最近は政治の世界から企業における諸般対応まで、リーダーの決断力に注目が集まり、また議論を呼んでいます。特に政治においては、先の都知事選、および今秋に見込まれている自民党総裁選などに関連して、“政治家のリーダーシップ”に国民の目が向けられています。
どうもここのところ、企業においても政治においても、リーダーたちの「リーダーシップ」や「メッセージ力」、「決断力」に対する疑念、失望が多くあるように思われます。
そのような中、本稿で紹介したいのは、弁護士からタレントに転向、そこから大阪府政で政治の世界に入り、現在は論客として活躍する橋下徹氏の著書。歯に衣着せぬ発言で注目を浴びる(折々炎上…)橋下氏ですが、その著書『決断力 誰もが納得する結論の導き方』(PHP新書、以下『決断力』と記載)は、“リーダーの決断方法”について非常に示唆に富んだ好著です。
そのような中、本稿で紹介したいのは、弁護士からタレントに転向、そこから大阪府政で政治の世界に入り、現在は論客として活躍する橋下徹氏の著書。歯に衣着せぬ発言で注目を浴びる(折々炎上…)橋下氏ですが、その著書『決断力 誰もが納得する結論の導き方』(PHP新書、以下『決断力』と記載)は、“リーダーの決断方法”について非常に示唆に富んだ好著です。
「実体的正義」と「手続的正義」
弁護士でもある橋下氏は本書において、司法の世界における正義の考え方に「実体的正義」と「手続的正義」の2つがあることを紹介しています。そのうえで現代においては、絶対的な正しさを問う「実体的正義」ではなく、結果に至る過程・プロセスの正当性があるならば、それを正しい結果とみなす「手続的正義」を選択すべきであると言います。『2020年から感染が拡大した新型コロナウイルスの混乱の中では、先の見えない状況に恐れをなして意思決定を先延ばしにし、後手後手の対応を迫られるトップの事例が数多く見られました。その理由は、皆「絶対的な正解」を探そうとしているから。「これが正解」という100%の確信が持てるまで情報を集めてから、決めようとする。しかし、この手法が通用するのは、「ある程度、正解のわかる」問題だけです。多くのリーダーが決断しなければならないのは、「正解がまったくわからない」問題です』(『決断力』より)
まったくその通りですね。当時、国や行政の新型コロナに関連する対応を見ていて、「なんで決められないのだろう」、「どういう根拠で決めているのだろう」といった、ジリジリとした感情を抱え続けた人は少なくなかったのではないでしょうか。
国政だけでなく都政や市政、あるいは企業においても、意思決定に常に絶対的な正義・正解がある訳ではありません。相対する2つの案について、どちらが正しいかばかりを議論していても埒があきませんよね。私たち企業人にとっても、意思決定・決断に納得するには、「どのように決めたのか」という側面が重要です。
「手続的正義」による決断プロセス
では、どうすれば「手続的正義」を導き出す意思決定ができるのか。橋下氏は、次の3ステップを紹介しています。1)立場、意見が異なる人に主張の機会を与える
2)期限を決める
3)判断権者はいずれの主張の当事者にも加わらない
(『決断力』より)
2)期限を決める
3)判断権者はいずれの主張の当事者にも加わらない
(『決断力』より)
「いつまでに決めるか」という期限を明確にし、その間にさまざまな対立意見をしっかり出させる。忌憚ない意見を出し合う中で、リーダーはそれぞれの主張にしっかり耳を傾け、最終的な決断を下す。「衆議独裁」という言葉がありますが、「みんなで議論し、最後はトップが一人で決める」ことが大事です。
橋下氏は、議論においては「さまざまな意見を持つ人を集めること」と、「オープンな場で議論すること」を主張しています。これも非常に重要なポイントです。個別に議論したりすると、結局どこかで情報がねじ曲がるなどして、最終的なコンセンサスを得られなかったり、陰口が蔓延したりします。
もう一つ、橋下氏は大阪府知事時代に徹底して「決めたことには従ってもらう」ことを必ず約束してもらっていたそうです。あなたの会社にも、決定されたことに対して「俺は反対だった」と言っている人がいませんか? 中間管理職には、この手の人が結構いたりしますが、筆者としてはその時点でリーダー失格だと考えます。
“ブレないリーダー”よりも“修正できるリーダー”
リーダーの仕事は「決めたら終わる」かといえば、そうもいきません。決めたことの周知、そして実行。実行してそのままうまくいけば良いですが、必ずしもそうならないのがまた、リーダーの大変なところです。ときには実行してみて、決めた内容が望ましくなかったり、途中で間違っていることが分かったりすることがあります。そのとき、「一度決めたことだから」と何が何でもそのまま進めることが正しいのでしょうか。橋下氏は本書の中で、強いリーダーは“ブレない人”ではなく、みんなを“納得させられる人”だと強調しています。
『リーダーのあり方として、世間では「ブレてはいけない」とよく言われます。周囲を引っ張るリーダーは、最初から絶対的に正しい方針を示すのがよいと思われているのでしょう。これは実体的正義の考え方です。しかし僕は、判断を間違えたらすぐに修正します。「朝令暮改でも構わない」と思っています』(『決断力』より)
ここで大事なことは、「修正する場合も適切なプロセスを踏んで修正のための判断をする」ことです。自分の意見や主張にこだわりすぎるリーダーのほうが見誤る可能性は高いです。特にいまのような不透明で、状況変化がコロコロ起きる時代には、自分の主張にこだわる“ブレないリーダー”よりも、もし間違いがあったらすぐに認めて“修正できるリーダー”のほうが信頼でき、結果としてよい成果を残すでしょう。
自分の言葉で語れるリーダーになるには
周囲の意見を聞き、理解し、その上で判断し、それを堂々と自分の言葉で語るリーダーには説得力があります。「自分の言葉で語る」も非常に重要なポイントなのです。橋下氏は本書の中で、自身の周囲の良い事例・悪い事例を紹介しながら、「自分の言葉で語れるリーダーはなぜペーパーやプロンプターを棒読みせずに自分の言葉で語れるのか」について、考えを述べています。いわく、さまざまな立場の意見を、手続的正義に基づく適切なプロセスの中でしっかりと聞いているからだというのです。そのため、自分の考えへの賛成派/反対派の議論、およびそれぞれの主張を十分に知っており、それに対する自分なりの回答を持っている。だから何を聞かれても、ペーパーに頼る必要なく、堂々と自分の言葉で答えることができ、説得力があるのです。
皆さんもそうですよね。様々な情報・意見を吸収し、自分がしっかり考えつくしたことについては、明快に話すことができ、上司も部下もあなたの話に納得するはずです。
リーダーにトラブルはつきもの。自分自身が発端となることだけでなく、管轄している組織において思いもよらない事態が発生する可能性があるのは、政界・行政も、私たち民間企業も一緒です。
橋下氏は、「危機管理の対応7原則」として次のプロセスを紹介しています。
1)事実関係がわかるまでは断言しない
2)都合の悪い情報ほど全て公開する
3)情報をすべて公開し、主張すべきところは主張し、謝るべきところは徹底して謝る
4)解明のための調査や議論を全てオープンにする
5)実体的正義で違法・不正を判断するのでなく、手続的正義に基づきトラブルの事象を判断する
6)疑われるものがあったら素直に謝罪、反省する
7)謝罪後、信頼回復のための事後の挽回行為に全力を尽くす
(『決断力』より)
2)都合の悪い情報ほど全て公開する
3)情報をすべて公開し、主張すべきところは主張し、謝るべきところは徹底して謝る
4)解明のための調査や議論を全てオープンにする
5)実体的正義で違法・不正を判断するのでなく、手続的正義に基づきトラブルの事象を判断する
6)疑われるものがあったら素直に謝罪、反省する
7)謝罪後、信頼回復のための事後の挽回行為に全力を尽くす
(『決断力』より)
万が一のときにリーダーがとるべき対応方法として、頭に入れておきたいですね。
人は正解が分からないときに、決断から逃げる、あるいは先送りする生き物です。だからこそ、経営幹部各位には、「手続的正義」による決断でリーダーとしての信頼とチャンスを掴み取ってほしいと思います。