タレントマネジメントの実現 前編

前回は、人事部が戦略的パートナーとしての役割を果たすためにもっとも必要な変革のテーマを見出していく方法を学びました。今回は、タレントマネジメントの実現に不可欠なIT技術について解説をしていきます。

 前回は、人事部が戦略的パートナーとしての役割を果たすためにもっとも必要な変革のテーマを見出していく方法を学びました。
 今回は、タレントマネジメントの実現に不可欠なIT技術について解説をしていきます。

 ここでひとつ心に留めておきたいのが、“タレントマネジメント”=“タレントマネジメントのアプリケーション”ではない、ということです。
 これまで、タレントマネジメントの意味や意義、重要性や必要性から、仕組みや運用管理する人事部の役割まで、総合的に解説してきました。ここまで理解できたら、「それを実現させるためのツール」としてのアプリケーションの検討、構築が必要となるのです。

アプリケーション製品の選定までの手順

 アプリケーション製品を選定する前に、自社のタレントマネジメント戦略を明文化しておくことを勧めています。いきなり実際の製品を見てしまうと、商品を選定し決断する際の軸がないので、違う製品を見るたびに心移りしてなかなか決められず、決めたとしてもその製品に依存した機能しか実現できなくなるからです。
 繰り返しになりますが、製品を見る前に、経営による経営資源の「人」に対する戦略、ビジョン、中長期事業計画などの実現の要因、人事部が戦略的パートナーとして役割を果たすために必要な機能などを明確に文章化しておく必要があります。
 さらに、必須の機能は何か、必須ではないがあれば良い機能は何か、特になくてもよい機能は何か、の3段階の優先順位付けをしておくことを勧めています。
 再度、整理をしておきましょう。

■Step1 タレントマネジメント戦略の明文化
 タレントマネジメントの必要性について経営ニーズ、人事ニーズ、また、現場の管理者ニーズ、従業員ニーズなどを整理し、ニーズに対する対応、戦略を明確に文章化する。詳しくは、第7回、第8回のタレントマネジメント戦略の本質(前編・後編)を参考にします。

■Step2 人事部が戦略的パートナーの役割を果たすための機能の確認
 人事部の顧客(経営陣、管理者、従業員)に対して戦略的機能、サービスの項目を一覧表に整理します。詳しくは、第10回の人事部変革を参考にします。

■Sep3 機能の優先順位付け
 Step2で作成した項目別に、人事部が戦略的パートナーとなるための変革の項目、機能における優先順位付け(3段階)を行います。

 これらの必要項目の整理とその優先順位付けができれば、いよいよアプリケーション製品の検討に入ります。

アプリケーション製品の選定の手順

 アプリケーション製品を比較する場合、HRプロなどの製品の比較や資料請求の出来るサイトが便利です。一度に多くのタレントマネジメント製品を比較することができ、ランキングを発表しているサイトでは製品の注目度を客観的に知ることもできます。ですから、製品の説明を受けたりデモを見る前に、まずサイト上から製品情報を入手します。 
 では、実際にタレントマネジメント製品を複数選択し、そこからどのように絞り込んでいくか、その手順について説明します。

■Step1 ロングリスト作成
 ロングリスト作成をします。ロングリストとは、検討したいものをおよそ20件程度選択し、作成した資料です。ここではベンダー(業者)でも製品でもどちらも構いませんが、著者は製品で作成します。一覧表でまとめると、非常に製品の比較がしやすくなります。

■Step2 ショートリスト作成
 ショートリストは、先のロングリストの中から自社のタレントマネジメント戦略を実現できそうな製品を10件程度に絞り込んで作成します。具体的に製品説明を受けたい、製品デモを見てみたい、と非常に関心の高い製品に絞り込みます。
 さらに、製品説明のどの項目について確認したいか、どのようなデモを期待したいかなどを明確にしておきます。

■Step3 一般公開の製品デモを見る
 ショートリストに残った製品のデモが見られるかどうかを確認します。可能であれば、一般公開のスケジュールに合わせて、申し込みをしてみます。スケジュールが合わない場合は、営業担当に簡単な製品説明やデモを頼んでもよいでしょう。デモが見られない場合でも、次のStep4へ進みます。

■Step4 案件作成
 約5件程度の製品に絞込み、これらのベンダーの営業担当に連絡をします。担当者との面談を設定し、RFP(Request For Proposal)を作成してベンダーからの提案を受けられるように準備します。
 RFPには、自社のタレントマネジメント導入の目的や期待する効果、解決したい問題などを記載します。さらに、ベンダーに対して、詳しい製品デモの要請、機能やサービスの説明、導入までのスケジュール、カスタマイズの範囲、実績、価格、会社情報などを要求した資料を作成し、説明会で配布します。説明会の前に、守秘義務契約も必要となります。
 この説明会には、最終選定した5社程度のベンダーに参加してもらいます。

■Step5 各ベンダーとの打ち合わせ
 RFPを利用した説明会の後は、ベンダーの個別にやりとりをします。詳しい製品デモを見て、RFPで要求した内容について説明を受けます。

■Step6 ベンダーのプレゼンテーション
 各ベンダーとの打ち合わせが終了したら、ベンダーからのRFPに対する提案書を受け、そのプレゼンテーションの機会を設定します。ベンダーを選定する社内のキーマンや関係者を交え、一緒にプレゼンテーションを聴き、質疑応答をし、問題を払拭します。

■Step7 ベンダー選定評価会
 すべてのプレゼンテーションが終了したら、社内の全ての関係者からベンダーと製品の評価をし、決裁者の承認を得ます。
 これらの7つのステップで、タレントマネジメント製品とそのベンダーを決定していきます。

ベンダー設定のポイント

 タレントマネジメント製品を導入する際や、導入した後の運用管理の際、製品を取り扱うベンダー選びは重要です。ベンダーとの付き合いは長くなるため、その選定も慎重に行う必要があります。
 ベンダーの評価項目としては、まず、能力、実績、規模の3点から見ていきます。

■能力の評価
 プロジェクト管理能力、プロジェクト担当者(プロジェクトマネージャ、エンジニア等)のプロフィール、運用管理のサービス内容(サービスレベル)、製品トレーニング内容・講師のプロフィール、サービスレベル(レベルごとの内容)
・プロジェクト管理の手法、ツールも確認しておきます。ベンダーに標準化された管理手法やツールがあるか、それはどのような内容なのか、といった項目です。もしこれらがなければ、プロジェクト担当者の能力に完全に依存することになり、実力のある担当者が担当してくれればいいのですが、そうでない場合は高いリスクを背負うことになります。
・プロジェクト担当者(プロジェクト・マネージャ、エンジニア、トレーニング講師など)のプロフィールの提出を依頼しておきます。この中には、出身大学・専攻、入社年月日、職務経歴、プロジェクトでの役割とその内容、主な実績、得意とする業界、得意とする手法・ツールなどを文章化してもらうようにします。
・サービスレベルの内容と費用も検討材料となります。サービスに対して適正な料金であるか確認します。
・上記の3点は、ベンダーからの提出資料のひとつとして、PFRに予め記載しておくとよいでしょう。

■実績の評価
 タレントマネジメント製品の販売開始日、導入実績(企業名)、平均的なプロジェクト期間、プロジェクト体制、人事の専門家の有無、エンジニアの数とプロフィール、サポート実績

■規模の評価
 企業規模、サービス体制、拠点数と拠点場所

 これらの3つの項目について、それぞれ評価を実施し、総合得点の最も高いベンダーに絞ります。特に、ベンダーの担当者のプロフィールを要求するのをためらう企業がありますが、その必要性は全くありません。履歴書のような情報が含まれますが、生年月日や現住所、連絡先などは求めてはいけません。

 これでタレントマネジメント製品とそのベンダーが決まりました。

 次回は、タレントマネジメントの実現の後半について、具体的な製品の構築方法について紹介します。