精神障害者の雇用義務化の影響のもと、2021年4月にはその法定雇用率がさらに引き上げられた。企業としても、これまで以上に精神障害者の雇用に真摯に向き合っていかなければならない。本講演では、上智大学 法学部 教授 永野 仁美氏が、精神障害者の雇用と法政策に絡む問題点と留意点を取り上げた。講演の後半では、法政大学 名誉教授/認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク理事長 諏訪 康雄氏が対談相手を務め、永野氏とのディスカッションも行われた。

講師

  • 永野

    永野 仁美 氏

    上智大学 法学部 教授

    上智大学 法学部 教授(社会保障法)。大学院進学以降、フランス及び日本における障害者政策の研究をしてきました。近年、特に雇用政策に関して研究する機会が増えていますが、障害年金や障害福祉サービスなどの社会保障政策の研究にも力を入れています。障害者の抱える困難は、日常生活・社会生活のあらゆる場面に及びます。幅広い視点から障害者政策について検討することを心がけています。



  • 諏訪

    諏訪 康雄 氏

    法政大学 名誉教授/認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク理事長

    1970年に一橋大学法学部卒業後、ボローニャ大学(イタリア政府給費生)、東京大学大学院博士課程(単位取得退学)、ニュー・サウス・ウェールズ大学客員研究員(豪州)、ボローニャ大学客員教授、トレント大学客員教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、厚生労働省・労働政策審議会会長等を経て、2013年から2017年まで中央労働委員会会長。現在、法政大学名誉教授、認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク理事長。主な著書に『雇用政策とキャリア権』(弘文堂・単著)、『雇用と法』(放送大学教育振興会・単著)、『労使コミュニケーションと法』(日本労働研究機構・単著)、『労使紛争の処理』(日本労使関係研究協会・単著)、『外資系企業の人事管理』(日本労働研究機構・共著)、『キャリア・チェンジ!』(生産性出版・編著)など。

精神障害者の雇用促進がすべての人の働き方を変えるきっかけに――雇用と法政策の観点から考察する

精神障害者の雇用を巡る留意点と働きやすい環境づくりの重要性
上智大学 法学部 教授 永野 仁美 氏

増大する精神障害者の雇用、法定雇用率も2.3%へ

本講演では、企業が精神障害者を雇用するうえで知っておくべき知識や課題についてお話ししたいと思います。まず、精神障害者の雇用に関する基本情報を確認していきます。日本では精神障害を患う人の数が増大しており、現在約389万人の精神障害者がいます。これに伴い、メンタルヘルス施策の重要性も高まってきています。また、精神障害者の雇用も増えており、令和2年6月現在、就労している方が約8万8,000人います。加えて、精神障害者を巡る社会環境の変化を語るうえでは、地域精神医療の進展にも言及しておく必要があります。かつては、精神障害者は精神病院での長期入院を余儀なくされていました。2000年代に入った頃からは、地域での生活への移行が重視されつつあります。

ここで、精神障害者を巡る雇用政策の変遷を確認してみましょう。日本の障害者雇用政策は、身体障害者を対象としてスタートしました。しかし、1987年に「身体障害者雇用促進法」が「障害者雇用促進法」へと改正され、すべての障害者が法の対象となりました。続く2005年の改正で、実雇用率の算定にあたり、現に雇用する精神障害者をカウントする仕組みが始められました。さらに2013年の法改正では、精神障害者の雇用義務化が実現し、2018年4月の施行に伴い、法定雇用率は2.2%となり、2021年3月にはさらに2.3%へと引き上げられました。

精神障害者を雇用した際のカウント方法は次の通りとされています。まず、週の所定労働時間が30時間以上の者を雇用した場合には、一人雇用したものとして計算されます。他方、20時間以上30時間未満の場合には、0.5人の雇用として計算されます。また、身体障害者や知的障害者に認められている重度障害によるダブルカウントの仕組みはありません。これに関しては、企業からダブルカウントの要望が出されているものの、当面は新規雇入れから3年以内、または精神障害者保健福祉手帳の取得から3年以内の短時間労働者に限って1カウントにするに留まっています。
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