同じような局面を乗り越えた人事制度刷新の成功例などがあるとよさそうですね?」(示唆質問)

(企業側の回答)

「私は現職で、御社と同様に数十名から数百名へと組織規模が急拡大する過程での人事制度改定や組織活性化策を導入・実施し、現在の当社の状況に達することに貢献してまいりました。このような経験やノウハウは、御社のお役に立ちそうでしょうか?」(解決質問)


どうでしょう。この転職応募者は、一連の発言の過程で一切の「売り込み」や「営業トーク」をしていません。行なっているのは、会話の流れに沿った「質問」だけです。まさにこれが望ましい転職活動における応募者側の話し方、説得の方法なのです。

SPINはさらに、逆の立場である採用する側でも使える手法です。望ましい候補者に、売り込まずに我が社に入社することが望ましいと理解させることができます。

さらに、上司が部下を説得する会話でも有効だということは、ここまでお読みくださった上司のあなたならもうお分かりでしょう。ぜひ、SPINを使った部下説得のシナリオをご自身で作ってみてください。
説得力とは、「相手の中に潜在的にある課題を顕在化させること」と「相手が自分で決めたと思わせること」の2つから成り立ちます。SPINを縦横無尽に使いこなすことで、あなたも説得力のある、かつ好感度の高い経営幹部となれること間違いなしです。

※参考『大型商談を成約に導く「SPIN」営業術』(ニール・ラッカム 著/海と月社 刊)。ソリューション営業を極めたい方には座右の書としていただきたい名著です。ぜひご一読ください。