「名前のない世代」とは?
就職氷河期世代とゆとり世代の間に、世代名のない「名前のない世代」があります。「名前のない世代」とは、1982年から1986年までの間に生まれた、現在の年齢でいうと35歳~39歳の方々を指します。
「名前のない世代」の特徴を手短に述べると、「他の世代と比べると、センセーショナルな社会的影響は受けていない」ということです。一つ上の先輩世代となる就職氷河期世代は、就職氷河期を経験した一方で、ITバブルの黎明期に大学生や新社会人となってITベンチャーをつくりました。現在、日本を代表するようなインターネット企業やIT企業の多くは、就職氷河期世代かその上のバブル世代が設立したものが多いでしょう。そして、「名前のない世代」の後輩にあたるのがゆとり世代です。ゆとり世代はゆとり教育を経験してきたこともあり、どちらかといえば「がんばりすぎない」、「無理をしない」という価値観が中心的です。しかし「名前のない世代」は昭和時代の伝統的な教育を受けており、「がんばらなければならないこと」も知っています。ここまでを整理すると、「名前のない世代」は、上下の世代が特徴的すぎて“やや存在感が薄い世代”とも言えます。
しかし全く特徴がないかというと、そうではありません。
「名前のない世代」の大きな特徴が、青春時代に時代の変化を最も多くのことを体験してきたことなのです。彼らが生まれた1980年代中盤は、まだパソコンの黎明期で、電話もダイヤル式電話が残っていました。音楽もCDが出たばかりで、映像の録画機器もVHSとベータが覇権を争っていた時代でした。その後、小・中学生時代を過ごした90年代にポケベル、PHSが生まれ、Windows95も発売になります。中高生の頃にはデジタルメディアもMP3プレーヤーやiPodに代わりました。その後、彼らが社会人になってから、携帯電話はスマホが誕生し主流になります。つまり、本格的なデジタル社会が当たり前になる中で成長し、社会人になって使いこなしながら仕事を進めてきました。
「名前のない世代」はこうしたデジタルへの時代のめまぐるしい変化を“多感な中高生時代と20代に”体験しながら、それぞれの変化に柔軟に対応してきた世代でもあります。
「名前のない世代」の生態
「名前のない世代」は、このように世の中の価値観の変化や新しいテクノロジーに柔軟に対応することに長けています。しかしもう一つポイントになるのが、彼らの親世代は戦後に生まれた昭和世代であるということです。彼らは家庭では昭和から続く日本の伝統的な価値観に触れており、その感覚も備わっています。つまり、新しいことを取り入れるのに抵抗感が少ない一方で、古い価値観も理解し許容できる、そんな特徴があるのです。仕事に対しても、彼らは1つの職場である程度の期間働く安定的な志向を持ちつつも、少し冷めた目線で会社とかかわる傾向があります。なぜなら、多くの時代変化を経験したことで、「会社や仕事もそのうち変わるものだ」と理解しているからです。転職を経験する人も多いですが、ゆとり世代と比べて、どちらかと言えば積極的に転職しようという考えではないかもしれません。ある程度の経験を積んで、自分のスキルが蓄積されていて、それを活かせる職場があれば転職してもいいかなという程度に考えていそうです。
さらに大きなポイントに、就職氷河期世代と異なり、希望通りの大手企業に入社した人も多いことが挙げられます。新卒で入社した会社に長く勤め、既にその会社の「主力メンバー」となっている方も多いのが特徴です。組織にある程度のコミットをしている一方で、シニア世代や就職氷河期世代と違い、自身のプライベートも大切にします。これは彼らが育つ中で、Jリーグが開幕したり、ゲームやアニメ文化の隆盛があったりと、エンターテイメントが充実し、学校が終われば遊びに行くような学生時代を過ごしてきました。そのため、仕事には力を注いでやるけれど、自分のやりたいことも同時に優先したいという人が多い印象です。
組織運営は、「名前のない世代」の活用が大きなカギ
こうした日本の古い価値観と、新しい価値観の両方を理解できる「名前のない世代」は企業の組織運営にとって非常に重要な存在です。なぜなら、昭和世代とゆとり世代をつなぐ役割として、両者のジェネレーションギャップを埋めることができるのです。彼らは後輩に対しては、ゆとり世代の考えに共感しつつも、昭和世代の考えも伝えることができます。反対に昭和世代に対しては、ゆとり世代の考え方や価値観を理解した上で翻訳することができるのです。また、自身は物事の変化にも、落ち着いて柔軟に対応できるため、変化の激しい現代社会でも充分な戦力となっています。
実際にこれから大手企業では、「名前のない世代」が中間管理職になっていきます。そしてあと5年もすれば、中には企業の役員になる人もいるでしょう。彼らは、昭和世代の役員ともうまく接しながら、ゆとり世代の部下をマネジメントできる「現代になくてはならない希有な調整役」です。これらのことを特徴を踏まえ、一度社内のメンバーの状況を見渡してみるのはいかがでしょうか。
これからの大手企業における組織運営において、「名前のない世代」に積極的に仕事を任せ、次世代リーダー候補として企業運営の中心的存在になってもらうことこそが重要なカギを握ります。
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