坂根 正弘 著
東洋経済新報社 1680円
コマツ会長の坂根正弘氏の新著が出た。3冊目の著作である。本書ではじめて知ったが、坂根氏が社長に就任した2001年のコマツはひどい状態にあり、2002年3月期決算は130億円の営業赤字だった。しかし固定費削減などの構造改革に取り組み、2003年3月期決算には331億円の営業黒字へとV字回復した。坂根氏は2007年に会長職に転じたが、社長在任中の営業利益は拡大し続けた。
東洋経済新報社 1680円
コマツ会長の坂根正弘氏の新著が出た。3冊目の著作である。本書ではじめて知ったが、坂根氏が社長に就任した2001年のコマツはひどい状態にあり、2002年3月期決算は130億円の営業赤字だった。しかし固定費削減などの構造改革に取り組み、2003年3月期決算には331億円の営業黒字へとV字回復した。坂根氏は2007年に会長職に転じたが、社長在任中の営業利益は拡大し続けた。
世界の評価は高い。2009年に米ハーバードビジネスレビュー誌の「在任中に実績をあげた実行力のある最高経営責任者(CEO)」トップ100の17位に選ばれた。もちろん日本人のなかでトップである。
そんな日本を代表する名経営者の著作だ。面白いに決まっている。
奇跡のV字回復のために、坂根氏が行った構造改革は第1章「コマツを甦らせた言葉力」に描かれている。まず問題の本質を把握することが必要だ。坂根氏は「ファクトファインディング」という言葉を使っている。当時のマスコミは「諸外国に比べると高コスト体質ゆえに割高」が赤字の原因としていた。しかし坂根氏は事実(ファクト)を分析し、赤字の原因が高すぎる固定費にあることを見つけた。ならば固定費を削減すればいい。
坂根氏は徹底的に固定費削減を行った。社内サービス業務を思い切ってアウトソーシングし、インハウス子会社の改廃を進めた。300社あった子会社の110社を畳み、190社に減らした。そして希望退職を募った。この希望退職の方法が類を見ないものだった。
本書でも触れているが、普通、人員を整理する時は、辞めてもらっては困る人や幹部候補生を除外することが多い。しかしコマツの希望退職募集では、対象者に聖域を設けず、年齢、役職、業務内容に関わりなく全社員に送った。その結果として2万名の社員のうち1100名が手を挙げた。
なぜ賃金カットではなく希望退職だったのか? なぜ全社員を対象にした希望退職だったのか? その理由は、危機感を醸成するためだ。危機感が全社員の力をひとつにまとめる。その結果としてコマツはV字回復を果たした。
従業員のリストラは社内を暗くする。そこで坂根社長は研究開発費を削減しないことを明言し、他社が数年は追いつけないダントツ商品を開発する「ダントツプロジェクト」を開始した。
その一方で商品数を削減した。当時の商品数は750機種だったが、その半分は日本国内でしか販売していないものだった。日本でしか売れないものならやめてしまおうと判断したのだ。そして社員には「すべてのお客さまのニーズに応えなくていい」と伝えた。
こういう決断は「改革にあたっては全体最適を貫く」という信念から生まれた。リーダーは部分最適ではなく、全体最適で語らなくてはならないと坂根氏は説いている。
第2章「言葉の力はファクトで決まる」以降はリーダー論として読むことができる。リーダーにとって言葉を「語る」より、重要なのはまず「見る」ことだ。「事実を見る」「大局から見る」「全体最適で見る」。そして本質が見えれば、わかりやすいたとえ話を使って、的確に意思を伝えることができる。
ただ気を付けなくてはならないことがある。「見えている」と言われていること、みんなが「見えている」と思っていること、世間の常識が本当に真実なのかを、リーダーは常に疑ってかからなければならない。
最後に、坂根氏がリーダーとして大事にしている言葉を紹介しよう。ふたつある。ひとつは「誠」。誠は「言う」を「成す」と書く。リーダーは言葉でメッセージを伝えることが大事だが、相手に伝えるだけではだめ。伝えたことを自分で実行しなければ意味がない。この有言実行が「言うを成す」である。
もうひとつ大事にしているのは「知行合一(ちこうごういつ)」だ。中国、明代の思想家である王陽明の言葉で、「知識は行動や経験を通じてはじめて身につく」という意味だ。坂根氏は「全体最適はこの方向」と思ったら、まず行動するそうだ。そして理論を勉強しながら自分のやっていることを客観的に見る。つまり走りながら考える。これが坂根式リーダー術の本質である。
本書を読んで感じたのは、言葉の強さだ。空理空論はかけらもない。言葉のすべてが経験に裏打ちされている。本書全体がリーダー論として読めるし、グローバル人材についての考察もある。
経営者、課長以上のリーダー職、そして人事マネジメントに携わる者には、とても有益な本だと思う。そして強い言葉に感銘を受けると思う。
そんな日本を代表する名経営者の著作だ。面白いに決まっている。
奇跡のV字回復のために、坂根氏が行った構造改革は第1章「コマツを甦らせた言葉力」に描かれている。まず問題の本質を把握することが必要だ。坂根氏は「ファクトファインディング」という言葉を使っている。当時のマスコミは「諸外国に比べると高コスト体質ゆえに割高」が赤字の原因としていた。しかし坂根氏は事実(ファクト)を分析し、赤字の原因が高すぎる固定費にあることを見つけた。ならば固定費を削減すればいい。
坂根氏は徹底的に固定費削減を行った。社内サービス業務を思い切ってアウトソーシングし、インハウス子会社の改廃を進めた。300社あった子会社の110社を畳み、190社に減らした。そして希望退職を募った。この希望退職の方法が類を見ないものだった。
本書でも触れているが、普通、人員を整理する時は、辞めてもらっては困る人や幹部候補生を除外することが多い。しかしコマツの希望退職募集では、対象者に聖域を設けず、年齢、役職、業務内容に関わりなく全社員に送った。その結果として2万名の社員のうち1100名が手を挙げた。
なぜ賃金カットではなく希望退職だったのか? なぜ全社員を対象にした希望退職だったのか? その理由は、危機感を醸成するためだ。危機感が全社員の力をひとつにまとめる。その結果としてコマツはV字回復を果たした。
従業員のリストラは社内を暗くする。そこで坂根社長は研究開発費を削減しないことを明言し、他社が数年は追いつけないダントツ商品を開発する「ダントツプロジェクト」を開始した。
その一方で商品数を削減した。当時の商品数は750機種だったが、その半分は日本国内でしか販売していないものだった。日本でしか売れないものならやめてしまおうと判断したのだ。そして社員には「すべてのお客さまのニーズに応えなくていい」と伝えた。
こういう決断は「改革にあたっては全体最適を貫く」という信念から生まれた。リーダーは部分最適ではなく、全体最適で語らなくてはならないと坂根氏は説いている。
第2章「言葉の力はファクトで決まる」以降はリーダー論として読むことができる。リーダーにとって言葉を「語る」より、重要なのはまず「見る」ことだ。「事実を見る」「大局から見る」「全体最適で見る」。そして本質が見えれば、わかりやすいたとえ話を使って、的確に意思を伝えることができる。
ただ気を付けなくてはならないことがある。「見えている」と言われていること、みんなが「見えている」と思っていること、世間の常識が本当に真実なのかを、リーダーは常に疑ってかからなければならない。
最後に、坂根氏がリーダーとして大事にしている言葉を紹介しよう。ふたつある。ひとつは「誠」。誠は「言う」を「成す」と書く。リーダーは言葉でメッセージを伝えることが大事だが、相手に伝えるだけではだめ。伝えたことを自分で実行しなければ意味がない。この有言実行が「言うを成す」である。
もうひとつ大事にしているのは「知行合一(ちこうごういつ)」だ。中国、明代の思想家である王陽明の言葉で、「知識は行動や経験を通じてはじめて身につく」という意味だ。坂根氏は「全体最適はこの方向」と思ったら、まず行動するそうだ。そして理論を勉強しながら自分のやっていることを客観的に見る。つまり走りながら考える。これが坂根式リーダー術の本質である。
本書を読んで感じたのは、言葉の強さだ。空理空論はかけらもない。言葉のすべてが経験に裏打ちされている。本書全体がリーダー論として読めるし、グローバル人材についての考察もある。
経営者、課長以上のリーダー職、そして人事マネジメントに携わる者には、とても有益な本だと思う。そして強い言葉に感銘を受けると思う。
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