◆「現場」[問いかけ」「気づき」「クセ化」がキーワード

 トークセッションは、同日午前に行われた高橋教授の講演「21世紀のキャリア」を踏まえたもの。講演を聴いた人から事前に質問を募り、高橋教授に答えていただく形式で行われた。
 質問の多くは、キャリア形成支援に関わるもの。人材育成にはOJTとOFF-JTがあるが、主流はOJT。すべての企業でOJTは行われているはずだ。ただ伝統的なOJTだけで人は育つのか、というのが現代の人事を悩ます疑問であり、課題でもある。
トークセッション「高橋俊介氏に聞きたいことを徹底的に聞く! 」
HR総研所長・寺澤が高橋教授に提示したのは、HRサミットの聴衆から得たアンケート結果。「OJTがこれからも人材育成の中心」とする回答は43%と半数に近いが、「OJT中心の人材育成はすでに限界」とする回答も41%あり、拮抗している。
 高橋教授の回答は「OJTの定義によって有効性は変わってくる」というもの。先輩が若手に業務を教える縦型OJTは役に立たない。古いタイプのOJTは「OJTという名の放置プレイ」と揶揄されることもあるくらいだ。
 しかし、「どうしたいの」「どうしてそう考えたの」という問いかけを発し、若手が気づきを得る「内省支援」は効果がある。新しいタイプのOJTは体系的学習を可能にし、応用力を養うと高橋教授は言う。
 OFF-JTも変わる。従来型は現場と切り離された場所で行う座学だったが、新しいOFF-JTは現場とリンクする。そして気づきを「クセ化」する習慣が身につくようにする。
 OJTとOFF-JTという呼び名はこれからも使い続けられるだろうが、両者とも「現場」「問いかけ」「気づき」「クセ化」がキーワードになる。

◆雇用を保障できない時代のキャリア自律

トークセッション「高橋俊介氏に聞きたいことを徹底的に聞く! 」
「キャリア自律」も大きな人事課題だ。最近よく使われるようになった言葉で、絶え間ない変化の中で、自分で切り開き続ける力を持つのがキャリア自律だ。高橋教授は「業種によってキャリア自律が重視されるようになった時期は異なる」と説明した。キャリア自律は、まず電機・IT業界で人事課題として意識され、5、6年後に金融にも広まった。
 キャリア自律を社員に求める背景には、雇用の保障の前提である事業の継続が困難になっていることがある。かつて日本の家電業界は世界にテレビを供給していたが、価格が下落し、販売不振に陥り、単独ではテレビ事業を継続できない窮地に陥っている。自動車は摺り合わせ型産業と言われたが、EV化が進めば組み合わせ型になり、産業構造が変化する可能性がある。
 しかし中高年のキャリア自律は難しい。入社3年以内の若手社員の仕事観は高いが、次第に下がり、40歳前後がもっとも低くなる。仕事観の低さを説明する説はいくつかある。
トークセッション「高橋俊介氏に聞きたいことを徹底的に聞く! 」
代表的なのは、歳を取れば下がるという「年代説」、もう一つの説は、バブル入社組で上に団塊の世代がいたのでチャンスを与えられなかったという「世代説」である。
 いずれにしても中高年の「学び直し」は困難で、高橋教授の知る例では、50歳のエンジニアを対象にした3カ月の研修で、職種を転換できた人は1割にとどまった。しかし早くから始めれば確率は上がり、40歳なら5割が職種転換することができた。
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