不備があった評価制度を改訂して何年もたつけれども、運用がうまくいかないことがある。管理職者の評価スキルに問題があって、人事評価の品質がなかなか向上しないとすれば、その責任は、人事部門にある。

 評価制度自体は精緻に設計されていても、評価項目が分かりにくいのかもしれないし、十分な説明やトレーニングがされていないから理解が足りないのかもしれない。ただ、そうした問題は実践のなかで解決していくものだから、2年もすれば運用レベルは上がるはずである。何年たっても評価品質が安定しないとすれば、その問題の根は深い。
  多くの企業の管理職者は、プレイングマネジャーである。「育成のための評価」であるべきと分かってはいても、自身の繁忙さゆえに、ともすれば部下育成にまで手が回らない。人事評価も最低限の帳尻を合わせるレベルと割り切る管理職もいる。自部門の目標達成に尽力するなかで、評価をすることが、プラスαの業務負荷となっているからだ。

 人事部門がやるべきことは、人事評価の“道具性”の追及であり、“マネジメントの道具として評価”をプロモートすることである。現場の管理職者の責務は、組織目標の達成と人材育成である。評価というツールを使うことでそれがやりやすい。たとえば、目標管理制度をつかって、適正な業務分担と日常的な個別進捗の管理を可視化できる。

 能力評価の結果は、現時点の部下の能力課題である。期首に本人とそれを共有したうえで、今期の業務遂行を指導し、期中の能力発揮を両者が意識する。結果、組織目標を分担させる部下ひとりひとりの業務遂行を是正するための日日の観察と指導が、そのまま評価材料になる。結果として評価があることこそが常識化しなければならない。

 だから、評価者トレーニングで注力すべきことは、日常の個別PDCAマネジメントにおける評価制度活用の啓蒙であり、評価エラーの留意などではない。また、道具性を高めるために、上司部下間で共有できるような能力評価の行動例や、多様な目標設定の事例を、各部門と人事部門とで作成し、集積し、全社共有することがなにより重要になる。

 道具だから、物理的な使い勝手もよくなければならない。社内ICTインフラに制度運用をのせている会社は多いけれども、例えばマネジャーにとって自在な備忘録や個別指導の道具という機能として考えれば、期中に使うマネジメントツールとしてはまだまだ工夫の余地もあるだろう。

 評価制度を現場マネジャーの武器として、どれだけ有効性、効率性を高められるか---公正・的確な評価を担保するルールや項目設定の完成度の高さよりも、それこそが、追及すべき人事部門のミッションではないか。
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