講師
岩本 隆 氏
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。 山形大学学術研究院産学連携教授、HRテクノロジー大賞審査委員長、HR総研アドバイザー、(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事などを兼任。
小谷 泰則 氏
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 助教
東京都立大学理学研究科生物学専攻修了。博士(理学)。専門は生理心理学,スポーツ心理学。著書は『これからの健康とスポーツの科学』(講談社サイエンティフィック・分担執筆)、『生理心理学と精神生理学』(北大路書房・分担執筆)他、多数。企業との共同研究も多く、共同開発した「運転者状態判定装置及び運転者状態判定方法」(2017年)、「精神疾患判定装置」(2018年)、「脳活動推定装置」(2017年)などで特許を取得。
寺澤 康介
ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長
1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。8万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。
テクノロジーと脳科学をHRに活かすには? ウェルビーイング向上にむけた取り組みについて
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本 隆氏
テクノロジーの進化で、脳科学がHRの領域に入り込む
近年、脳神経科学を人材マネジメントに活かす研究が増えています。そうした実情を踏まえながら、テクノロジーと脳科学、HRの全体像をご紹介いたします。HRマネジメントでは、「ウェルビーイング」の重要性が非常に高まっています。ウェルビーイングとは、フィジカル面・メンタル面の健康に加えて、やりがい、幸福感などを包含した概念だと捉えてください。ウェルビーイングが注目される背景として、世界中で進行する第四次産業改革が挙げられます。産業構造が変化して人材争奪戦とも言える状況が起こっています。企業はウェルビーイングを高めないと、人材が採用できず、持続的成長が叶えられない状況となっているのです。さらに、コロナ禍でリモートワークが増え、各社ウェルビーイングの醸成に苦心するようになりました。他方、テクノロジーの進化も大きな影響を与えています。テクノロジーの進化とは、専門外の素人でも専門技術を使えるようになることを意味します。この結果、脳科学がビジネスに応用されるようになっているのです。
ウェルビーイングを起点に話を進めましょう。「マズローの五段階欲求」を聞いたことがあると思います。マズローは6段階目の欲求があることを主張しています。最も高次の欲求で、「自己超越欲求」と呼ばれるものです。つまり、自己を変革する欲求。この高次の欲求を満たすテクノロジー、すなわち、人間を変革する「トランステック(Transformative Tech)」が世界で盛んに開発されています。ウェルビーイングを高める上では、個々の従業員の自己成長や限界突破を支援することが非常に重要になっています。トランステックの研究は日本でも進んでおり、国立研究開発法人産業技術総合研究所が「人間拡張研究センター」を開設しました。
ウェルビーイング向上においては、「従業員エンゲージメント」との両立を十分に思料しなくてはなりません。「ウェルビーイング」あるいは「従業員エンゲージメント」、いずれか一方を高めるだけでは、企業に弊害をもたらすケースがあります。ウェルビーイングだけを高めても、従業員にとってぬるま湯の環境になるとされています。一方、従業員エンゲージメントは業績と正の相関関係があるとの研究結果が世界中で発表されているものの、従業員エンゲージメントだけを高めると、燃え尽き症候群が起き、離職を招く恐れもあります。ウェルビーイングと従業員エンゲージメントを両立させることが、企業のあるべき姿として、経営を行う上でとても重要になっているのです。
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