明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科教授 野田 稔氏
カシオヒューマンシステムズ 代表取締役社長 尾平 泰一氏
モデレーター:HRプロ代表 寺澤 康介

2012年6月12~15日に開催されたHRサミット2012において、
組織の活性化について詳しい明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科教授、野田稔氏と、日本HRチャレンジ大賞の人材サービス特別賞を受賞したカシオヒューマンシステムズ 代表取締役社長、尾平泰一氏をお招きし、トークセッションを実施しました。
お二人のショートプレゼンによる問題提起からスタートし、後半のトークセッションでは白熱した発言が相次ぎました。

<ショートプレゼンテーション>

■野田氏「ミドルマネジャーは多重責務者」

特別トークセッション
  野田氏はミドルマネジャーの変質を問題とする。現代のミドルマネジャーの9割近くはプレイングマネジャーだ。彼らはルーティンの業務を抱えながら、育成、イノベーションと多くの職務を抱える「多重責務者」と言える。この状態を解決するキーワードは、役割分担だ。野田氏は、イノベータ本人、事業創造支援人財、フォロイング・リーダーという3つの役割が必要と説く。
 また野田氏は、「プロジェティスタ」という人財モデルも提唱した。プロジェティスタとは、元々イタリアの熟練技術者をさす。企画開発から生産、販売、マーケティングに至る、ビジネスプロセスのすべてに関与する超・多能工だ。イタリアでは独立した専門職として存在しているが、野田氏は社内プロジェティスタの育成を提起し、日本のミドルマネジャーを活かし、組織を活性化する手法として提案した。

■尾平氏「チェンジリーダーが組織を発熱させる」

特別トークセッション
 野田氏に続いて登壇したのは尾平氏。まず人事課題を整理して見せた。いま企業を取り巻く環境が劇的に変化し、従来の仕組みでは事業が上手く展開できなくなっている。コト(仕組み)を変えるには、ヒト(リーダー)が変わるしかない。チェンジリーダーこそが組織を発熱させ新しい仕組みを再構築し、事業の“成果”を産む。
 チェンジリーダーに求められるコンセプチャルスキルは、仕事への真摯な取組みの積み重ねによって育成される。しかし本来の人財育成実践の場であるはずの現場におけるOJTが人財の硬直化により崩壊の危機にあり、意図的にそのような場を作らなければならない。これから求められる人事部の役割は、事業部門(現場)がコンセプチャルスキル育成を実践できる環境と、この実践を支援する人財と組織の“見える化”の仕組み作りや、リアルタイムでの現場で必要な人財情報を提供することではないか。

<トークセッション>

■今なぜ、組織と人との新たな関係が必要なのか

特別トークセッション
 トークセッションでは、モデレーターの寺澤氏がまず「組織と人の新たな関係を構築する必要があるのではないか」と問う。これに対し野田氏は次のように現状を分析する。「20年前から関係が変わった。昔は“全身全霊で会社のために働いてくれ。悪いようにはしない”と言っていた。いまはなかなか最後まで面倒を見られない。社員は個として会社と対峙し、主体的、自律的な自分を見つけなければならない。しかしそういう制度、仕組みになっていない」。
 続いて尾平氏が語る。「昭和60年前半までは、多忙で家に帰れないようなハードワークも多かった。しかし当時は各企業とも業績が伸びており、会社に尽くし頑張ってついていけばポストも給料もどんどん上がっていった。しかし成長が止まった現在、企業ではリストラが行われ新入社員も雇用できず、給料もポストも減り、部下を育成したことがない、決断を下したことがない、そんなミドル層が増加するというような悪循環に陥っている」。

■ミドルの活性化を阻む要因とは

 寺澤氏は「人事施策の変革が迫られているが、なかなか難しいようだ」と変革の困難さを語る。
 尾平氏は「まず、経営が方向を示し、人事部と共に変革を開始すべき」と道筋を示す。野田氏は「経営が覚悟を示す」とともにトップの決断が必要であることを強調する。
 しかし、トップが決断してもそれだけでは足りない。ミドル層が崩壊しかけているからだ。現在40歳代半ばに差し掛かっているミドル層は保守傾向が強く、自らの成功体験を壊した経験がない。だからミドル層をチェンジリーダーに導く施策が重要だが、時に改革を阻む者がいる。ミドルの上司たちだ。尾平氏は「チェンジリーダーの選抜と同時に、昔の成功体験にしがみついている旧幹部を退場させることが重要。彼等は意識、無意識に関係なくチェンジリーダーの挑戦を阻害する。」と主張する。
 野田氏は、組織改革を阻む古い幹部たちを「老人ホームに入れたい」、それがかなわないなら「若い人を外に出したい」と尾平氏に同調する。音楽業界のある企業では大物の高齢プロデューサーと若手プロデューサーを「分ける」ことで成果を上げた事例があるという。

■人財情報の活用例を野田氏が解説

特別トークセッション
 日本企業はピラミッド型組織だが、もっと組織を柔軟にする必要がある。そのためには、適材適所の施策を可能にする人財情報を集約し活用できる仕組みが必須だ。野田氏が過去に在籍していた野村総研では、当時アナログの紙メディア「顔名(かおな)ブック」なるものが存在し、社員のプロジェクト履歴がわかるようになっていた。これを活用することでプロジェクトに適任な人財を集められたという。作成するのはそれほど難しいことではない。情報は本人に申告させ、必ず仕事のエピソードを書き込ませる。そして上司が一言コメントを添える。これだけでも立派な人財情報として機能するが、今の企業においては電子化して活用することが絶対に必要と野田氏が解説する。

■人財マネジメントでは継続的なフォローが重要と尾平氏が指摘

特別トークセッション
 人財マネジメントにおけるIT活用の有効性について解説するのは尾平氏だ。まず「ITを入れたからといって何か向上するわけではない」と触れた上で日本企業の人財マネジメントの課題を指摘する。
日本企業では採用や研修時にアセスメントが行われているが、多くの企業ではこの結果(人財情報)がその後の人財育成や配属先で活かされていない。またこれらの情報は研修結果なら研修担当部署というように、縦割りの組織で断片的に管理されているので、入社から人財の成長度合いや強みを把握できてない。つまり人財の育成や成長を促すための継続的なフォローと長期的な視点に欠けているということだ。
ITを活用することで採用、研修、評価といった人財マネジメントで得られた人財情報を簡単に集約、これを社内で共有・活用することができ、人財の育成や成長を継続的に「見える化」することでより実践的にフォローすることが可能となる。さらに人財マネジメントのPDCAを回すことを支援することでその向上へつなげることができる。

■企業を変られる要が人事部。重要な使命を担う人事部の方々へエールを送る

特別トークセッション
 「トークセッションを締めくくる最後の一言を」という寺澤氏の要請に対し、野田氏は「人財育成では関連会社で経験を積ませるのが良い。出たり入ったりさせて人を育てる」と経験の重要性を指摘した上で、「企業を変える要(かなめ)が人事。正しい志を持って変革に挑んで欲しい」と人事へエールを送った。
 尾平氏は「人財マネジメントのゴールは、事業で成果を出すこと。経営トップ、事業部門と一体になって、是非とも競争優位の組織風土を作ってください」と会場の人事関係者に最後のメッセージを送った。
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