第23回:【社長の教祖・一倉定氏】に学ぶ、必ず成果を上げる“7つ”の部下指導項目 ~経営幹部へのマネジメント指南~

コロナ禍が明けても、どうもスッキリしないという経営者・経営幹部の方々が多いのではないでしょうか。いまだ先行き不透明な社会情勢に、モヤモヤの消えない事業環境。そんな今の時代の経営者・経営幹部だからこそ、学んでおきたい教えがあります。今回は、5,000社を超える企業を指導し、倒産寸前の企業の数々を立て直したとされる、日本における経営コンサルタントの第一人者・一倉定(いちくらさだむ)氏が提唱した、「目標達成の指導法」を学んでみたいと思います。

「社長の教祖」と呼ばれた一倉定氏

「社長の教祖」や「日本のドラッカー」などと呼ばれた一倉氏は、戦後の高度成長期に多くの経営者を指導しました。その後、1999年に逝去されてから現在に至るまで、幅広い世代・業種の経営者に支持され続けています。

一倉氏がなぜ多くの経営者や経営幹部を惹きつけるのか。それは、一倉氏の企業・経営に対する厳しい目と、「何としても良い会社として存続させるのだ」という暖かいハートにあるのでしょう。そんな一倉氏は、「経営者」について次のように語っています。

「企業というものは、放っておけば赤字になり、倒産するようにできているのである。それを黒字に持ってゆき、存続させなければならないのが経営者なのである」

「顧客を見よ。ゴールを見据えよ。挑戦した結果の失敗を恐れるな」

一倉氏は、経営者や経営幹部の皆さんが成果を上げるために、部下・後輩に指導すべき「7つの項目」を挙げています。一倉氏の言葉を借りながら、以下で1つずつ見ていきましょう。

指導項目(1)「成果」は「顧客」によって得られる

不透明で閉塞感漂う状況になると、自然と社員全員の目が「内」に向くようになります。「上司はどう思っているのだろう」、「部下たちは自分に不満を持っているのではないだろうか」といった空気に、社長もこれまで以上に「社員の和」を説くようになります。

しかし、一倉氏はこれを一刀両断します。

「企業の本当の支配者は、社長でもなければ株主でもない。それは顧客なのである。企業の製品もサービスも顧客あっての話なのだ。この当たり前の、あまりに当たり前のことが、とかく忘れられてしまうのである」

今のような環境下でこそ、社内でいかに「顧客第一主義」を指導するか、そしてその結果がどうなるかを注視し、会社ぐるみで顧客の要求に応じる姿勢が必要であると力説しています。

指導項目(2)結果に焦点を合わせる

組織のマネジメントにあたっていると、業務の見通しが悪い時や厳しい時ほど、どうしてもあれやこれやと細かいところまで指示を出したくなります。マネジャーの皆さんは、こうした経験があるのではないでしょうか。しかし、手段を縛り(標準化し)、その上で目標がブレてしまうことは、最悪の状態だと一倉氏は指摘します。

「『目標は一つでも、手数は無数にある』という指導理念に徹する必要がある。やり方はどうでもよいのだ。要は結果を手に入れることなのである」

指導項目(3)「誤りの法則」と「ZD」は矛盾するか

業務のやり方を、それにあたる当人に任せることで、その人は新しい方法をどんどん試みることができます。一方、新しいやり方を試みれば、当然ながら誤りも起こります。一倉氏は、この誤りを「大目に見てあげる」必要があるのだと言います。

ここで上司の皆さんや経営者は、「ZD(欠品ゼロ)という思想があるのに、誤りを大目に見てよいのだろうか?」と疑念を抱くことでしょう。しかしそれに対して、一倉氏はこの2つは矛盾しないのだと説くのです。

「誤りには2種類がある。一つは意思決定の誤りであり、これを「エラー」という。もう一つは実施の誤り、つまり結果が間違っているのであり、これを「ミス」という。設計の誤りがエラーであり、加工の誤りがミスなのである。目標管理で誤りというのはエラーのことであり、ZDの欠点というのはミスのことなのである」

「ミス」は許してはいけないものの、「エラー」は大目に見よというのが、一倉氏の教えなのです。

「部下からアクションさせよ。プロジェクト型で臨め」

指導項目(4)管理職は上を向け

世のマネジメント関連書籍やセミナーは、そのほとんどが「部下を管理する」ことについての教えを説くものです。これについて一倉氏は、「まことに不思議な思想である。上司は部下のためにあるのか」と皮肉を言っています。

「経営担当者(=管理職)は、まず上を向かなければならない。上司の意図をよく理解してはじめて、部下に何をさせたらいいかがわかるのであり、客観情勢の変化を知らずに、これに対処することはできないからである」

絶えず上司と連絡を取り、新しい外部の情勢やそれに対する上司の方針をおさえる。これを直ちに部下に流し、部下に対する要望を明確にする。こうなってはじめて部下たちは、会社の方針とずれなく、どう動けば良いのかを上司のあなたから知ることができるのです。

指導項目(5)「権限は上司から奪い取るもの」という教育を行え

企業はたえず、今まで経験したことのない新しい事態にぶつかります。そのときに、担当者が「責任も権限も決まっていない」と言っていたのでは何もできません。

「経営担当者は新事態にぶつかったときに、なんらかの決定に迫られる。その決定を、自分に与えられている権限で処置していいかどうかを判断するのだ。もしも、権限が与えられていないと思うならば、それについて、どのような権限が欲しいのか、担当者から上司に要求するのが本当なのだ」

これならば上司は、「その権限を部下に与えるのか」、「自らの手に置き処置するのか」などの判断ができます。あるいは「判断する責任が生じる」と言ったほうがよいかもしれません。
これからの企業(=主体的に働くことを求める企業)にとっては、権限を明らかにする責任は担当者(部下)にあって、上司にあるわけではないのです。

「権限が与えられていないというのは、担当者の責任逃れ以外の何ものでもないのだ。ここのところを、よく部下に説明し、理解させておく必要がある」

指導項目(6)「分掌主義」より「プロジェクト主義」へ

企業や事業部に年数が積み重なってくると、組織は専門分化し、守備範囲が細かく分かれていきます。もちろん企業が成長・拡大して行くために必要なことではありますが、変化に対する“弾力性”と“機動力”が求められる昨今、この「分掌主義」は足かせになるばかりです。

「新事態にどのように対処するかが企業の将来に大きな影響を及ぼすことを考えれば、どうしても分掌主義は捨てて、プロジェクト主義への転換を必要とするのだ」

重要なテーマに対してプロジェクトを組成し、マネジャーを任命、全責任を持たせ、チームで一つの目標達成に向かう。完成・完了すればチームは解消する。このダイナミックな組織論を、一倉氏は1969年にすでに説いていました。変化の中で生き残れる組織は、「分掌型」ではなく「プロジェクト型」。私たちがいま、肌身に沁みて感じていることではないでしょうか。

経営幹部の仕事は「部下たちの“制約条件”」を取り除くこと

指導項目(7)制約条件を取り除いてやれ

ここまで見てきて、皆さんも一倉氏が上司の私たちに説いていることを理解されてきたのではないかと思います。市場や顧客に向き合い、求められることに対して創意工夫、試行錯誤しながら、自律的に責任感を持って自分の役割に当たること。また、自分の役割は自分で勝ち取っていくこと。

もしも「○○の理由で、できない」と部下が言うならば、その制約条件を上司の力ですみやかに取り除いてあげることが上司の責務だと、一倉氏は言います。これは決して甘やかすことではなく、部下の“できない理由”を排除することで、「なんとしても完遂せよ」という強いメッセージになるのです。



「日本のドラッカー」と呼ばれ、実際にその教えもドラッカーにも通ずる(一倉氏はドラッカーに学んでいたところも多くあった)経営の原理原則の徹底。コロナ禍から続く先行き不透明の苦しい時代だからこそ、基本に立ち返ることのできる上司が強く、より大役に抜擢されるでしょう。

本稿で見てきた「7つの指導項目」を、ぜひ今日から実践ください。

※文中引用:『ゆがめられた目標管理【復刻版】』(一倉定・著/日経BP・刊)