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HRソリューションフォーラム

日本企業を成功に導く“多様性キャリア”推進のあり方〜ダイバーシティ時代の女性活躍&戦力シニア〜

ダイバーシティを「女性活躍」という視点だけでなく、文字通り「多様」な視点で捉え、戦略を作ることで、新しい企業文化が生まれます。そこで多様性キャリア研究の第一人者である小島貴子氏にご登場いただき、21世紀の新しい働き方、仕事に対する思考の仕方、ダイバーシティに必要なコミュニケーションについて、ご解説いただきました。

新しい勤勉(KINBEN)とは?

2016年7月14日に財務省と厚生労働省が「働き方改革」原案を発表しました。長時間労働、同一労働・同一賃金、最低賃金、130万円の壁、解雇の金銭解決制度、雇用保険料、育児休業などの検討課題に対して、それぞれ対策の方向性が示されています。実はこれに先駆けること2015年、PHP総研が「新しい働き方研究会」を発足。私もメンバーとして名を連ねています。この会では「新しい勤勉(KINBEN)宣言から」を合言葉に、新しい働き方とは何なのかを追求。具体的には、第一次産業革命期(勤勉革命・労働集約→農業の生産性向上・勤勉の素地の形成)→第二次産業革命期(明治維新後の近代化および高度成長)→第三次産業革命期(失われた20年…低い生産性、さまざまな雇用問題、人口減少・少子高齢化などの課題)を経て、これから「新しい働き方」で幸せと活力ある未来を創るためには、何が必要なのかを検討中です。その中で現在の問題をしっかり考えましょうと…。

1つ目は人口問題(人口減少、少子高齢化、生産年齢人口の減少等)、2つ目はさまざまな雇用問題(長時間労働、健康問題、働き方の格差等)、3つ目は低い生産性(経済の衰退、長時間労働等)。これらに対して「新しい勤勉(KINBEN)宣言」では、労働時間の長さではなく、時間当たりの生産性の高さ、つまり時間の長さではなく、質を高める必要があるという話をしています。さらに新しい働き方の3原則として、①生涯にわたって多様かつ柔軟に働くことができる、②幸福感と生産性とを両立させる、③マネジメント力と自律力の向上で調和をはかる…ということを掲げました。

現実を把握することから始める

新しい働き方を提言するにあたっては、今の働き方のどこが悪いのかを考えてみる必要があります。もしかすると良し悪しではなく、「現実」と合わない状態になっているのではないか。では、どんな「現実」なのかを、考えてみましょう。

私の仕事は、いくつかの企業様を対象に、採用・育成・成長に対してプログラムを作成することです。その際の作り方の簡単なフローをご紹介します。現実から課題・目標までのプロセス設定として、まずは現実を理解し、それを共有すること。次に問題を見つけること。そして最後に企業・個人に必要な目標設定をすること。これが理想・目標・課題に対して進めていくための簡単なプロセスです。

「現状」と「あるべき姿」を正確に把握し、「現状」が「あるべき姿」になることを阻むいくつかの問題を見極めて、「現状」を「あるべき姿」に近づける方法を考える必要があります。問題とは、理想と現実にギャップがある状態のことです。いつも言っているのですが、「理想」とは「現実には起きていないこと」であり、私たちが考えなくてはいけないのは、実際に起きている現実なんです。それなのに、「こうなったらいいな」「ああなったらいいな」ということをまるで現実のように考えて、このギャップに対して文句を言ってしまいがちです。そのため、仕事をするときには、このギャップを埋める必要があります。

ダイバーシティも同様です。シニアが現役でバリバリ働いて、女性も活き活きと仕事をする…、これって理想なんです。でも、その理想が現実になったら素晴らしいですよね。この理想を現実にするための、このギャップを埋めることが、ダイバーシティの解決に繋がります。逆に言えば、現実をきちんと把握しないと、このギャップは埋められません。

また、事実とイメージが混同していると、的確な目標設定はできないでしょう。事実とイメージとでは具体的にどのような違いがあるのか。例えば、結婚した女性は戦力になり難い。子供がいると出張などできない。これらは先入観であり、イメージです。事実は、仕事の意欲は「性別」ではなく「個人差」。子供がいても働き方で対応はできます。事実とイメージはきちんと分けて、事実に対しての解決策を考えなくてはなりません。

新しい勤勉(KINBEN)に基づいた新しい働き方の3原則

では新しい働き方の3原則について、もう少し詳しく説明いたします。 1つ目は、「生涯にわたって多様で柔軟に働くことができる」。年齢、性別、精神的・身体的障がいの有無を問わず、働きたいと思うすべての人々が、個々人の適正とライフコースに応じて、多様な選択ができ、柔軟に働くことを、企業内だけでなく広く社会全体で可能にする必要があります。また働くことは、私たち一人ひとりにとって安定した生活を送るための基盤であるだけでなく、社会や人と関わり、生きがいを感じる機会であるという認識を持って、その充実を目指していかなくてはなりません。

2つ目は、「幸福と生産性の両立」。新しい働き方は、働く者の幸福感を増進させるために、多様かつ柔軟でなければなりませんが、同時に生産性が高くなければ、個々の企業はもとより、社会全体の持続性を保つことができません。したがって、仕事における勤勉を測る尺度を、労働量ではなく、時間当たりの生産性を重視するものに転換すべきであるのです。

3つ目は、「マネジメント力と自律力の向上と調和」。多様で柔軟に働くことができ、時間当たりの生産性が重視される社会においては、従前の労働時間を基準とした労務管理では対応が困難になります。企業には、働く人個々人の状況や意識に応じて、組織全体としての調和を保ちながら、生産性を高める新しいマネジメント方法の確立が不可欠です。一方、働く者には、家族や所属組織なども含めた他者や全体との調和を意識しながら、自己最適となるキャリアやライフスタイルを形成していくことが求められます。

ダイバーシティを二極で考える

私は、仕組みや制度では、ダイバーシティ社会にはならないと思っています。制度では届かない「モノ」=「変化する状況」と「気持ち」にもっと目を向けなければなりません。また、女性・シニア・LGBT(性的マイノリティ)・ハンディキャップ等の方々への支援=弱者という視点で良いのでしょうか。非力な人と非力でない人を分けている時点で、大きな差別だと感じます。そうではなく、新しい思考と新しいコミュニケーションが必要です。そして誰もが持っている「心の壁」を理解することが重要だと思います。

ダイバーシティは二極で考えられます。1つ目は、個人と社会・企業間の理解のダイバーシティです。これは女性(活躍推進)、シルバー(労働意欲と仕事)、雇用形態(非正社員)、家族変化(単身者増加)、少子化(労働人口)などが挙げられます。2つ目は、社会と世界の理解のダイバーシティ。これは国際化、移民問題、宗教、政治、性別、偏見(価値観の相違の壁)、教育などです。ダイバーシティの概念は非常に広く、すべてをひと括りにしても、問題解決にはなりません。このように2つに分けて、整理して考える必要があります。

思考の再構築

また今までの物の見方、考え方、思考パターンなど従来の思考は、解体しつつあります。私たちは個人特有の思い込みや固定概念や価値観を持っていますが、それらはさまざまな状況によって変えていかなくてはいけません。とはいっても、私たちは社会的な集団の中で生活しているので、暗黙のルールや集団の常識にも影響されています。しかしそういうものに影響されつつも、新しい物の見方、考え方、思考パターンを再構築していく必要があるのです。「あなたと私は同じ会社にいるけれども、あなたと私の考えは違って当たり前。だけど、あなたのいい考え方と私のいい考え方を合わせて、もっと価値のあるものを作りましょう」という考え方が、これからの新しい働き方の思想になっていくと思います。

ダイバーシティに必要な思考とはどのようなものなのでしょうか。またダイバーシティを進めることで、どのようなことが起こるのでしょうか。思考の幅を広げる。思考の方向性=考え方の可能性を広げる。解答=唯一の正解はなく、たくさんの解答がある。考え方=自由奔放に発想し、直感を大切にする。あらゆる前提から自由になる。そして、今までにないものが生まれるのです。さらに新しいものが生まれることによって、会社の風土が変わっていき、社員のモチベーションも変わっていきます。

ジェラード博士の「Positive Uncertainty概念」

アメリカのジェラード博士は、Uncertainty(不確実)であることを Positive(前向き)にとらえていこう、という概念を提唱しています。以下がその概念です。

  1. 学び直す(今まで学んだことを疑う。今まで誰も教えてくれなかったことを自ら学ぶ)
  2. やりたいこと、目標を仮説として持つ
  3. 将来を予測し準備する
  4. 現実的にかつ願望を込めて信じる
  5. 先はわからない前提で意思決定する

そして彼は3つの質問をします。「最近、合理的でない考え方をしましたか?」「最近、将来について、非現実的なファンタジーを空想しましたか?」「最近、明確な決断をして、その後気が変わったことがありますか?」——。これら3つの質問に対し、現代のような変化の激しい時代では、すべてを「NO」と答える人は危険であると言っています。これは要するに、こうした柔軟な発想がない限り、ダイバーシティ社会の中では、新しい価値観を生み出すことはできないということです。

OECDによる見解

最近、OECDが日本の教育に口を出しています。具体的に何を言っているかというと、日本人は勤勉で知識もあるが、自信、行動力、忍耐力、情熱、リーダーシップ、協調性、コミュニケーション力、批判的思考、関連付ける能力、想像力、好奇心、行動的・社会的スキルが欠けていると。悔しいですが事実であり、こうしたものがないとダイバーシティの社会は作れないということです。実は私が5年間にわたって進めているダイバーシティ・ラーニングという教育は、図に書かれている「メンバーシップとリーダーシップ」および「柔軟思考ワーク」を行っています(※図1)。この2つの教育を進めることで、ダイバーシティ推進が実現するのです。

OECD教育局指標分析課長のアンドレア・シュライヒャー氏が2009年に発表した分析によると、アメリカで最も需要の多い10の職種は、2004年時点では存在していなかった。こうした新たな職が生まれる潮流は今後も続くとのことです。これからどんどん新しい職が生まれて、過去にあった職がどんどん消えていく。そういうときに、女性活躍ではなく、女性も活躍するし、シニアも活躍する、みんなが活躍するために、ひとり一人が違って、柔軟になるという発想と思考と言動ができることが、ダイバーシティの推進になります。


(図1)

ダイバーシティに必要なコミュニケーションとは

ダイバーシティができないくらい、仕事に不安定な人の特徴をお話します。 能力はあるのにそれを上手に発揮できない人の特徴として、不安(解決する努力→コミュニケーション)、不信(信頼を得られる行動不足)、不満(他責をするが、自分への振り返り反省をしない)、不足(何かを誰かから得られると思っている)の4つが挙げられます。この4つの「不」を満たすためには、向上心と貢献姿勢と主体性を身につけさせてあげることです。では、なぜそれができないのかというと、ハイコンテクストで決めつけが激しくて、前提が強いからです。新しい見方をすると、その人の新しい能力が出てきて、「不」が解消できます。これは座学で教え込むことではなくて、仕事の中のコミュニケーションから生まれます。私はいつも研修のはじめに、「あなたの会社は、誰に向かって、何を、どんな方法で、どれだけの利益を上げて、その利益をもとに、何をしていこうとしている会社なのですか?」というレポートを書いてもらっています。このレポートが書けないと、会社の問題と課題が浮かびあがってくるという仕組みです。

最後に、ダイバーシティに必要なコミュニケーションは、次の5つのキーワードに集約されます。
【1】注目:相手の言動に注目する。【2】関心:相手の言動に関心を持つ。【3】共感:相手の言動に共感する。【4】信頼:相手を信じる。【5】敬意:相手に敬意を払う。以上のことを心掛けることで、よりダイバーシティに近づくことができるでしょう。皆さんもぜひ、ご参考にしていただければ幸いです。本日はありがとうございました。

講演者プロフィール

小島 貴子 氏東洋大学 理工学部生体医工学科 准教授/一般社団法人 多様性キャリア研究所 所長

東洋大学理工学部生体医工学科准教授。元埼玉県雇用・人材育成推進統括参与。 三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)勤務。出産退職後、7年間の専業主婦を経て、91年に埼玉県庁に職業訓練指導員として入庁。 キャリアカウンセリングを学び、職業訓練生の就職支援を行い、7年連続で就職率100%を達成する。 2005年3月に埼玉県庁を退職。 同年5月、立教大学で、社会と大学を結びつける「コオプ教育コーディネーター」に就任。 2007年4月、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任准教授。 2010年4月より埼玉県雇用人材育成統括参与に就任。 2011年4月より東洋大学経営学部経営学科 准教授。 2012年4月より東洋大学理工学部生体医工学科 准教授、東洋大学グローバルキャリア教育センター 副センター長。 2015年4月より一般社団法人 多様性キャリア研究所 所長。 2015年12月より埼玉県人事委員会委員多数の企業で採用・人材育成コンサルタント及びプログラム作成と講師を務める。二男の母。

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