企業の経営者や人事の責任者と話していると、数年前までになかった変化を感じるようになりました。この変化は急激に何かが変わったのではなく、ゆっくり変異していくような静かな変化に感じます。

 この変化を正確に一言で言い表すことはなかなか難しいのですが、大雑把に言えば物事に対して、信念や理想を掲げて邁進するような姿勢とは違う、一種の“諦観”のようなものが横たわっているように感じます。長い間に形成された日本の様々な構造的要因で、どうも長期にわたって明るいビジョンを示すことができないことを前提としているような感覚です。
  逆に明るかった時代は、バブルはもちろんその後のベンチャーブームくらいまでであったのかもしれません。ベンチャーブームはすでに懐かしさすら覚えるもので、新たな事業、企業を立ち上げることが、新たな価値としてビジネスマンの一つの目標になりうるくらいブームでした。確かにこの時には新たなビジネスが数多く花咲いた時代でもありました。しかしその裏では新たな企業を立ち上げても、多くの企業が長らく生存することができないという現実もあります。成功した起業家はほんの一握りであり、ほとんどのベンチャーは消えていくことになります。ベンチャーブームが過ぎ去った後、リーマンショックもあり、新たな事業をリスクを負って立ち上げること自体に価値を見いだせなくなります。得るものとリスクのバランスが崩れてしまったのです。

 現在の経営者は年代的にはバブルを経験し、その後のベンチャーブームの盛衰を見て、その後長い景気低迷期を経験します。社会情勢的には日本がGDP2位から3位に転落するなど国際的影響力が低下し、また少子高齢化が進み将来への不安が増大しています。この過去の経験や現在や将来の社会の状況から、積極的な経営方針や経営計画を立案するマインドになりきれないように感じます。そのため先がまぶしいほど明るいわけでなく、逆に暗くなっていくような見通しの中で、経営責任を全うしなければならないのです。そういう意味で一種の“諦観”が横たわっているような感覚を感じるのでしょう。

 しかし全ての経営者がそうではありませんし、新しいビジネスも生まれていることは事実です。また真っ向から国際市場に進出し、世界を舞台にして活躍する企業に変貌しようとしている企業もあります。高齢化はマイナスであることを前提としないで、逆に経験あるベテランを多く活躍させることで、より企業の人事力をアップすることにチャレンジしている企業もあります。

 現在の状況に対して“諦観”的姿勢でとらえるか、逆にこの状況でも、この状況だからこそチャンスととらえるかによって、企業の成長性も大きく差がでるのではないでしょうか。人事部門も発想、スタンスを正さなくてはなりません。
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