「就職氷河期世代」とは具体的にどの年代か?
世代と聞くと、あなたがまず思いつくのはどんな世代名でしょうか。少し前には「団塊の世代」、「団塊ジュニア」、「ロスジェネ」という言葉が流行りました。これらの数ある世代名の中で、最近もまた話題になっているのが「就職氷河期世代」です。コロナ禍で飲食業や宿泊業を中心に企業が業績減となる中、就職氷河期世代の方を中心とした失業や収入減少といった影響が出ているといわれています。なぜなら、就職氷河期世代の中には正社員ではない非正規で働いている人も多いとされるためです。
就職氷河期世代とは、厚生労働省によれば「1990年代~2000年代の雇用環境が特に厳しい時期に就職活動を行った世代」と定義されます。具体的には、2021年の現時点で「30代後半~40代後半」の人で、総務省統計局が2018年に公表した資料(※)によると総数は1,679万人で、労働力の中核となる「20~69歳」に占める割合は2割強にあたるとされています。
バブル崩壊後に企業が新規採用を絞ったために、この就職氷河期世代の多くは不本意ながら不安定な仕事に就いている、もしくは仕事がないという状況にあります。新卒時に思うように企業からの内定が得られず、その後、非正規の仕事を転々とするうちに、40代になっても一度も正社員として働いたことがないという方もいるでしょう。さらに、転職活動をしても非正規雇用の期間が長いキャリアでは、思うような仕事が得られないケースもあるはずです。
では、実際の就職氷河期世代の就労状況はどうなのでしょうか?
総務省統計局が2019年に公表した「35~44歳世代の就業状況」(※)からその実態を探ってみます。2018年の調査実施時点で「35~44歳の就職氷河期世代(2021年現時点で38歳~47歳)」の非正規雇用者のうち、不本意に非正規雇用で働いている人は合計50万人(男性:21万人/女性:28万人)だったようです。そして、就職氷河期世代の特徴として「従業者規模500人以上」の企業に勤めている人が少ないという傾向が示されました。
就職氷河期世代は、不本意ながら非正規雇用となった方がほかの世代と比べて多いだけでなく、正規雇用された方も大企業で職を得た人が少ないという実態が伺えます。
就職氷河期世代の光と影
ここでひとつ、先ほどの総務省の統計から意外な点が読み取れます。不本意ながら非正規雇用となっている方(不本意非正規雇用者)は、実は就職氷河期世代全体の3%程度だという点です。これは想像していたよりもかなり少ないのではないでしょうか。実は、就職氷河期世代は「大企業が若年層の新規採用を絞った」という点が最も大きな特徴です。統計上は中小企業に就職できた方が多くいます。つまり就職氷河期とは「大企業に正社員として入社できなかった時期」といえるでしょう。
もちろん、実際には非正規雇用で働かざるを得ない状況が続き、十分な収入を得られていない方もいるでしょう。一方で、近年は好景気が続いた影響で大企業以外で職を得た就職氷河期世代の方もいるようです。統計上では、「就職氷河期世代だから」という理由で正規・非正規に関わらず仕事を得ていない方は少ないように見えます。
それでは、大企業に就職できた就職氷河期世代は「勝ち組」といえるのでしょうか。確かに収入面や待遇面では、安定した大企業に入社できたのは「勝ち」といえるかもしれません。しかし、大企業で働く就職氷河期世代は相当な苦労をしています。
人員構成がいびつになったことで、大企業では数年前から中堅層が足りず、仕事が回らないという現象が起きています。このタイミングで「管理職になった就職氷河期世代」は、中堅層がいないことで、部下が足りず管理職業務に加えて部下の仕事もこなすプレイングマネージャーとしての重労働が強いられています。また、中堅層が足りないため、なかなか管理職になれないという方も少なくありません。
一方、就職氷河期世代で管理職になった方は、優秀な方が多いとも感じます。非常に厳しい就職活動を乗り越え、同期が少ない中、中堅層のプレーヤーとしての仕事もこなしながら管理職の仕事もする。たくましい仕事ぶりを発揮している方も少なくないでしょう。
就職氷河期世代は中小企業で職を得た方、不本意な非正規雇用で苦労している方、大企業で職を得たけれど相当な苦労を強いられている方、と一口に言っても様々な方がいる、という姿が見えてきます。
就職氷河期世代の本当の問題
就職氷河期世代は、「大企業が若年層の新規採用を絞った」時期です。この定義から考えてみると、そこに一つの価値観が見えてきます。それは「大企業に入社することが是である」という価値観です。この世代の本当の問題は、キャリアに対する価値観の転換とそれに対する周囲の支援不足であると考えられます。就職氷河期世代はバブル崩壊後に社会人になった世代ですが、その親は高度経済成長期に大企業が終身雇用制を約束し、多くの新卒を企業に抱え込んだ世代でした。就職氷河期世代の親世代には、「大企業に就職すれば一生安泰」という価値観が定着していると考えられます。
そのような親の下で育ち、厳しい「受験戦争」を乗り越え、「大企業で働かなければならない」という価値観を持った方も多いと考えられます。また就職氷河期世代が新卒者となった2000年代はまだ転職がメジャーではなく、新卒社員が会社を辞めることは悪とされる風潮が強かった時代です。大企業で働くことが正しいとされて育ちつつも、自分自身は大企業では働けないという実情の中で、不本意ながら就職した先でも「転職」という選択もままならず、そのまま働き続けるしかなかったというのが就職氷河期世代です。
実際には2007年ころからは、新卒社員が3年以内に転職することが当たり前になってきました。就職氷河期世代は、ITバブルや、2010年代の戦後最長の好景気も経験しており、転職ができるタイミングがあったはずです。あるいは最近の若年層のように起業や副業、フリーランスで働くという選択肢もあり得ました。
しかし当時は大企業で働くことが大卒者にとって社会的に正しいことであるとされてきました。
つまり、「大企業で働かなければいけない」という価値観に対し、“キャリアに対する新しい価値観を選ぶことができず、価値観の転換に対する周囲の理解や支援も得られなかったこと”が就職氷河期世代の本当の問題といえます。
最近は就職氷河期世代に対して正規雇用を促進する政策が行われています。しかしキャリアに対する価値観の転換への支援不足、という就職氷河期世代の本当の問題を見つめなければ、就職氷河期世代が真に活躍する支援はできないでしょう。
就職氷河期世代に対しては、「大企業・正社員で働く」という「正しい働き方」ではなく、「自分らしい働き方は何か」を一緒に考えていく必要があります。
川﨑昌, & 伊藤利佳. (2021). 離職に影響を与える要因分析. 目白大学経営学研究= The journal of management Mejiro University, 19, 27-41.
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