しかしながら、具体的な事業が開始していない状況下では顧客との取引が一切なく、単に家賃や給与、ベンダー等への支払しか発生していない場合が多いため、ついつい経理業務がおろそかになりがちです。しかしながら、インドでは日々の支払をする際、源泉所得税(TDS:Tax Deducted at Source)やサービス税の面で特に注意が必要となりますので、今回はTDSおよびサービス税の概要について、そして、初年度においてよく見うけられる税務上の経費に関するインド特有の取り扱いについてご紹介をしたいと思います。
支払をするときに気を付けるべきポイント(1)源泉所得税(TDS)編
法人設立後は、日々さまざまな支払を行っていくことになります。アパートや事務所の家賃、コンサルタントや弁護士への報酬、ブローカーへの手数料、駐在員やインド人への給与、レンタカー会社への支払などなど、これらは立ち上げ当初にごく当たり前に発生する費用です。日本では何てこともない単なる支払業務ですが、インドではこれらひとつひとつの支払の性質カテゴリーごとに一定の税率にもとづいた源泉所得税(TDS)の控除義務が規定されており、例えば、事務所の家賃を支払う場合には、原則、支払先には10%のTDSを控除した後の金額(90%部分)を支払い、控除したTDS(10%部分)はインド税務当局に翌月7日までに納税する必要があります。よくあるケースとしてTDS控除義務が規定されている項目を以下にまとめておきます。
支払をするときに気を付けるべきポイント(2)サービス税編
上記に挙げたような支払をする際には、その費用がサービスの課税対象である場合、原則、サービス税(2015年6月1日以降税率14%)が課税されます。通常は、このサービス税をサービスプロバイダーに支払い、支払ったサービス税は支払先が代わりに税務当局へ納税する仕組みです。なお、この支払ったサービス税は、当該サービスが関連する自社の製造行為やサービス提供によって稼いだ売上に付随して受け取る物品税やサービス税と相殺をすることができます。(※CENVAT Creditとして利用できる。詳細は省略いたしますが、原則論としては日本のように、預かった仮受消費税から、支払った仮払消費税を差し引くことができ、残りの預かり消費税額を税務当局へ納付する日本の消費税の仕組みと同じです。)しかしながら、①リバースチャージメカニズム(RCM:Reverse Charge Mechanism)と②軽減税率(Abatement Rate)という仕組みがあるために、必ずしも14%のサービス税を全て支払先に払わなければならないわけではありません。
①リバースチャージメカニズムとは、支払先にサービス税を支払う代わりに、一部もしくは全部のサービス税を自ら税務当局に直接納税しなければならない仕組みです。分かりやすい一例としてはサービスの輸入があります。例えば、インド子会社が日本親会社から何らかのサービス提供を受けた場合、インド子会社は日本親会社からサービスを輸入したことになります。日本の親会社が発行する請求書上にはサービス税が請求されてきませんが、インド子会社は日本親会社にサービス税を支払う代わりに、インド税務当局に14%のサービス税を直接納税する必要があります。
このリバースチャージメカニズムに該当するサービスの提供が行われた場合には、支払時に誰がサービス税の納税義務者であるのか、納税義務者と納税額に基づいて正しく請求書が発行されているか等を確認した上で、支払処理を行う必要があります。支払先が発行した請求書がそもそも間違っているケースも散見されるため、注意が必要です。リバースチャージメカニズムの対象となる主なサービスは以下のとおりです。
設立初年度は税務上経費にできない費用が多い?
さて、通常インド法人設立前後にはさまざまな費用が発生します。一般的に、法人設立までに必要となる費用を「創業費」、法人設立後、事業を開始するまでに必要な費用を「開業費」などと言ったりしますが、これらの費用は通常、日本では初年度に全額損金算入もしくは5年以内に任意償却することができます。一方で、インドでは一定の条件を満たす創業費(Preliminary expense)のみ会計上一括費用計上が求められ、税務上は5年で均等償却をすることになりますが、開業費については税務上一切損金算入が認められていません。ここで注意が必要なのは、いつのタイミングをもって「事業の開始(Commencement of Business)」とみなされるのかの認識があいまいになっている点です。なぜなら、インドではこの「事業の開始日」以降に発生した費用から税務上の損金算入が認められているからです。つまり、インド税務当局は納税額を増やすために「事業の開始日」の認識を遅らせようと指摘をしてくる傾向にあり、これに対して会社側は納税額を減らすために「事業の開始日」の認識を早めようとする傾向にあります。金額的な影響力が大きい場合や特に製造業の場合などでは初年度の経費をほとんど損金算入できない可能性もありますので、事前に十分な検討をしておく必要があります。
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