固定観念、既成概念を修正し、塗り替える

なぜ、コンサルティングや研修を受けても人々は行動を変えられないのか。それは、研修を受ける人の心の中に「そうはいっても」という思いがあるからです。この思いの正体は固定観念、既成概念です。企業理念には「なるほど」とうなずけても、「現実はそう甘くない」などと考えてしまうのです。
最も大事なことは、無自覚のうちに身に付けてしまった固定観念を発見し、修正し、塗り替えること。そうしないと、せっかく研修で得た知識が行動に反映されません。
私が勤めるジェックは人材開発、能力開発のお手伝いをする会社です。1964年の設立以来、「人が変わる、組織が変わる」をキーワードに、コンサルティングや研修という事業を展開してきました。ジェックが大切にしていることは、まさに固定観念、既成概念を打ち破ることです。

「AからKは何か」~人は簡単に固定概念に縛られる

「理念を体現する顧客接点部隊」の創り方
さて、クイズです。(ホワイトボード上に記された「A~Z」を指し)これはエーからゼットという26文字のアルファベットです。では(「A~K」を指し)これは何でしょうか?(ほとんどの人は分からない様子)。
ヒントを出します。「A」は「エー」でなく「エース」と読みます。もうお分かりですね。トランプです。私は先ほど「エーからゼットという26文字のアルファベット」と言いました。これを聞いた瞬間、皆さんの頭の中には「A」は「エー」という固定観念が生まれたのです。これは、我々がいかに固定観念や先入観に縛られやすいかの証左です。この壁を崩さない限り、いくら研修を受けても行動は変わりません。逆に言うと、この壁を崩すことで研修の効果を最大限に高められます。
ジェックでは、研修やセミナーに「メタ認知」を組み込んでいます。メタとは「超」という意味。超客観的に自分を見て、自分の行動の奥にある行動理論に気付けるよう配慮しています。次は、私が関わった具体的な事例のお話をしましょう。

顧客との関係性構築を苦手としていた職人集団

いま、フィルムカメラは減少の一途で、市場はデジタルカメラ一色です。私が研修のお手伝いをしたのは、そのフィルムを現像する機械や薬品を扱う会社のメンテナンス部隊です。同社の経営理念は「お客様の繁栄なくして自社の繁栄なし」であり、それだけお客様を大切にする会社でした。しかし、デジカメという技術革新があって、厳しい経営環境に置かれていたのです。
パレートの法則は「上位2割の客が、全売上の8割を占める」という一般法則ですが、同社でも「営業部隊は次なる2割の顧客を創造せよ、メンテナンス部隊は既存客との関係を強めよ」という方針が打ち出されました。ところが、その会社のメンテナンス部は技術本部に属しており、それまでの組織体質もあって強烈なハイテク職人集団であり、顧客との関係強化など望むべくもなかったのです。

職人集団が掛かり付けドクターに変貌した

「理念を体現する顧客接点部隊」の創り方
具体的には、顧客である街のフォトショップを訪れても店長にあいさつする程度で、あとは黙々と機械の調整をするというありさま。あるショップの店長からは「彼らは月光仮面だな。はやてのように現れて、はやてのように去っていく」と評されていたくらいです。
そんな彼らが研修を受けて変わりました。どう変わったか。店長以外のスタッフにもあいさつする。店に居合わせたお客に「いらっしゃいませ」とあいさつする。外から店舗の様子を観察し「玄関横のPOPが見えにくいから位置を変えたほうがいいですよ」など細々としたアドバイスをする……。このように変わったのです。これは「お客様を大事にする」という理念をベースに、自らの行動が変わった事例です。そしてその裏には、「お客様を守る掛かり付けドクター」というサービスコンセプトがありました。

自分の行動理論を超客観的に知り改める

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