第27回:ドラッカー『経営者に贈る5つの質問』から学ぶ。2024年、あなたの“存在意義”と“進むべき道”を明確にする方法

2024年がスタートして約1ヵ月。今年に期するものがある経営幹部の方も多くいらっしゃると思います。すでに2024年の計を明確に立てていらっしゃる方にも、そうでない方にも、一年の計を立てるためにぜひ知っていただきたい、ドラッカーから皆さんへの「質問」があります。

シンプルな質問だからといって侮るべからず

マネジメントの父、ピーター・F・ドラッカーが、存命中にコンサルティングに関わる企業経営者に必ず問うた「5つの質問」がありました。

『「最も大切な5つの質問」とは、今行っていること、行っている理由、行うべきことを知るための経営ツールである。それは、「われわれのミッションは何か?」「われわれの顧客は誰か?」「顧客にとっての価値は何か?」「われわれにとっての成果は何か?」「われわれの計画は何か?」という5つの問いからなる経営ツールである。すべてが行動につながる。何ごとも行動が伴わなければ意味はない』
(出典:『経営者に贈る5つの質問』ダイヤモンド社、2008年)

上記の通り、ドラッカーが経営者に問うた5つの質問は以下です。

1.われわれのミッションは何か?
2.われわれの顧客は誰か?
3.顧客にとっての価値は何か?
4.われわれにとっての成果は何か?
5.われわれの計画は何か?


あまりにシンプルなために、「何か肩すかしをくらったように感じる経営者や幹部も少なくない」とかねてより言われてきたのが、この5つの質問です。

何を隠そう、筆者もその一人でした。「なんだ、一般論的な質問だし、そもそも大体分かっていることだよなぁ」と。

さて、とはいえ読者の皆さんも、せっかくの2024年始動のタイミング。この5つの質問について、ご自身の回答を書き出してみて欲しいのです。

どうでしょう。すらすら書けましたか? また、書けたという方は、本当にそれで正しいと思いますか?

筆者自身、かれこれ十数年前に初めて真正面からこの問いに向き合ってみた折に、その中のいくつかの項目について、「本当に理解できているのだろうか…?」という猛烈な不安に襲われることになりました(私の場合は「われわれの顧客は誰か?」、「顧客にとっての価値は何か?」、「われわれにとっての成果は何か?」でした)。誰を相手に事業、サービスをしようとしているのか? その顧客は、本当にいま自分たちが提供していること・モノを求めているのか? そもそも、それは「自分たちの成果だ」と堂々と言えるものだろうか?

結果として、当時従事していた事業に関して、“本当に相手とすべき顧客”と“提供すべきソリューション”の大幅な軌道修正を行ったことを、今でも明確に記憶しています。それが当時、何度かの事業急成長の起爆剤ともなりました。

以来、折に触れて5つの問いについて確認し直してみるのですが、毎回新たな気付きと発見があり、上書き更新を続けています。

質問への答えは“自分自身をワクワクさせるもの”になっているか?

『シンプルな質問ほど答えにくい。なぜか。質問がシンプルならば答えもシンプルなはずである。しかし、そうではない。質問がシンプルであるほど正面から答えなければならない。時には痛みを伴う自己評価が必要となる。私たちは、いかなる組織にあろうと、ドラッカーが問いかける5つのシンプルな質問に答えないかぎり、顧客、組織、自らに対し、やがて害をなすことになる。』──フランシス・ヘッセルバイン(リーダー・トゥー・リーダー財団創立者)

5つの質問と実際に向き合ってみると、これまで自分がなんとなくやってきたことを否定しなければならないことに気が付いたり、捨てたくなかったものを捨てたほうが望ましい(ドラッカーは「破棄」と言います)ことを自覚させられたりします。そこで逡巡するか、一歩踏み出して新しい世界にチャレンジするかは、あなた次第です。

『「5つの質問」がもたらすものは、行動のための計画である。計画とは明日決定するものではない。決定することができるのは、常に今日である。明日のための目標は必要である。しかし、問題は明日何をするかではない。明日成果を得るために、今日何をするかである。』
(出典:『経営者に贈る5つの質問』)

「5つの質問」は、決してお題目でもなければ、抽象的な原則論でもありません。ドラッカーが言う通り、それは“行動につながる経営ツール・マネジメントツール”です。

『すべてが行動につながる。何ごとも行動が伴わなければ意味はない。』
(出典:『経営者に贈る5つの質問』)

この5つの質問に対する自分なりの回答を出すには、どのようなことを意識すればよいか。ドラッカーの教えを元に、私なりに大事にしていることをご紹介します。

●本当に大切なことだけ行う
●ミッションを達成するプロセスそのものが、心から楽しめるものである状態にする
●楽しく、生きがいのある時間を最大化し、そうでない活動はやめる
●自分が持っている強みと資源が、顧客のニーズにマッチしているかを確認する
●成果は必ず、計測・評価が可能なかたちに定義する


これらを満たした5つの質問の答えが設定できると、進むべき道がとてもクリアに見え、ブレることがなくなり、何事においても判断が早くなります。5つの質問を成し遂げること、また成し遂げようと日々行動すること自体がワクワクしてならなくなるはずなのです。

またドラッカーは、「この5つの質問は、定期的に見直していくことが重要だ」とも言っています。

『何ごとにも満足することなく、すべてを見直していかなければならない。だが、最も見直しが求められるのは、成功しているときである。下向きに転じてからでは遅い。明日の社会をつくっていくのは、あなたの組織である。そこでは全員がリーダーである。ミッションとリーダーシップは、読むもの、聞くものではない。行うものである。「5つの質問」は、知識と意図を行動に変える。しかも、来年ではなく、明日の朝にはもう変えている。』
(出典:『経営者に贈る5つの質問』)
“行動につながるマネジメントツール”を携えて進むリーダーは、最強です。それでこそ、経営幹部の皆さんです。そしてそれが何よりも、ドラッカーの究極の質問「私たちは何をもって憶えられたいか?」に対する答えを私たちにもたらしてくれるのです。

ドラッカーの5つの質問で、ぜひ皆さんのミッションとビジョン、そして具体的行動を明確化し、2024年をすがすがしく疾走しましょう!