◆大学時代の成績は入社後に関係しない

 わたしは、人材育成に関わる多くの調査研究に携わり、膨大なデータを分析してきた。それらを参照しつつ、本日は私が会長を務め、様々な大学や企業に参加頂き、三菱総合研究所事務局で進めてきた「就業力研究会」が、若手社会人1500人を対象に進めてきた調査研究をベースに話したい。若手社会人の出身大学は、早慶MARCH関関同立などの20大学だ。
「成果を発揮する若手ビジネスパーソンに共通する学生時の行動傾向と採用の観点」
就職についての議論は多いが、科学的な分析は少ない。充実したキャリアを得るために学生は大学で何を努力したらいいのか? 大学は就職支援として何をすべきなのか? 企業は高いモチベーションを持つ人材を得るために採用時に何を確認すべきなのか? このような課題に関する指針を述べたいと思う。
 確認すべきものとして大学の成績があるが、これはあまり関係ない。学生時代の学習熱心度や、卒業時の成績は地位とは相関しないという結論を得ている。しかし、現在の知識獲得は地位と関係するという結果が出ている。この「大学時代の学習熱心度と成績は入社後に関係しない」という結論はとても重要だ。
 また、コミュニケーション能力が高ければ、リーダーシップ力も高いという結論も得ている。経験的になんとなく相関があると思っていたことをデータが立証している。

◆就職時の進路希望合致度がモチベーションを左右する

「成果を発揮する若手ビジネスパーソンに共通する学生時の行動傾向と採用の観点」
次に採用の観点で、2人の学生を評価してみたい。A君は業界研究を熱心に行い、ITの知識もある。B君は国際交流に関心があり、留学経験もある。2人とも「チームで働く力」を持っているとする。どちらを採用すべきか。
 グローバル化への対応が急務になっているので、B君を採用したいという企業もあるだろう。対象市場がドメスティックだから、A君がいいという企業もあるはずだ。
 就業力研究会の調査から、A君とB君を評価してみたい。まず1500人の若手社会人の中で職場肯定感の強い人、モチベーションの高い人は、就職に際しての進路希望合致度が高い。では、進路希望合致度が高い人はどんな活動をしていたか? インターンや業界研究に取り組んだ学生だ。A君を採用し、進路希望と合致していれば、5年後にモチベーションの高い人材として働いている可能性が高い。
「成果を発揮する若手ビジネスパーソンに共通する学生時の行動傾向と採用の観点」
B君はどうか? 調査結果からは、国際交流に熱心な留学経験者は、進路希望合致度がマイナスになっている。語学力などの能力は高く、異文化体験もあるので、グローバル人材に育つ可能性もあるが、5年後のモチベーションは低いかもしれない。
 「入社して何年も経てば、学生時代の進路希望を忘れて業務に専念する」と企業は考えるかもしれないが、そうではない。入社後かなりの時間が経過しても、進路希望を引きずっている。
 もちろん採用選考では志望動機を確認するが、採用学生の全員が第一志望のはずはない。大学側の進路希望合致度調査では、全体の4割が合致している。逆に言えば6割の学生は進路希望に合っていない企業に就職している。
 企業は進路希望に合致していない学生を採用していることを踏まえ、内定者研修や入社時研修で配慮し、モチベーションを高めていく工夫が必要だ。
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