働きがいや会社への愛着を意味する「エンゲージメント」。若手社員のエンゲージメントの低下が、多くの企業で深刻な問題となっている。その動きは「With コロナ状況」の現在においてさらに加速。エンゲージメント低下を防ぐ対策として、若手社員ほか優秀人材の定着を促進する「リテンション・マネジメント」が注目されている。ここでは同分野の研究に取り組まれる青山学院大学経営学部教授 山本 寛氏による講演を通じて、ニューノーマル時代の「若手が辞めない組織づくり」を考える。
講師
山本 寛 氏
青山学院大学経営学部 教授
人的資源管理論・キャリアデザイン論担当。博士(経営学)。メルボルン大学客員研究員歴任。働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントが専門。著書(単著)として、『連鎖退職』、『なぜ、御社は若手が辞めるのか』、『「中だるみ社員」の罠』(以上日経BP社)、『人材定着のマネジメント』(中央経済社)、『自分のキャリアを磨く方法』、『転職とキャリアの研究〔改訂版〕』、『働く人のためのエンプロイアビリティ』、『昇進の研究〔増補改訂版〕』(以上創成社)がある。著書(編著)として『働く人のキャリアの停滞』(創成社)がある。 研究室ホームページ http://yamamoto-lab.jp/
「コミュニケーション不足」と「評価への不安」でエンゲージメントが低下
青山学院大学の山本です。大学では「人事管理」と「働く人のキャリアデザイン」の2つのテーマの科目を担当しております。研究としましては、「会社のマネジメントが働く人のキャリアにどのような影響を与えるか」といったことを取り上げてきました。本日はテーマにもある「エンゲージメント」と「リテンション」の重要性についてお話ししながら、両者の関係性にも触れたいと思います。昨今、多くの企業で、若手社員の働きがいや会社への愛着を意味する「エンゲージメント」の低下が深刻化しており、それを原因に会社を退職する人が増えています。本講演では、現在の「Withコロナ」の状況も踏まえつつ、若手社員ほか優秀人材の定着を促進する「リテンション・マネジメント」の観点から、具体的な対策をお話ししていけたらと思います。ここでのリテンションの意味は「定着」です。
まずは「エンゲージメント」について。短期的状況、つまりWithコロナ状況下の現在を2つの調査結果から見ていきます。現在の状況における働き方の特徴、1つ目は「テレワーク」です。テレワーク経験者を対象に、「テレワーク時のデメリット」を聞くと、「上司・部下・同僚とのコミュニケーションが不足する」、「職場メンバーと議論・ディスカッションがしにくい」との声が上がりました(リクルートマネジメントソリューションズ「テレワーク緊急実態調査」2020年)。また、同じくテレワーク経験者に「テレワーク環境における心理的変化」を聞くと、「仕事のプロセスや成果が適正に評価されないのでは、という不安が高まる」との声が30%近くに上りました(日経リサーチ「コロナ禍で広がるテレワーク」2020年調査)。つまり、前者からはコミュニケーション不足が、後者からは自身の評価への不安が「働きがいの低下」を招いているのではないか、ということが考えられます。
2019年に1.60倍だった平均有効求人倍率は、2021年6月に1.13倍まで下がりました。コロナ禍において求人数が減り、求人倍率も低下しています。その一方で、転職希望者数は2021年6月の段階で、前月比104.9%、前年同月比109.0%という調査結果もみられるのです(パーソルキャリア「転職求人倍率レポート(2021年6月)」2021年)。このように、コロナ禍の影響を受けず転職希望者は増加傾向にあり、優秀人材の定着の重要性は変わっていません。
そして、そういった転職希望者には、“将来への不安や新しい生活様式に向けて柔軟に働ける環境を求め、在宅勤務やテレワークでの勤務が可能な職種への転職を希望する人が多い”という特徴があります。しかし、先ほどの「テレワーク時のデメリット」や「テレワーク環境における心理的変化」といった調査結果をみても、在宅勤務やテレワークにも問題があることは間違いありません。
別のデータを見てみましょう。転職サイトを利用する35歳以上の社員を対象とした調査です。正社員、契約社員、会社役員・経営者それぞれに聞き取りをしたところ、3割超が転職を考慮しているということが分かりました(パーソルキャリア「新型コロナ感染拡大の状況下における転職希望者の意識・動向調査」2020年)。また、新型コロナウイルスの流行で転職意向が「強まった」と感じた人は39%(「変わらない」は52%、「弱まった」は9%)を占めています(エン・ジャパン「ミドル世代の「転職意向」実態調査」2020年)。この結果は、“コロナ禍収束後の転職が一挙に増加する可能性が高い”ことを示していると言っていいでしょう。
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