早稲田大学ビジネススクール教授 株式会社ローランド・ベルガー会長 遠藤 功
カシオヒューマンシステムズ 代表取締役社長 尾平 泰一
モデレーター:HRプロ代表 寺澤 康介


2012年6月21~22日に開催されたHRサミット2012(大阪)において、
日本の強みである「現場力」を熟知する早稲田大学ビジネススクール教授、株式会社ローランド・ベルガー会長の遠藤功氏と、日本HRチャレンジ大賞の人材サービス特別賞を受賞したカシオヒューマンシステムズ 代表取締役社長、尾平泰一氏をお招きし、トークセッションを実施しました。
お二人のショートプレゼンによる問題提起からスタートし、引き続いてのトークセッションに参加者は熱心に聞きいっていました。

<ショートプレゼンテーション>

■遠藤氏「元気のない職場をどうするか」

特別トークセッション【大阪】
  遠藤氏は、現場力こそが日本企業の競争力の源泉だと強調。自主性、自発性、自律性の高い現場のナレッジ・ワーカーの力を最大限生かすことが何よりも重要だと述べる。そのためには、職場が活性化することが必須なのだが、今の日本企業の職場の多くは逆に元気がなくなってしまっている。なぜか。
 遠藤氏は、ミドル層(職場長)が疲弊し十分に機能しておらず、「課長力」が劣化していることを指摘。かつては職場にあったイキイキ、ワクワク感が薄れ、「ノリ」が悪い盛り上がりに欠ける職場が増えてしまったという。それを変えるためには、組織密度(一体感)を高め、組織熱量(エネルギー)を増やすことが必要で、「ミドルがチャレンジできる環境をつくる」「共通の価値観(ウェイ)醸成」「必死にコミュニケーションを取り合う環境づくり」「ホラを吹いてでも夢を語れ!」などの施策が提示された。
 最後に遠藤氏は、日本の強みである「現場力」とは、すなわち人の可能性を信じることであり、人の可能性を信じ、自分自身を信じることだと述べ、プレゼンテーションを締めくくった。

■尾平氏「日本の強み『現場力』を活かす組織の作り方」

特別トークセッション【大阪】
  尾平氏は、日本の強みである「現場力」を活かす組織を作るために、人事部門の役割がどう変わっていくべきかを示した。まず人事は、事業にいかに貢献するか、事業課題を有する経営をいかにサポートできるかという観点に立つべきであると提案する。しかし、現状は、管理的視点が強く、労務サービスの域を出ない企業がまだまだ目立つと述べた。
企業を取り巻く劇的な環境変化により、経営そして事業部門は迅速な対応が求められている。その為には、変化に対応した事業展開に適した人財の再配置が必要であり、再配置を行うための「人財の見える化」が必須である。人事部は、経営・事業部門に対して、能力、キャラクター、モチベーションといった動的な人財情報をリアルタイムに提供できる仕組みを整えなければならないと、尾平氏は強調した。
では、具体的にはどのような仕組みがあるのか。解決策の一つとして、尾平氏が率いるカシオヒューマンシステムズは「人財の見える化」を可能にする人財支援システム「iTICE(アイティス)」を提供しており、そのコンセプトと仕組みがプレゼンテーションの最後に説明された。(「iTICE(アイティス)」は「日本HRチャレンジ大賞2012」にて人材サービス部門特別賞を受賞)

<トークセッション>

■遠心力(現場)を活かす求心力(マネジメント)でなければならない

特別トークセッション【大阪】
  モデレーターの寺澤氏は「東日本大震災で見られた日本企業の現場力は世界から称賛された。今でも現場力は健全なようだ」と述べ、意見を求めた。
 遠藤氏は「震災後の様々な復興の状況は、まさに日本の現場力の強さが世界に示した。原子力発電所事故において、東京電力には、吉田所長という現場力があったからあの事故に対応できたが、一方で官邸や東京電力のトップは現場を助けるどころか妨げとなるような動きばかりが目立った。」と指摘した。そして、このような現象は、日本企業の多くで見られることだと言う。また、遠藤氏は、「組織には求心力(マネジメント)と遠心力(現場)があるが、遠心力を強くし活かすのが求心力の役割であり、求心力が現場にあれこれ介入することは返って遠心力を弱めることになる。求心力としての本社人事部門は、遠心力である現場をいかに支援し力を発揮できるようにするかを考えなければならない」と説いた。

■人事の役割、なすべきこと

特別トークセッション【大阪】
  遠藤氏は、人を育て活かすのが人事部門の役割だが、多くの企業ではそうはなっていないのではないかと言う。ではどうすればよいか。
「簡単に言えば、人事の仕事とは『会社が好き』という社員をどれだけ作れるかということ」と遠藤氏は続ける。「会社が好きであれば人は喜んで働く。そうすれば業績もおのずと上がる。そうなるためには、人事自身が会社を心から愛さなければならない。そしてそれを公言することだ。ここにいる皆さんは、会社を愛していますか?」会場には一瞬ハッとした雰囲気が流れた。
 尾平氏は、「会社・事業という神輿を担ぐ人間をどれだけ増やすことができるかが、人事部門の本来的な役割ではないか」と指摘した。会社はトップの考えだけで動くわけではない、それぞれの階層で「我がこと」として事業を動かし、神輿を自ら担ぐ社員がいてこそ会社は発展する。そのような人財をいかに増やすために、人事部門は現場との距離を詰め、問題意識を共有することが重要だ。現場から人事部門が距離のある存在のように見られているようでは危険な兆候だと、尾平氏は指摘した。

■「人財の見える化」が現場を強くするために必要

特別トークセッション【大阪】
  ショートプレゼンテーションで、尾平氏より「人財の見える化」の重要性が指摘されたが、寺澤氏がより具体的な説明を求めた。
 尾平氏は、「私自身の経験なのだが、従来のキャリアとは異なる部門の長として一人で赴任した際、手元にあったのは組織図と、部署、役職、職歴、評価情報などの人事データ。短期間に新しい事業展開のための体制を作り、彼らとともに業績を創っていかなければならない状況で、新しいリーダーとして必要な“気づき”を与えてくれる人財データはなく、迅速な人員配置ができず苦労した」と言う。そうした中で「人財の見える化」の重要性を実感し、それをITの力で可能にするシステムが提供できれば、役に立つと考えた、とのことだ。
 遠藤氏は、某企業の人事本部長が約5000人の社員の名前と顔を一致して覚えるようにしている話を例に出して称賛し、人事の仕事は社員全員の人となりを把握することが大前提だと強調した。それもしないで異動や評価に関わることはできないはずで、大量の社員を詳細に把握するためにITの力を活用することは良いことだが、あくまでITは手法に過ぎず、大切なのは社員一人ひとりの人生を扱っているのだと意識をしっかり持つことだと述べ、尾平氏もシステムを万能選手みたいにとらえるのは危険で、あくまで意思決定をするのは人です、と続いた。

■人の可能性を信じて、現場を活かすのが人事の仕事

   最後に、二人から参加者の人事にメッセージが贈られた。
 遠藤氏からは、「『現場力』を活かすとは社員の人の可能性を信じることだと冒頭述べたが、人事こそが社員全員の可能性をいちばん信じるべきだ。社員の可能性を信じて活かせていないとしたらそれは自分が悪いのだというくらいまで思ってほしい。そうすれば現場にその思いがきっと伝わるはずだ」との言葉があった。
 尾平氏は、「環境変化が激しい中で、現場を活かし、人財を活性化させることが人事の役割。そのために重要なのは社員一人ひとりが活躍することで、『人財の見える化』『組織の見える化』が必要だ。私たちもその活動を支援していきたいと思う」と締めくくった。
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