「ダイバーシティ」、「一億総活躍」が叫ばれる昨今、固定的な価値観に縛られている組織や人材は、やがて淘汰される危機に立たされている。そこから脱却する方法として、「キャリア・ビオトープ」という概念を提唱したい。
ビオトープとは?
人材と働き方の多様化(多様性)を活用した企業の競争力強化のキーワードとして、「ダイバーシティ」が重要視されるようになって久しい。他にも社会的課題にまつわる用語として、少子高齢化、労働力不足、人材の流動化、グローバル化、価値観の多様化、女性はもちろん高齢者・障がい者・外国人等さまざまな人材の活用、一億総活躍社会…といったものがあるが、同様に言えるのは、一つの固まった価値観だけで組織を運営するのは難しい時代であるということだ。
そうしたダイバーシティが求められる時代において、私は「ビオトープ」という考え方を連想する。
ビオトープとは、ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルが提唱したのは始まりと言われ、ギリシャ語の「bio(ビオ:命)」と「topos(トポス:場所)」との造語で、「さまざまな生き物が共生できる人工的な場所」をいう。なお、環境先進国であるドイツの連邦自然保護局は、このビオトープを「有機的に結びついた生物群、すなわち生物社会の生息空間」と定義している。
工業化により生態系が破壊されていた1970年代から、生態系保全を目的としたビオトープがヨーロッパを中心に造られていった。近年では日本でも、さまざまな場所でビオトープが造られている。
例えば大阪梅田のスカイビルには、都心の真ん中に人工的に造り出されたビオトープがある。近代的なビルの庭に、約50種類、2,000本超の樹木が立ち並び、池や棚田、畑までが人工的に造られている。たくさんの野鳥や昆虫、魚などの動物も生息しており、都心のオアシスとなっている。
このような事例に限らず、日本では現在、各家のベランダや庭、ビルやマンションの屋上、学校の校庭などに、小規模なビオトープが見られるようになった。
ダイバーシティー時代の組織とキャリア
以下、この「ビオトープ」という概念を、会社という組織に当てはめ、その特徴を一つひとつ検証していく。▼「ビオトープ」を構成しているのは、「環境」と「多様な生態群」である。
これを「ダイバーシティ」に当てはめて考えると、「会社」という組織が「環境」(人工的な樹木、池、棚田、畑など)であり、そこで働く多様な人材が「生態群」であると言えよう。
▼「ビオトープ」の重要な点の一つは、「多孔質な空間」であることである。
昆虫学者の杉山恵一氏によれば、「多様な生物が棲息する環境は共通して、穴や隙間がたくさんある多孔質」であるそうだ。これを「会社」という組織に当てはめると、多孔質な組織とはどういう組織か。「多様な人材を受け入れ、かつ活性化できる組織」と言えないだろうか。
▼「ビオトープ」は人工的な生態系を形成するから、その中での「食物連鎖」、「弱肉強食」も自然と発生する。
しかし、環境は人工的にコントロールされるため、種の絶滅ということは起きず、むしろ生態系は活性化する。
これを「会社」という組織に当てはめると、社員はほどよい競争の中で組織を活性化することになる。
▼「多様な生態群」から見ても、「多孔質」な「ビオトープ」は共存共栄しやすい。
これを個々の「キャリア」に当てはめると、社員個々が多様なキャリア形成を行いやすくなることに繋がるだろう。
――これらの例えは、何れも理想論のようにも聞こえるかもしれない。しかし競争力のある活性化した組織には、いずれも「ビオトープ」にある要素が含まれているように見える。
いや逆に言えば、組織は「ビオトープ」化しなければ、生き残れないかもしれない。ビオトープに対義するものとして、日本の「盆栽」がある。盆栽は、職人の感性、価値観を反映したもので、それが人に「美」を感じさせる。ただその中で、多様な生態系は存在し得ない。
目指すのは美を追求した組織でなく、生き残るためにビオトープ化した組織。ビオトープには、環境(組織)と、多様な生態群(個々の多様なキャリア) が必要である。私は、ここに「キャリア・ビオトープ」という概念を提唱したい。
これから何回かに渡って、「キャリア・ビオトープ」について、詳細を論考してみたい。
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