かつての日本企業にはたくさんのビジネス機会があり、新しい経験を通じてリーダーが育っていった。しかしバブル経済崩壊を境にビジネス機会は減少し、自動的にリーダーが育っていく環境を日本企業は喪失した。そして若者は夢を失い、中間管理職はいかに振る舞えばよいのかに迷っている。解はイノベーションにある。イノベーション人材が次世代リーダーである。そしてミッションに基づいて高いアイデンティティーを与え、挑戦を促す仕組みが次世代リーダーを育てる。
四角い木のタイヤで進むワゴンが企業の実相
最初にこの絵を見て欲しい。この絵は、ワークハピネスのワークショップで使っているもので、いかなる組織も陥りがちな状況を示している。皆さんは何に気付いただろうか?・四角い木のタイヤなのでガタガタする ・前の人は眺めが良さそうだが、後ろの人は前がまったく見えない ・前の人は首にロープをかけて引っ張っているから、ワゴンが進まないと首が絞まる ・丸いゴムタイヤを運んでいるのだから、止まって変えればいいのに ・うちの会社によく似ている ・内の会社には前を見て引っ張る人間がいない
そう、一枚の絵のなかに企業内で起こっている事象が比喩として描かれていることに気付く。四角い木のタイヤなので、ワゴンが進むと激しい振動が起こるが、振動が伝わるのは現場だけで、ロープの先にいる経営者には伝わらない。
しかし最初から四角い木のタイヤだったわけではない。組織が成立した時にはタイヤは丸かったのだ。丸いゴムタイヤが環境の変化によって四角い木のタイヤになるのだ。
無敵の武田騎馬武者軍団が鉄砲3段連射に敗退
タイヤが四角になった例を上げてみよう。戦国時代の有力大名だった武田家は源義光に発する名族。そしてその騎馬武者軍団は戦国最強と他国から怖れられた。しかし織田信長は長篠の戦いで鉄砲の3段連射で騎馬武者の突撃を阻み、武田勝頼の軍勢は敗退した。過去数十年でもタイヤが四角になった例はいくらもある。PCは店頭で販売されていたが、DELLが注文を受けてから生産出荷する方式で急成長した。しかし現在はタブレットの台頭によってDELLは苦境に陥った。
テレビゲーム時代に超優良企業だった任天堂は500億円の赤字
音楽と言えば1970年代まではレコードで聴くものだった。1980年代になってCDが登場するとレコードは駆逐された。そのCDもiPod&iTunesによって過去のものとなりつつある。かつての小売業の覇者は百貨店だった。しかしバブル崩壊後から売上は低迷し、いまは緩やかに死んでいく過程にある。百貨店から覇者の座を奪ったのは総合スーパーだった。しかしいま集客力を誇るのはユニクロなどのカテゴリーキラーと呼ばれる業態だ。
ゲームも有為転変が激しい。テレビゲームが登場するまで家庭で遊ぶゲームと言えばボードゲームだった。しかし1980年代にテレビゲームにゲームの主役の座を奪われてしまう。そしてスマホが登場するとテレビゲームも過去のものになった。テレビゲーム時代の超優良企業だった任天堂は500億円の赤字を出している。
イノベーションは発明するものではなく発見するもの
企業はイノベーションによって立ち上がる。既成の常識に挑み、ユニークな製品やサービスを創造する。しかしそこから先はオペレーションで拡大していく。オペレーションが志向するのは秩序・安定・効率であり、論理と分析が得意な人が経営層になってオペレーションする。そしてその企業や製品はやがて衰退していく。この衰退までの時間が短くなっている。かつて「企業の寿命は30年」と言われた。しかしドラッカーは死の間際に「30年は長すぎる。現代の企業の寿命は10年」と語った。
Innovate or Dieという言葉もある。革新か死か。しかし死の淵まで行った企業でも革新によって再生に成功することができる。その好例が日産だ。ゴーンは日産のCOOに就任し、9つのクロスファンクショナルチームを立ち上げ、問題の検討と解決策の提案を行わせた。そして日産は6700億円の赤字から3500億円の黒字へと劇的な復活を遂げた。日産の成功から学べることは、イノベーションは発明するものではなく発見するものだと言うことだ。